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92 魔王の呪い

 魔王の配下を倒したキューラ……。

 そして、もう一人の配下であるクリュエルはどうやら戦意を失った様だ。

 それどころか、キューラに薬を手渡し治療を促してくれるのだった……。

 嫌な予感は的中する確率が高いと思うんだが……今回もそうだった。

 トゥスさんはクリュエルからもらった薬を早速塗ってくれたんだが――。


「ま、ま…………沁み!?」


 少し塗られた所で俺は思わず彼女に待ってくれと言った。

 正直な話、沁みるどころでは無い、痛いどころでもない。

 現に俺はこの後、気を失うんじゃないかというぐらいだった……寧ろ良く意識を保っていた。

 はっきり言ったらいっその事、意識を失った方が楽だったかもしれない。

 というか多分、いや絶対、以前の身体……つまり前世だったらそのまま死んでいただろう。

 この世界の身体は魔物が居るからか、痛みに強い様な気がする。

 もしあっちと同じだったら――――!?


「お嬢ちゃん、ぶつぶつ何か言ってるけど、アタシの悪口じゃないよな?」

「ち、ちちちちち違う!? だからもうちょっと優しくしてくれって!?」


 そんな事を言うとクリエとクリュエルは何故か顔を赤らめつつトゥスさんの方へと向かって行き……。


「わ、私も塗りたいです」

「塗る!」


 おい待て……なんだその拷問。


 この後、俺がひどい目に遭ったのは言うまでもなかった。






「まだ沁みる……」


 林を抜けようと歩いている時に俺は思わずつぶやいた。

 傷が瞬時に治るなんて都合のいい薬がある訳がない、そんなことは分かってはいるが……チェルの魔法を受けた後ではあってもいいんじゃないか? と考えてしまうぐらいだ。

 というか、ここまで沁みると流石にな。

 因みに服だが、クリエがこっそり同じものを何着かかってくれていた様だ。

 まさかすぐに燃やすことになるとは思わなかったが、助かった……。


「むやみにその魔法を使うお嬢ちゃんが悪い」

「そうです! 危ない事はしないって約束だったのに!!」


 確かにそうなんだけどな。

 俺はただただがっくりとしつつ腕を庇う様に包んでくれているライムを見る。

 そういえばこいつは痛くないんだよな……。


「ところで……」


 そんな事を考えているとクリエが何処か戸惑ったような表情で俺の隣を歩く少女へと目を向ける。


「クリュエルちゃんは一緒に来るんですか?」


 先程はちょっと不満もあったようだが、クリュエルは可愛らしいと言えば可愛らしい……お気に召したのかどこかニヤケ面のクリエは少女に問う。


「…………」


 だが、どこか困った様な表情で黙々と歩みを進めるクリュエルにクリエは困ってしまったのか今度は俺の方へと目を向けてきた。


「なぁ、クリュエル」


 俺の言葉にピクリと身体を振るわせた少女はおずおずと言った態度で見上げてくる。


「ついてくるのは構わないけど、大丈夫なのか?」

「もう、捨てられた……本当は分かってた……」


 そうか……ならもう戦うつもりはないってことだろうか?

 とにかくそうなら、頼んでみるか……。


「分かった、それで一つ頼みがあるんだ、消えた人を戻してくれてないか? 呪いなら解けるだろ? ついでに俺の呪いも」


 俺の言葉に首を横に振るクリュエル。


「ど、どうしてダメなんですか?」


 クリエも納得できないと思ったのだろう、再びクリュエルに声をかける。


「あの呪いは世界から存在を消す。私は消したことを覚えてるけど、消した者は覚えてない。だから戻せない」


 なるほど……つまり呪いを解く対象を覚えてなければ戻しようがないって事か……。


「それに、その姿は呪いじゃない、呪いは効かなかった」

「そ、そうか……」


 そう言えばより魔力を使いやすくするための身体になったとかも言われたような気もするな。


「厄介な物を子供に押し付けたもんだね、魔王って奴は」


 トゥスさんの言う通りだな。

 自分の手は汚さず、子供を使う……確かにクリュエルの見た目なら子供が迷い込んでしまったと思い心配するものが多いだろう。

 万が一、何かあっても彼女の強さなら自分で解決し、仕事をこなすだろう。

 だからと言って子供にそんな仕事をさせる魔王ってのは狂ってる。


「…………さい」

「ん?」


 小さな声が聞こえ、俺はクリュエルの方へと目を向けた。

 そこにはまるで悪戯がばれ、怒られるのを怖がっているかのような少女が居た。


「……謝ってるのだと思いますよ、でも……」


 もう、消えた人は戻らない。

 彼女がどんなに謝っても罪は決して消えない。


「…………」


 だが、そんな彼女には行き場がない。

 魔王に散々利用され、失敗したことで捨てられた……今まではそんな事は無いと自分で思い続けてきたのだろう。

 だけど、それも限界を迎えてしまった。

 彼女を守ってくれるものは何もいない……ただ、ゴブリン達だけが彼女を守り心のあり所だったに違いない。

 しかし、そのゴブリンとも離れた。

 恐らくは魔王の手先が現れるという事を知ったからだろう。


「…………なさい」


 謝っても許されることはない、それは多分この子が一番理解している。


「なぁクリエ……どうにかならないか?」

「…………幼くとも起こしてしまった罪は罪です」


 言い辛そうに口にする彼女を見て俺は当然かと思ってしまった。

 でも、このままで良いのか?


「その子を助けたいっていうのかい?」

「そりゃ……利用されてただけなんだ……俺だって許せるわけじゃない、だけどそれでも見捨てられないんだよ」


 ただ、子供が利用されていたのだから助けたい。

 それはただのわがままなのかもしれない、だけど……。


「……なぁ、クリュエル、お前さえ良かったら俺の家に行って家族を友達を守ってくれないか?」

「でも……あそこでも……それにまたゴブ達の様に……」


 恐らくだが、この子は街に向かうつもりはないだろう、途中で別れようとするはずだ。

 たった今言いかけてたがゴブリンの身を案じていたことぐらいは分かった。

 それに、今のこの子ならクリエの張った結界も突破できるはずだ。


「それと、身を隠すなら一応名前を変えた方がいいな……」

「キューラちゃん本気、なんですか?」

「ああ、だって……クリエだって見捨てるならとっくにそう言ってるはずだろ?」


 ここまで何も言わなかったのはただ単に女の子が好きという理由ではないはずだ。


「それは、そうですけど……」

「まったく人が良いというか、何も考えてないというか……」


 そう言いつつ行動に出ないのはトゥスさんも思う所があるのだろう。


「でも……」


 クリュエルは俺の提案が嬉しかったのか、先程よりも柔らかい表情になっている。

 俺達にとっても悪くはない話だ。

 この子は裏切るって事はあまりないだろう、ならこっち側に居てもらえば戦力になってもらえる。

 って、こんな子供を戦力として考えるのはどうかと思うが、実際に強いのだから仕方がないだろう……。


「ファリスって言う名前はどうだ?」


 俺がそう言うとクリュエルは目を丸くした。


「名前を変える必要なんてあるのかい?」

「心の持ちようだって、クリュエルは死んで代わりにファリスが生まれた。ただそれだけだ」


 そう、俺の知り合いやカインの友人を消したクリュエルは死んだ。

 その方が良い、そこに居るのはクリュエルと同じ姿をした別人だだから、この子に罪はない。

 言い訳苦しく、何の解決にもなっていない。

 罪を問われれば逃げようがない……それでも――。


「どうだ?」

「…………うんっ」


 本人は喜んでくれたようだ。

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