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90 ナイフ使いのガルタ

 なんでその魔法を使ったのかは分からなかった。

 しかし、一つだけ分かった事がある。


「…………出来たのか?」


 両腕が焼けるような痛みを感じつつ、俺は魔法が使えたことを確認した。

 状況から察するにどうやらこの魔法を使う条件は瞳だ。

 以前もそうだったが左目が熱を帯びていなければどうやら使えないらしい。

 まさか、この状況ではあの夢に出てきたアウク・フィアランスが力でも貸してくれているのだろうか?

 なんて事を考えつつも俺はガルタの凶刃から身を守る為、燃え盛る腕を交差させる。


「な、なんだ!? その腕はまさか……!! 何故!?」


 何故、というのがどんな意味を持つのかは分からない。

 だが、呪いの象徴らしきナイフは俺へと届くことはなく――俺は素早く右拳を握ると体を捻り……右腕を引き絞る。

 そして、身体全体の筋肉というバネを使う様に拳を放つ。

 しかし、一般人と魔王軍。

 その差は歴然としていた……ギリギリのところで避けられた。

 あと少し腕が長ければ当たっていたのに――いや、関係ないか、結局避けられていただろう……。


「何故お前がそれを使える?」

「何故って言われてもな……」


 使えたのは本当に運が良かっただけだ。

 それにしてもこの禁術――。


「お前は知ってるのか?」


 今度は俺が問うとガルタという男は口を閉ざし、再びナイフを構える。

 2本ではなく指の間に挟む様に8本のナイフを持ったガルタは此方へと向けそれを投擲してきた。


 マズイ――!!


 俺は自分の身を守りつつ何とか4本のナイフを地に落とすことは出来た。

 しかし、数本はクリエ達に向かって行ってしまい……。


「クリエ!!」


 彼女の名を叫ぶとそこには剣でナイフを落としたクリエの姿がある。

 しかし、地面に刺さるナイフは3本、あと一本は何処だ?

 トゥスさんの傍でも――と思っているとトゥスさんは徐に銃の引き金を引き――銃声が辺りに響き渡る。

 俺は彼女が銃を向けている所に思い当たることがあり、慌てて振り返る。

 すると――。


「今回限りだ」


 そんなトゥスさんの言葉に俺は感謝した。

 ナイフが向かっていたのはクリュエルの所だった……それを銃で落としてくれたみたいだ。


「助かった、トゥスさん」

「……ふん」


 俺は改めてガルタへと向き直り、大地を蹴る。

 ナイフをすべて叩き落されたからだろうか、若干反応が遅れた彼の左頬に俺の拳は突き刺さり――。


「まだ、だぁぁぁぁあああ!!」


 続けざまに左拳で顎下から突き上げるようなアッパーをお見舞いしてやった。


「――ッ!?」


 流石にこれでは声を上げることも無理なはずだ。

 最早痛みを感じる事無く、ただただ燃えていく感触だけが残る腕で拳を強く握った俺は――。


「これで……ぶっ倒れろ!!」


 言葉通り、これで最後になってくれと願いながらガルタの腹部に拳を叩きこんだ。

 だが――。


「少々驚きましたが……」


 ガルタはそれに耐えるとゆっくりと起き上がる。

 しかし、俺の腕が燃えていたからだろうか?


「ひっ!?」


 それともこの魔拳の能力に含まれていたのだろうか?

 分からなかったが、ガルタは瞬く間に火だるまになり――その場で悶え苦しんでいく……。


「……へ?」


 俺はただ呆然とその光景を眺めていた。

 殺すつもりはなかった……それに以前にもこの魔法を使った時にこの効果は無かったはずだ。


「お嬢ちゃん早くこっちに来な!!」

「…………」


 トゥスさんが何かを叫んだ気がしたが、何を言ったのかは分からず。

 俺はただただ、ガルタだった火の塊がこちらへと向かって来るのを見ていた。


「キューラちゃん!!」


 そんな時、クリエの声が聞こえ身体が不意に軽くなる。


「ク、クリエ?」


 どうやら彼女が俺を引っ張ったようだ。

 そう理解してから、男の方へと向くと……ガルタは先程俺が突っ立ってた場所に倒れ込んでいた。

 あれは……俺がやったのか? そう思っていると目の前に現れたトゥスさんは眉を吊り上げており、いきなり胸ぐらをつかんできた。


「あれほど使うなって言ったろ!? それに今! 道連れにされてもおかしくなかったんだ、分かってるのかい!?」

「……道連れ……?」


 俺は殺されかけていたのか?

 この時、俺はそんな事も分からなかった……ただ……


「っ!? ぃ~~~~~!?」


 急に体を揺らされた所為か突如痛みを訴えだした両腕に俺は大粒の涙を流す。

 それを見て慌てたのはクリエだ。


「い、今すぐに傷を癒しますから!!」

「駄目だ! クリエお嬢ちゃんはまだ魔法を使えない、此処でぶっ倒れても知らないよ!」

「そ、そんな! でもこの怪我じゃ――それに変な病気にかかるかもしれませんし!」


 二人の声が遠く……聞こえる中、俺は一つの事に気が付き痛みを訴える手でクリエの服を掴む。


「キューラちゃん?」

「逃げ……ろ……」


 それは……ゴブリン達が俺達を囲んでいたことだった。

 このままではクリエにまで危害が加わる。

 辛うじて呟いた声は彼女に伝わったのかは分からない……ただ……。


「それは……見捨てろって事ですか?」


 ただ……俺はクリエが本当に怒った声を始めて聞いた気がした。

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