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89 乱入者

 クリュエルとの戦い。

 それはキューラにとって厳しいものであった。

 少女に攻撃は届かず、会話をしようにも冷静さを失っている。

 そんな戦いの最中、キューラへと一本のナイフが投げられるのだった。

「お前は何者だ?」


 俺は現れた細身の男に問う。

 すると、彼は仰々しい礼をし――。


「ガルタ……そう呼ばれており、そう自覚している」


 なんなんだコイツは?

 俺はこいつに対し、怒りと不快感を覚えつつ剣を握る。

 その時――。


「キュ、キューラちゃん!」

「ん?」


 クリエの声に俺は反応し声だけを発する。

 ガルタと言う奴から目を離すのは危険だ……そう思ったからだ。


「このナイフ、毒ではないです! これは……魔法? でもそんな……魔法を込める道具なんて精霊石ぐらいしか!!」

「ご名答でございます勇者殿、それは精霊石のナイフ……我が主の呪いで我が呪いでもある魔物化の呪いが封じ込めてあります」


 ワザとらしい態度で何か苛つく奴だな。


「馬鹿な! エルフがお前らに味方をしてるっていうのかい!?」


 そう叫んだのはトゥスさんだ。

 そう言えば確かにそういう事になるな……。

 精霊石を作れるのはエルフだけでマジックアイテムも同じだ……。

 いや、待てよ? 魔法を込めることはエルフが立ち会ってくれれば誰でもできるんじゃないか?

 とは言ってもエルフが居なければ何も出来ないのが精霊石だ。

 つまり、彼女の言う通り魔王側には協力者としてエルフが居るって事になる。


「ええ、でなければ出来ないのは貴女だってご存知でしょう?」


 そんな……魔王側にエルフが居るなんて……それにしても魔物化の呪いだって?

 じゃぁ、クリュエルが掛けられているのは――。


「クリュエルはこの呪いにかかったって事か……」


 俺がつい口に出すとガルタは笑い始め、その声は段々と大きくなっていった。

 そして……ひとしきり笑った彼は俺へと目を向け、ニヤリと笑う。


「ご名答、確かにクリュエルはその呪いにかかった。しかし、命を狙われたというのにそいつの心配ですか?」

「……確かに命は狙われたさ、だけどよ最後まで、いや今も魔王を信じてた奴にこの仕打ちは無いんじゃないか?」


 どう見たってクリュエルは忠実な部下だ。

 裏切った訳ではない、俺が生きている以上、失敗したというのは確かなんだろうがそれは魔王の呪いが効かなかったからだ。


「何を言っている、失敗は失敗、一度の失敗も魔王様は許すことはない。無能は要らないんだよ」

「む、無能って! こんな小さな女の子にこんな事をして良いと思ってるんですか!?」

「いや一応、敵だからなクリエお嬢ちゃん」


 トゥスさんの言う事は最もだ。

 だけど、クリエの言う事だって正しい……そして、俺はクリュエルが悪い事では済まない事件の犯人だと知りつつも、利用されていた事を考えると素直にトゥスさんの言葉を受け入れられなかった。


「お前を倒せばクリュエルの呪いは解けるのか?」

「それは魔王様から賜ったとはいえ今は我が呪い、当然解ける……だが、それがどうしました?」


 つまり、クリュエルを説得する事が出来れば呪いを解くこともできるって事だ。

 なら迷う必要はない!


「なんだよ、魔王って王の名を持っていても部下を大事にしない屑なんだな?」

「なに……?」


 俺の言葉にピクリと反応したガルタ。

 それと同時にゴブリンをかき分け現れたのはクリュエルだ。

 自身の惚れた人を馬鹿にされて怒ったのだろう……だが、そんなことはどうでも良い。


「王とは部下や民を大事にするもんだ! 国なんてのは結局建物だけじゃ成り立たない! 人あってのものだからな! なのにそれをないがしろにするやつが王? そんなのは屑と言われても仕方がないだろ?」

「お前!! 魔王様の事を――!!」


 クリュエルはゴブリンに止められてはいるものの、此方へと近寄ってきている。

 当然だ、彼女は魔王を好きだった……恐らく本当に。

 だが――――


「そんな姿にされても魔王を想うのは素直に尊敬する。だが――」


 俺はクリュエルに向かい一言告げた後にガルタを睨み告げた。


「だがな! そんな奴を見捨てるお前らは屑だ!!」


 俺は決して見捨てない。

 クリエをトゥスさんも……絶対に何があろうとクリエを助け出す。

 諦めたりするものか……!! だからこそ、魔王のやっていることは許せない。

 許しちゃいけない!! 自分の為に尽くす者をまるで”物”扱いするような奴を!! 許せるわけがない!!


「っ!?」


 俺は心の中で強くそう思うと右目に痛みが走った。

 同時に左目には熱を感じる。


「キュ、キューラちゃん!? だ、大丈夫ですか!?」


 クリエは焦り声を上げ、トゥスさんは目を見開いている。


「ま、また……? あの時と同じ現象?」


 ん? あの時……?


 トゥスさんの言葉に俺は首を傾げていると目の前に居たガルタは顔を伏せぴくぴくと震えだし、どうやら笑っている様だ。

 彼が次に顔を持ち上げた時……俺の目に映ったのは化け物じみた笑み。


「お前如きが高貴なるあのお方の何が分かる? 我らが王を屑呼ばわりした落とし前はつけてもらう!!」


 ガルタは両手に呪いの道具らしき短剣を握り、俺へと迫る。

 どうにかして避けないといけない、そう思ったのだが……


「ぃっ…………っぅ!?」


 右目が激痛を訴え始め、開けていられなくなった。

 残る左目で捕らえようにも、追いつかない、それに間に合う距離ではない……どうする?

 そう思い浮かんだ時、トゥスさんの言葉が脳内で繰り返された。

 それはあの時と同じ現象という言葉で……一体なにを意味しているのか? 俺にはすぐに理解できなかった。

 だが……。


「キューラちゃん! 避けてください!!」


 再び俺を庇おうとしているのだろうクリエの声が近くから聞こえ――途端に俺の目の前にはあの時の光景が浮かんだ。

 クリエが倒れている光景が……実際に起きている訳ではない。

 だけど、鮮明に思い出したんだ……そして――。


「――っ!! 精霊の業火よ――」


 俺の口は脳が命令するよりも早くそれを呟いていた。


「な!? お嬢ちゃんよせ!!」


 トゥスさんの制止の声は鮮明に聞こえる。

 しかし、口は止まる事無く……。


「我が拳に宿りて焼き尽くせ!!」


 その言葉は紡がれた。

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