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88 クリュエルとの戦い

 魔王の配下の幼女。

 彼女はキューラに気が付くと自らをクリュエルと名乗り、殺意をむき出しにして来る。

 しかし、その姿は以前の物ではなくどこか魔物の様でもあった……。

 言葉の内容から魔王に捨てられたという事を察したキューラは戦う決意をしつつも、心のどこかで少女を助けたいと思うのだった。

 俺は鞘から剣を滑らせるとそれに気が付いた。

 これを渡された時、確かトゥスさんが細工をしていたと言っていた。

 その理由が分かったからだ。


「精霊石……」


 魔法を封じ込めておくこの世界で唯一のマジックアイテムであり、エルフにしか作れない物だ。

 よくよく考えたら彼女が細工したなら当たり前だ。

 どんな魔法を封じ込めたのかちゃんと聞いておけばよかったな。

 だが、それもすぐに分かるだろう魔法さえ発動させれば――!!


「殺す――!!」


 最早魔物と言っても誰も疑わない姿の幼女は鎌を俺へと振り下ろす。

 何時の間にこんな近くに来ていたのか? そう思う間もなく俺はその刃を避けるとこちらも剣を振るう。

 相手は幼女……とは言ってもこっちを殺しにかかってきているんだ。

 話し合いは出来ないだろう……どうにかして戦意を喪失させないといけない。

 なんて考えて……俺は甘いのかも知れないな。

 そんな余裕はないってのに現に今だって軽く避けられてしまっている。

 この前のは見逃してもらっただけに過ぎなくて、実際にこいつは俺を殺すことは簡単にできるはずだ。

 そして、今は――面白い玩具を見つけた訳じゃなく、その玩具で遊ぼうとしたら罰を受け怒り狂っている。

 言葉もただ殺すという一言だけを繰り返してるに過ぎない。


「っ!!」


 このままじゃ俺は――いずれ……。

 たったの1回、剣を振るっただけで俺は自分の末路が見えた気がした。

 そして、同時に浮かんだのはクリエの顔だ……死ぬわけにはいかない、死んだら駄目だ。

 どうにかしてこの幼女……クリュエルに勝たなければならない!!


 俺は手に持つ剣へと力を伝えるような思いで握る。

 すると……その精霊石の力がなんであるか分かった。

 大した力ではない、見えない刃が出来たり、村雨の様に水を吹き出したり村正の様に妖気を纏ったり……魔拳の様に炎を纏った訳ではない。

 効果はひどく単純だ。


「か……軽くなった?」


 俺は剣士じゃない、魔法使いだ。

 だからこそ、剣に振り回されつつあった……しかし、俺の体躯に合わせると小さなナイフぐらいしか身に着けられない。

 それでは魔法使いとしては致命傷だ……距離を取りつつ戦うのが理想なんだからな。

 だからこそクリエが選んでくれたのは軽い剣だった。

 それでも重く感じてはいたから使う事はあまりない、そう思っていたんだが――これなら!!

 俺はわずかな望みにかけて再び剣を振るう。

 先程よりも速く……鋭い一撃に驚いたのか一瞬反応が遅れたクリュエルには生憎避けられてしまったが、緑色の一本線を腕へと刻むことが出来た。

 

「……あ?」


 呆けた声を出す幼女に申し訳ないと感じつつも、俺はその傷を見て驚いていた。

 もうすでに彼女の身体は人のそれではないのかもしれない。


「み、緑……?」


 彼女も自分の身に起きた現象に目を丸め――。


「あぁああああ? あぁぁぁぁあぁぁぁああぁあああ!!!」


 鎌を手から放し傷をかきむしり始めた。


「な!? 何やってるんだ!!」


 俺が思わず叫ぶのと同時にゴブリン達は彼女の元へと集まり守るかのように囲い始めた。

 トゥスさんやクリエもこれには驚き黙ったままだ。

 なんだよ……コレ……。


「コドモ、守ル……守ラナイト」

「なんだって?」


 トゥスさんはゴブリンの発した声に眉をひそめた。

 そうだ、確かあの時3人は誰が言ったのか分からないと言った。

 つまり、まさか……本当は4人居て消されたのではなく、その時もゴブリンがこの子を守るって言ったのか?

 それなら誰が言ったのか分からないというのも分かる。

 だけど、それなら誰からだ? こいつは強い……あの冒険者が3人がかりで行こうにも殺されるのは冒険者だろう。

 今だって傷をつけられなければ、殺されていたのは俺だったかもしれないんだ。

 魔王に見放され……こんな林の中でゴブリンに囲まれて暮らす? それもおかしくないか?


「誰かに命を狙われてる?」


 俺がその言葉を口にした時――。


「キューラちゃん!! 危ないです!!」


 クリエが突然、叫びながら押し倒した来た。


「な、なななな!?」


 当然慌てた俺は起き上がろうとするが、クリエに拘束され上手く立ち上がれずにいると――。


『トスッ!!』


 という音と共に地面へと何かが刺さった。

 それは――。


「な、なんなんだよ……」


 何かを塗りたくった様なナイフだった。


「惜しいな……そのままクリュエルの奴を殺してくれれば楽だったのに」


 ナイフが地へと刺さったのを確認した後、誰かの声が聞こえ――クリエの拘束が緩み俺は立ち上がる。

 辺りを見回してみるも何も見えないし誰も居ない。

 疑問に思っているとトゥスさんは一本の巨木へと向け発砲した後、舌打ちをする。


「外したか……」


 その言葉が遅いのか……それとも相手が早いのか、俺達の目の前に現れたのはやけに細い男性。

 黒い髪と赤い両目……魔族の男性だ。


「初めまして、勇者ご一行……そして、今日限りでお別れだ」


 やけに丁寧なあいさつの後、ねっとりとした視線を向けてきたそいつは――ゆっくりと顔を動かしゴブリンの方へと目を向け――。


「クリュエルと共にな」


 いやらしい笑みを浮かべた。 

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