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87 林の奥には……。

 情報を手にしたキューラ達。

 彼らは早速、林へと向かう……果たして情報通りゴブリンと少女はいるのだろうか?

「暗いな……」


 林に入って暫くし、そう口にしたのはトゥスさんだ。

 彼女が呟いたとおり林にしては暗すぎる。

 日もまだあるというのにこの暗さは異常だ。


「泉とは少しずれてますが、それだけでこの暗さは考えられませんね」


 やっぱりこの林には何かがある……誰でも分かる様な位には怪しいこの場所を俺達は進む……。


「それにしても、此処は一体なんなんでしょうか? いやな感じがします」


 進んでいくにつれて肌寒く感じた俺は身体を擦りながらクリエの言葉に同意を示す為、首を縦に動かす。

 彼女も同じく寒いのだろう身体を抱くようにしていた。


「クリエ、俺達の傍から離れるなよ?」


 不安そうな彼女を見て俺は思わずそう口にすると彼女はその顔を見事なまでに歪め……。


「うへへ……分かりました、一生離れません」

「い、いやそういう意味じゃないんだが……」


 何故一生になった? 流石にそこまでは面倒見れないぞ?

 俺はしっかりとそう言ったはずなんだが、クリエは嬉しそうに笑みを浮かべるだけだ。

 そんな時、トゥスさんがすっと腕を伸ばし――。


「二人共イチャつくのはそれ位にしておきな」

「イチャついては無いからな!?」

「元々男で戻る方法を探してるんだろ? なら良いじゃないか」


 戻るつもりは戻るつもりだけど……なんか、そう言われると微妙だな。

 クリエの事は嫌いではない、寧ろ男になれば襲われる可能性は――。


「キューラちゃんだったら例え男性でも構いませんっ!」


 ありそうだな……。


「はぁ、とにかく二人共落ち着きな」


 がっくりと項垂れた俺を見ての溜息なのか、それとも別の何かなのか、気にはなったがトゥスさんはそう言うと一方を指差した。

 そこへと目を向けるとその正体に俺達は気が付いた……そう、そこに居たのはゴブリンだ。


「沢山、居ますね?」


 クリエの言う通りそこには何匹ものゴブリンが居た。

 そのゴブリン達はまるで軍隊の様にきびきびと動いており、その様子からしても何かおかしい事は明らかだ。

 確かにゴブリンは賢く、仲間と協力をする種族。

 しかし、人間の軍のような動きは取らないのだ……だが、目の前に居るゴブリンはそれをしている。

 つまり――。


「誰か命令してる奴が居るって事か?」

「お嬢ちゃん、鋭いね、恐らくその通りだ」


 そうとしか考えられないよな……その命令している奴がゴブリンならいい。

 だが、もしかしたらあの幼女かもしれない。

 とにかく、暫くは様子を見るしかないか……。


 そうしてしばらく見ているとゴブリン達は食料を集め、林の奥へと入っていく……どう見たって彼らが食べきれる量じゃない。


「主への土産? とにかく追ってみるしかない様だね」

「ああ……」

「き、気を付けていきましょう」


 俺達は十分にゴブリン達との距離を取り後を追う。

 すると暫くし見えてきたのはゴブリンの作ったものだろうか不格好な小屋だった。

 小屋と正面には壁は無く、屋根があるだけのものだ。

 それでもゴブリンには恐らく高価な物。

 その事は理解しているのだろう、その小屋にある不格好な椅子に満足そうな表情で腰かけていたのはあの幼女だった。

 だが、差し出された食料に目をくれた瞬間、彼女はその表情をかけ、容れ物ごと食料をひっくり返す。


「誰かを連れて来てる!! 使えない魔物……」


 その声は思わず背中がゾクリとするような物で彼女は此方を睨みつつ漆黒の鎌を作り出すとこちらを睨みつつ目の前のゴブリンの首を寸分違わずに切り落とした。

 そして彼女はその小屋から出てくると顔を地面へと向けながら俺達の方へとゆっくりゆっくりと歩み寄ってくる。

 だが、俺と目が合うとその表情を歪ませ笑みとも見える顔に変わった。


「魔王様の為、今度こそは殺す……消せないなら殺す……殺す……」


 な、なんだ?

 以前とは様子が違う? 前はもう少し違ったような気がするが……今回は壊れた機械の様に同じ言葉を繰り返してる。

 そんな事を悠長に考えていると彼女はその顔をこちらへと向けた。


「「「――っ!?」」」


 近づいて来てようやく彼女の姿を捕らえることが出来た俺達は息をのむ……魔族の証である赤い両目、黒い髪は同じだ。

 だが、その顔には無数の傷痕があり、時折血が噴き出ていた。

 それだけじゃない、傷を覆っているのだろうか? 良くは分からないが、緑色の鱗の様な物が見え……その鱗はどんどん広がっていくまるでその姿は……。


「ま、魔物?」


 クリエが口にした通り、何処か魔物の様でもあった。


「お前の所為だ……お前を殺せなかったから、魔王様から罰を……お前の所為でお嫁さんに……」


 あれが、魔王の呪い? そんな馬鹿な呪いは目の前に居る人間にしか掛けられない……なのに呪いの効果が出ているという事は魔王はこの幼女を最初から利用してたってことか?

 自分への気持ちを知っていてそれを利用して……。


「声が聞こえたんだ、たった一人も消せない私の事、クリュエルの事もういらないって――――!!」


 彼女の悲痛な叫びを聞き、俺は思わず身構える。

 ただ分かった事は魔王って奴は相当ヤバい奴だ……人を利用することを何とも思っていない。

 そして、自分の部下を道具としか考えていない。


「クッソ……」


 俺は名も顔も知らないソレに向け、行き場のない怒りを覚えた。

 この子は本当に魔王を慕っていた。

 だからこそ、殺しだってしてきた……それをたった一人、つまり俺を殺せなかっただけでこの仕打ちだ。


「魔王…………これが人のする事ですか……!!」


 クリエも怒りに身を震わせているのだろう、拳を握り口元をきゅっと強く閉じていた。


「魔王の奴を倒す決意をするのは結構だけど、今は目の前の敵の事を考えな!!」


 トゥスさんは銃を構え、発砲すると一匹のゴブリンがクリュエルと名乗った少女の前に入り盾になる。

 彼らはどうやら彼女を守るつもりなんだろう……。

 いざ戦うとなったらゴブリン達も相手にしなければならないのか……。


「……二人共、ゴブリンを頼む、俺はあの子を押さえる!!」


 だが、俺はあの子と決着をつけなければならない。

 それが、先輩やカイン達の為だ………………。


「大丈夫なのかい?」

「キュ、キューラちゃん……?」


 それは、分かっている。なのに…………何故俺は彼女を見て魔王に怒りを感じる?


「……ああ、こんな所で死なないさ」


 ……なんで俺はこの子を助けたいなんて考えているんだ?

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