86 謎の少女
酒場で得られた情報。
それは精霊の泉で少女を見かけたという物だった。
しかし、酒を飲んでるからか、それとも最初からあいまいだからか……キューラは誰が行ったかもわからない言葉が引っ掛かるのだった。
たった今酒場で得られた情報……俺はミルクへと口をつけながら考え込んだ。
気になるのは誰が子供を助けようと声をかけた事……そして、それを知らない冒険者達。
考え過ぎなのかもしれないが、どうしても頭に思い浮かぶのは奴だ……。
「キューラちゃん、どうしたんですか? 怖い顔をして……」
「いや……」
カインみたいに少しでも覚えてくれていれば分かるんだが、彼らはそうではないのだろうか?
「あの、3人はいつも3人で冒険をしてるのか? 誰か入れたりしないのか?」
「ん?」
俺の言葉に首を揃って傾げた彼らは――。
「いや……俺達は3人だエルフやドワーフ、混血の仲間が欲しいとは思ったけどなかなかいい人材が居なかったんだよ」
う~ん……結局、分からないな、でも最悪の状況は考えておいた方が良さそうだ。
「何か気になるのかい?」
「ああ」
ここで話せる内容ではない、だからこそ俺は頷き答えると――。
「取りあえず、問題の所に向かってみよう」
「え? あ、ああ」
俺はミルクを一気に飲み干すと店主に3人分のお金を払う。
「毎度っておいおい、勇者ご一行だろ? もっと安くていいぞ!」
「そうか? でも払ったものは引っ込めるのは出来ない、情報料として貰ってくれ!」
俺が店主にそう告げると横で騒ぎだしたのは樽3人衆だ。
「おお太っ腹だな! お嬢ちゃん!」
「でも、おやっさんじゃなくて俺達のお蔭で情報が手に入ったんじゃないか?」
「そうだぜー! なー?」
確かにそう言われてしまうと正論でしかないな……仕方ない。
「んじゃこれで彼らに好きなもんを飲ませてくれ」
俺はクリード王から報酬をいただいているし懐は温かい。
ここで金払いを良くして置けばおのずとクリエのイメージも良くなるかもしれない。
そう思い、糸目をつけず金を置くと――。
「また、凄いお嬢ちゃんを連れてるな勇者様は!!」
店主は嬉しそうに大声を上げ、笑い声を店中に轟かせた。
酒場の店主達に別れを告げた俺達は早速問題の林へと向けて歩き出す。
とはいってもまだ門を抜けた所だ。
一応彼らに地図に印をつけてもらったので確認すると、確かに精霊の泉があった場所だ。
「よし、場所も確認をしたし、行くか!」
「はい! 女の子を早く助けてあげましょうね!」
「そうだね、何かあってからじゃ大変だしね」
二人はそう言うが、俺は素直に頷くことは出来なかった。
理由は簡単だ、この先何があるか分からないからだ……そう思いつつ俺は話を切り出した。
「クリエ、トゥスさん……聞いてくれ」
二人は俺の方へと目を向け、クリエは小首を傾げ、トゥスさんは何か疑うような表情でこちらへと近づいて来た。
「そう言えばお嬢ちゃん、確か酒場でなにかあるって言ってたね」
「ああ……」
俺は辺りに誰も居ない事を確認し、告げる。
「今回の件、子供がそこに居たって言ったろ? 魔王の配下の奴が関わってるかもしれない」
「ん? 子供と魔王がどう関係あるんだい?」
そういえば言ってなかったな。
俺はトゥスさんにこれまでの経緯を伝える。
最初から最後まで全部だ……そして、それが理由で俺が従者になった事も――すると、彼女は怪訝な表情のまま。
「男が女にねぇ……」
「いや、今は其処は良いんだ……問題は消された混血は他人の記憶からも消える……例外もあるみたいだが……」
この際、俺が男だったかは問題はない。
問題はあの人達が子供が居るというのを誰が言ったのか分からないって事だ。
本当に分からないだけなのかもしれない。
だが、もしそれを言った人が居なくなっているのならばあいつの所為なのかもしれない。
そう思うと疑いがどうしても晴れないんだ。
「つまり、この先女の子……魔王の配下と戦うって事ですか?」
思いっきり嫌な顔をしてるな、クリエ……いや、まぁ彼女の性格から考えれば仕方のない事なのかもしれないが……。
「可能性はある」
「そ、そうですか……」
俺の言葉にクリエはがっくりと肩を落とすのだった。
問題の林へと辿り着いた俺達は辺りを注意深く観察する。
どうやら目に見える所にはゴブリンは居ない。
しかし、彼らもまた人並みの知能を持つ魔物だ。
どこかで俺達を監視してる可能性は高い……。
「…………」
だが、それを気にし過ぎて前に進まない訳にはいかないんだ。
「行くぞ……二人共」
俺はクリエとトゥスさんにそう告げ、林の中へと足を踏み入れた。
もし、此処で奴と会うのなら……この手で決着をつけよう。
クリエに何と言われようが、それが消えてしまった人達への手向けになるはずだ。
俺の記憶にも残っていない目の前で殺された人やカイン達の友人の手向けに……。




