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8 契約

 勇者クリエにより、性別を確かめられたキューラ。

 そして、呪い事を話すとクリエはキューラを従者として連れて行くことを決める。

 キューラは無事、勇者の旅について行ける事になったのだった……。

「では、従者の契約を結びましょう」

「従者の契約?」


 勇者クリエより告げられた言葉に俺は首を傾げる。

 何の事だ? と思いつつも考えてみると心当たりがある物があった。

 勇者の旅に付き添う者……つまり従者にはその証となる彫り物、タトゥーみたいな物を入れる必要があるんだったか? つまり、それを今からやるって事か……。


「い、痛いのか?」

「痛い? いえ、痛みは感じないと聞きます」


 そうなのか? いやでも顔や腕に彫るって言うのは怖いな……特別な理由が無ければ避けたいものだ。


「その……それってやらないと駄目か?」

「ええ、だってそうしないと……下手をしたら勇者の従者を名乗った詐欺師と言われ極刑ですよ?」


 なんでそうなる!? というか従者が従者を名乗っちゃ駄目なのかよ!?


「驚くのも無理はありません、従者は危険な旅について行く存在です……勇者同様の扱いを受けれる場合がありますので」

「でも、結局彫り物するだけなら同じだろ? 似たような物を彫って従者だーって名乗ればそれで偽れるんじゃないか?」


 俺がそう言うとクリエは首を傾げ……。


「いえ、魔法による繋がりを得るのです。必要な時に魔力を込めるだけで浮き出るんですよ、恐らく彫り物というのはその時に見える物が彫り物の様に見えるのでしょう」


 あれ? 刺青じゃないのか?


「へ? じゃぁ本当に痛くない?」

「はい、大丈夫ですよ」


 なら良いか、俺はクリエの手招きに応じ、目の前まで行くと彼女は俺の首筋へと手を当てる。


「女の子なんですから顔は避けておきますね」

「いや、俺は男なんだけど?」

「じっとしててくださいね」


 無視かよ!? いや、確かに身体は女だけどな……。

 そう思うと何かすっげぇ悲しくなってきた。

 だが、そんな俺の気持ちは放って置かれクリエは微笑むと――。


「偉大なる我が父、聖神ガゼウルよ……我は望むこの者と共に歩まん事を……この者は望む我に付き従う事を……我らをその聖なる鎖にて繋ぎ止めよ……」


 それは聞いた事も無い詠唱……古代魔法科でも一応神聖魔法についての授業はある。

 その詠唱も実際に資料を目にしたことも魔法を使っている所も見た事があるのに……今聞いた詠唱は初めて聞く物だ。

 勿論、俺が知らないだけなのかもしれないが……これが俺達が使う魔法とは決定的に違うのはすぐに分かった……。


「……え?」


 クリエに触れられている首筋がじんわりと温かくなったのだ。

 その事に俺は思わず驚き声を漏らす……何故か? その理由は簡単だ。

 この世界に置いて魔法とは必ず最後の言葉が必要だ。

 それは俺の様な短縮魔法を使える物にとっても変わることは無い決まり……。

 そもそも詠唱とは言葉により精霊の力を引き出し、それを現世に召喚する為の物、短縮魔法使いはただ単に精霊の力を引き出す才能に優れているだけだ。

 だからこそ詠唱を使えばより強力な魔法を生むというメリットもある。

 だが、先程思い浮かべた様に最後の言葉が無ければ何も生み出せない……だというのに勇者クリエは詠唱だけでこの魔法を使ったのだ。


「はい、終わりましたから、動いて大丈夫ですよキューラちゃん」

「い、今の魔法なんで……何処で覚えたんだ?」

「それが良く分からないんですが、誰にも教わっていないにも関わらずこれだけは知っているんです。これも勇者の証だとか村に来たし……いえ、騎士の方々言っていました」


 ん? 今何を言いかけたんだ? ただ言葉を詰まらせたようには聞こえなかったが……。

 でも、なるほど……って言う事は神聖魔法使いが同じ詠唱を使っても発動をしない魔法って事か?

 ともかく本当に痛くは無かった……。

 まだちょっと首筋が暖かくて若干変な気分だけどまぁじきに戻るだろう。





 それからすぐにクリエは手続きを済ませてくれて俺は無事? 勇者の旅について行くことが出来る様だ。

 俺はほっとしつつ部屋を出ようとし立ち上がると――。


「キューラちゃん何処に?」

「何処にって支度があるし部屋を出て行こうかと……」


 手続きは終わったんだから、俺も自分の準備を済ませないとな。

 武器や防具……手持ちだと大したものは買えないがないよりはましだ。


「駄目ですよ……これから行く所があるんですから」

「へ? 行く所? でも、手続きは――」


 面倒くさいこと云々は先生たちが住ませてくれるはずだ。

 そう思っていると……。


「だってそのままじゃ外には行けないですよ? 一緒に行かなければいけない所があります」


 クリエはそう言うと微笑んだ。

 それにしてもそのまま外には行けないってまさか!?


「いや、流石にそれは悪いっていくら勇者の従者だからって買ってもらう訳には」


 多分話の流れからして俺がさっき考えた事と全く同じ……つまり、クリエは俺の装備を整えてくれるつもりなのだろう。

 だが、それは駄目だ。

 俺だって学生ではあるが狩り等で手に入れたお金がある。

 それを使って買うべきだ……そうだよな? いや、誰に聞いてるんだ俺は……。


「駄目です。従者となった以上、その身の安全を保障するのが勇者の務めでもあります……寧ろ守ってもらう事もあるのに武具にお金をかけないというのは私には出来ません」

「いや、でもさ……」


 女の子に買ってもらうというかプレゼントというのは素直に嬉しい。

 更に言えばクリエは美人だ。

 これで嬉しくないというのは殆どの人が言う訳が無い。

 だからと言ってその武器防具なのが問題だ……。


「武器や防具って安いのでも50ケートだぞ? 旅道具を合わせて買ったらもろもろで300は行く」


 ケートというのはこの世界の商売の女神の名で通貨でもある。

 因みに酒場に行って食事をすると食べる物にもよるが大体15ケート、宿に泊まるなら25……

 つまり武具は安物を買うとしても高く……それでも冒険者と言う職業が人気なのは古代遺産などが高値で売れるからだ。

 勿論、強い魔物からはぎ取った毛皮や鱗、牙なんかも素材として良い値段で売れる。

 しかし、俺はまだ学生……戦うとしてもその辺の獣だ。

 大した稼ぎにはならない……。

 現に俺の財布の中にはぎりぎり300ケート届くか? という微妙な所だ。


「尚更ですよ……安い武具はそれだけ壊れやすく買い替えが必要になります。最初にきちんとしたのを買って手入れさえすれば長く使えますから」

「そ、そうなのか……」


 確かに安物買いの銭失いとは聞いた事がある。

 そう言われるとクリエの言葉にも納得だ……。


「さ、分かったら行きましょう? ぴったりの装備を選びますよ?」

「あ、ああ……ってちょっと!? クリエ!?」


 俺まだ先生達に挨拶済ませてないんだが!?

 そう訴える間もなくクリエは俺の手を引き……ちらりと彼女の顔を見てみると何故かその顔は高揚しているようだ。

 なんだ? 何故か今両親を思い出した……すごく……いやな予感がする……。

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