84 報告
キューラ達は領主から受けた依頼……ゴブリンの事を話しあっていた。
そして、原因はソナ村にある鉱山にあるのではないか? と考えた彼らは早速領主の元へと報告に向かうのだった。
領主の元へと再び足を運んだ俺達。
早速先程話し合った内容を領主へと告げると領主は何度も頷きつつ俺達の話を聞き――。
「なるほど、確かにゾルグの冒険者はソナへと盗賊退治に向かっています」
やっぱり盗賊かなにかが関係していたんだな。
これで、ゴブリンの方も――。
「ですが、崩落事故のあった場所がねぐらになっているという事はないでしょう」
「――――は?」
なんだって?
「なんでですか?」
領主の答えに驚き言葉を失った俺の代わりにクリエが問う。
すると、領主は両手の指を組み、ゆっくりとその答えを口にした。
「崩落事故の遭った場所は入口自体が閉じているのです。他に中に入れる場所は無く、閉じ込められた者達もそのまま中に居ます」
「ちょ、ちょっと待て! 救助活動とかはしなかったのか!?」
「いえ、ちゃんとしましたよ……ですが、ソナ村の者達は功を焦ったのでしょう、無茶な掘り方をしていて下手に触れば二次災害になりかねなかったのです」
それならば、補強してから助ければ良いだけじゃないか?
そう思う俺だったが、領主は構わず話を続けた。
「ですので今もまだ彼らはあの場所に眠っているのです……そうでなくても危険な場所にゴブリンは住みつかないでしょう」
それは確かにそうか、無茶な掘り方をしたって言うなら中も崩落してそうだろうし、そんな所に住みたくはない。
何故その人達を助けないのか? と聞きたい所だが、彼に聞いても答えは先程と同じだろう。
とすると振出しに戻ってしまう訳か……がっくりしている俺に止めを刺すかのように領主は言葉を続けた。
「それにゴブリンは巣を取られて大人しく逃げるような魔物ではありません、仲間を集めて取り返しに行く――確かに従者殿の言ったように賊共にとって快適な場所には変わり有りませんし、力ある者ならばそうするでしょうが……」
「そ、そうか……」
なるほど、ゴブリンの生態をもう少し勉強しておくべきだったな。
そんな後悔をしつつ深く溜息をついた俺は視線を領主の方へと向ける。
「…………ん?」
今、俺が目を合わせた瞬間……一瞬だけどこか冷たい目をしてたような?
「どうかしましたか?」
「あ……いや、何でもない」
今のは俺の見間違いだろうか? いや、でも……やはり、貴族は信用すべきではなさそうだ。
かと言ってゴブリンを放置する訳にはいかない。
「仕方ない、酒場に向かって情報収集でもするしかなさそうだね」
「そうみたいですね」
トゥスさんの意見に賛成した様子のクリエ。
勿論、俺も情報収集の部分には賛成だ。
しかし――。
「飲むのは構わないが、飲み過ぎないでくれよ? トゥスさん」
俺は彼女にそう告げる。
すると、トゥスさんは笑い声を押さえつつ笑みを見せた。
「……では、引き続きお願いいたします」
「ああ、分かった」
領主の言葉に俺は頷き、クリエ達と共に部屋から出る。
そして、扉を潜る直前――。
「ああ、そうだ!」
ワザと振り返ると其処には慌てて表情を変えた領主が居り……。
「どうしました?」
「あ……すみません、なんでもなかったです」
すぐに前を向き、改めて実感した。
チェル達はやっぱり特別なんだなって……。
酒場に向かうと以前トゥスさんと一緒に行動を始めてすることになった場所とは違い、人であふれていた。
「す、すごいな……」
これが本来の酒場か……等と関心をしながら俺は辺りへと目を向ける。
あの肉を使った料理は何だろうか? 美味しそうだけど……あっちの赤いのはワインか? まぁ、俺が飲むことはないな。
未成年だし……それにしても酒場ってのは凄い所だな。
煙草の臭いもするし、酒の臭いもする……そして食べ物の良い匂いもする。
「いらっしゃい!」
俺達が店の中へと足を踏み入れてから少し遅れてその言葉が響く。
「っておい! 勇者様じゃないか!!」
店主は綺麗な二度見でクリエを見て――すぐにカウンターへと座っていた男達に目を向けると――。
「ほら! お前ら邪魔だ! 3人とも立って飲んでろ!!」
「おいおい! 俺達だって客だぜ客!」
「そうだそうだ!!」
「椅子ぐらい用意しろ! 椅子ぐらい!!」
当然不満を漏らす3人に舌打ちをした店主は樽を三つ移動させるとそれを叩き。
「椅子だ」
「「「樽じゃねえか!!」」」
うん、見事な樽だな……そう思った俺の頭に一つの言葉が思い浮かぶ。
「たーる……」
それを呟いてしまった所で俺は慌てて口をふさぐとクリエは此方へと振り向いており、どこかにやけた顔になっている。
「ど、どうした?」
「なんですか!? 今のは!! ちょっとキューラちゃん可愛かったですよ!?」
いや、うん……そりゃ元々可愛いキャラが言ってるんだからな? でも俺は絶対に似合わない言葉だと思う。
「もう一回言ってください! もう一回!」
ちょ、ま!? 美人のクリエにそんな狭まられると色々と困るぞ!? このままじゃマズイと思った俺は慌てて口を動かす。
「た、たたた……たるー……」
「――――っ!!」
そう言った時、トゥスさんが見事に吹き出し、俺ははっと意識を取り戻すと顔が赤に染まる感覚を感じつつ告げた。
「ってそんな事より情報だ情報!」
「勇者様達、そんな所でくっちゃべってないでさっさと座りな!」
俺の言葉と店主の言葉は見事に重なった。