82 ゾルグの門
ゾルグの街へと着いたキューラ達。
しかし、門の前には魔物の恐怖におびえる人々が居た。
クリエはそんな彼らを心配し特権を使わず並ぶことを提案し、キューラ達もそれに従うのだった。
ゾルグへと着いた俺達。
そこで街の中へと入る為、手続きを済ませている途中――。
「あの、勇者様……」
一人の男性が俺達……いや、クリエへと声をかけてきた。
「はい、どうしました?」
相手が男性だったからか引きつった笑みを浮かべたクリエは何処かそっけない言葉を発する。
「あの……実はこの後すぐに領主様の元へ向かって欲しいと言伝がありまして」
「……領主さんのところですか?」
俺はその言葉に思わずピクリと身体を震わせた。
領主……という事は貴族だろう。
つまり、クリエの事を物扱いする連中だ。
中にはチェル達の様な例外も居るが……あまり良いイメージはない。
俺のそんな考えは顔に出てしまっていたのだろうか? トゥスさんに肩を叩かれ――。
「落ち着きな……」
っと言われてしまった。
「悪い……」
俺は何時からこんなに貴族が嫌いになったのか……いや、考えるまでもないか、とにかく会ってみるまではどっちだかは分からない。
ここはまだクリード国の中、あの人と同じ考えを持った貴族も居るはずだ。
そして、そんな人に領地を与えてるかもしれないんだ。
「えっと……」
クリエは不安そうに俺達の方へと向いた。
そうだ、俺達がしっかりしないと彼女を救うって事は出来ないだろう。
「俺は構わないよ……やることは変わらない」
そう、俺のすることは変わることはない。
「アタシもだ……呼んでるなら行ってやろうじゃないか」
俺達の言葉を聞き安心したのだろうか? ほんの少しだけ表情が和らいだクリエは男性の方へと視線を戻す。
「わ、分かりました……すぐに向かいます」
「はい、お願いします」
クリエの答えにホッとした様子の男性は笑みを見せ、礼をすると――。
「では、私はこれで失礼いたしますので――お話を聞いていただきありがとうございます」
丁寧な言葉の終わりと共に去って行った。
あの様子からして彼は知らないのだろうか? それとも同じなんだろうか? 気になる所ではあるが――俺は向かうと言ってから固まったままのクリエへと声をかけた。
「クリエ……」
「は、はい!?」
「もしかしたら、ゴブリンの事で話があるのかもしれない……行こう」
俺がそう口にしつつ歩き出すとクリエは何故か俺の服を掴み歩き始めた。
なんだこの絵面は……。
「なんか、面白い事になってるね」
いや、トゥスさん笑ってないでどうにかして欲しい……とはいえ、不安そうなクリエを引き剥がす訳にもいかんし、転ばないよう注意して歩かないと駄目だな……。
領主の館へと着くと話は通っているのだろう門兵は何も言わずに扉を開けてくれた。
すると、中に居た執事の案内により俺達は一つの部屋へと通される。
貴族の屋敷だという事で警戒していた俺は現れた貴族に驚いた。
そこに居たのは他の人達と何ら変わりのない服を纏い、金品の類をつけていない男性。
彼は入って来るなり俺達に会釈をすると――。
「この度は突然の呼び出しにも拘らず。足を運んでいただきありがとうございます」
丁寧なあいさつを聞き、俺達は揃って黙り込んでしまった。
思えばあの男性も兵達も執事もクリエを蔑んだ瞳では見ていない。
目の前の貴族でさえ――これは本当に俺達と同じ考えの人だろうか? そう思いつつ見つめていると……。
「ああ、すみません……この方が動きやすく、失礼だと思いますがご容赦ください」
「あ、い、いえ……それよりも何故、俺達が街に着いたと?」
俺は慌ててそう口にすると彼は微笑み――。
「クリード王より鳥を受け取りまして、泉に行く時間なども考えた結果本日中であろうと判断いたしました」
そ、そうか……なるほど……。
「それで……なんでアタシ達を呼び出した?」
トゥスさんは警戒しているのだろうか? 何処か棘のある言い方で尋ねる。
そんな彼女にも表情を変えず貴族は頷くと手を組みゆっくりと語り始めた。
「ゴブリンがこの街の近辺に出ており被害が相次いでいます……普通街の近くに現れる事はありません、何か原因があるのでは? と思いまして……その原因を探っていただきたいのです」
やっぱりゴブリンの事か……でも――。
「それなら冒険者を雇った方が早かったんじゃないか?」
「それはそうなのですが、この街の冒険者は今遠出しているか、ゴブリンの襲撃に遭い傷を負った者が多く、神父様や医者の治療を受けていて……すぐに動けるという状況ではないのです」
なるほどな……とは言いたいが、そう都合よく人が居ないという事はあるのだろうか?
俺も疑り深くなったな……と思いつつ黙っていると貴族は真剣な表情へと変わり。
「近辺といっても少し前までは街から距離がありました。ですが今はかなり近くまで来ている様です。それにより街の防衛も強化しなければなりません。残念ですが人が足りないのです。どうかご助力いただけませんでしょうか? 勇者様」
彼はクリエへと目を向けてそう言い。
クリエは何故か俺の方へと目を向ける。
街の危機って事か、貴族は安易に信じられるものじゃないが……街の人達が被害に遭うかもしれない。
そう考えると原因を探るのは誰かがしなければならない事だ。
仕方がない……俺が頷くと門時の様に視線を戻し――。
「分りました……」
そう答えた。




