81 群れ
クリエの意外な特技である料理に舌鼓を打ったキューラ達。
朝食を終えた彼らはゾルグへと向け再び出発をする。
その途中、ゴブリンに出くわしたがトゥスの精霊銃を前に逃げる術もなく倒されるのだった。
ゾルグまでの道のりで魔物と出会わないと言う事は無かった。
コボルトにゴブリン……クリエやトゥスさんが居てくれるお蔭でなんとかなっているものの俺一人では死んでいただろう。
特に厄介だったのは今も目の前に居るゴブリンだ。
コボルトと同様群れをなす魔物である上、知能を持つ彼らは普段は人に関わろうとしない。
積極的に襲い掛かって来る事は無く、此方から手を出さなければ襲い掛かって来る事は稀だ。
しかし、例外はある。
トゥスさんが撃ち殺したゴブリンがそうだ……あのゴブリンは一匹だけだった。
集落や群れからはぐれたから焦ったのか俺達に襲い掛かってきた訳で……。
「ついてないね……」
ゴブリンに囲まれるという現状の原因となってしまったトゥスさんは咥えた煙草を地面へと落とし足で踏み火を消した。
そう、あのゴブリンを倒した時の銃声――。
その音で偶々近くにゴブリンが居たのだろう同族を殺された事を知り、仲間を集めてきた。
例え戦いを好まないゴブリンと言えど仲間を殺されて黙っている種族ではなかったと言う事だ。
『ニンゲン、ユルサナイユルサナイ!!』
それどころか仲間を殺された怒り……それを隠そうともしていない。
ゴブリン達は武器を構え、じりじりと寄って来て俺達は追い詰められていく……。
「ど、どうする?」
「どうするもこうするも、こうなった以上――」
「戦うしかないですねっ!!」
トゥスさんとクリエは武器を構え直し、俺も剣を握る手に力を籠める。
相手はゴブリン……RPGで最初に出会う魔物であり、ザコとされているが現実となったこの世界では――。
『ギギ!! コロセ! ナカマノムネンヲハラセェェェェェ!!』
人間同様の知能を持ち、仲間同士連携を取る強敵だ!
ざっと数えてみた所20は居る。
囲まれている訳で、逃げ道は無い……使える手は使わないと――。
「クリエ! トゥスさん、前は頼んだ!!」
俺は二人にそう伝え即座に彼女達を背にする。
そして――。
「闇の精霊よ、鎖と成りて彼のモノを捕らえよ……バインド!!」
即座に詠唱と魔法を唱える。
すると、現れた黒い鎖はゴブリン達を捕らえて行くが……。
「チッ!!」
ゴブリン全てを捕らえる……そう事は上手くいかず。
魔法に気が付いた何体かはその身を盾にし仲間をこちらへと向かわせてきた。
「フレイムッ」
俺はすぐに魔法を唱えるも盾を持ったゴブリンが前へと出ると木の盾を犠牲にし、魔法を防がれてしまう。
「おいおい、よ、予想はしてたけど魔法を盾で防ぐか……」
賢いとは聞いていたが……厄介所の話じゃない……!!
どうする? そう思い視線を動かすと倒れた木が目に入った。
あれを利用できないか? そう思いつつ俺はその木の近くに居る盾を持つゴブリンへ向けて魔法を唱える。
「フレイム!!」
しかし、やっぱり気の盾で防がれてしまった。
「なら――っ!! グレイブ!!」
木の盾を貫通するこの魔法ならどうだ? そう思い唱えた魔法は見事にゴブリンを撃ち抜いたが……。
『ギギッ!!』
やはりすべてを仕留めると言うのは無理だった……。
『マホウツカイ……ヤッカイダ!! チイサイノカラコロセ!!』
「キューラちゃん!?」
不吉な言葉を聞きクリエが声を上げる。
だが――。
「大丈夫だ」
そう、これはただ安心させる言葉じゃない。
理由はちゃんとある。
魔法使いが厄介だと言うゴブリンの言葉は最もだ。
神聖魔法なら傷を癒し、古代魔法なら強力な攻撃魔法を操る。
しかし、古代魔法は癖がある……詠唱がその人のセンスによる事と属性と一致した場所で唱えるか唱えないかで効果が変わると言う性質を持っている。
そう、つまりここにはバインドの効果を高める暗い場所はない。
グレイブなら地面がある為、そこまで困らないが威力を重視するなら単発だ。
フレイムはさっきの様に盾で防がれたらどうにもならない。
それが鉄や精霊石で作られたマジックアイテムならばの話だ……。
「ライム、もしもの時は皆を護ってくれ」
俺は肩でプルプルと震える使い魔にそう告げ――。
「焔よ、我が意思を汲み取りて魔を穿つ矢と化せ!! フレイムアロー!!」
シェート先生からもらった本で学んだ魔法……フレイムとは違い無数の炎の矢を放つ物だ。
しかし、これもさっき使ったフレイムと同じでこの場ではグレイブより威力が落ちる。
炎が無いならば……な……。
俺の目論見通り……捨てられた盾は先程の木に火をつけてくれたみたいだ。
賢いと聞いていたからあえて木を狙わなかったんだが……その必要はなかったのかもしれないな。
何とか退治したゴブリン達を見て俺は大きく息を吐く――。
「――はぁ」
気に燃え移った火はライムが鎮火してくれたし、このまま燃え広がるという事はないだろう。
「こ、これ以上ゴブリン達に見つかる前に街に行きましょう」
「そうだね……厄介な事この上ないよ」
戦いの最中は目を向ける事が出来なかったが彼女達もさすがに疲れた様子だ。
それだけゴブリンは普段温厚? なだけあって怒らせるととんでもない魔物だった。
なんで地球の人達は恐ろしい魔物であるスライムや人並みの知能を持つゴブリンをザコ設定にしたのだろうか? と言いたくなるぐらいだ。
まぁ、そのスライムであるライムのお蔭で助かってるから何も言えないが、ゴブリンに関してはもう二度と関わりたくない。
「でも、おかしいですね」
「ん?」
クリエが腕を組みその大きな胸を強調しつつ考える。
その動作はどうにかならない物か? 目のやり場に困るんだが……。
「確かにおかしいね」
「ん?」
そんな事を考えていると肩に手を置かれ、振り返った先には口に咥えた煙草を指でちょんちょんと触るトゥスさんが居る。
「フレイム……なにがおかしいんだ?」
火をつけてやりつつ、俺がそう言うと二人共目を丸めたまま俺を見た。
何故そんな顔をする?
「あのねお嬢ちゃん……ここはゾルグとクリードの真ん中だ」
「人が多く行きかう道でもあります」
ん? そうだよな……だから俺達は泉から出てきた後、街道を目指した。
それでこれからゾルグへと向かうつもりだ。
何がおかしい……いや、待て……ゴブリンは人と関わるのを嫌う魔物。
戦えば互いに利益何てなにも生み出さない。
意思疎通は出来るとはいえ協力もしない。
人間はゴブリンを魔物と恐れ、ゴブリンもまた人を恐れている。
だからこそゴブリンと言う魔物は人里から離れて生活することが多く、必要以上にこちらへと近づかない。
つまり、人が多く行き来する街道に普通はゴブリンが現れることはそう多くない、いやむしろ少ないはずだ。
そもそも最初に出会った奴も逸れたからと言って俺達に襲い掛かるだろうか?
ゴブリンには知能がある、器用な奴なら武器防具を作ることができる。
人間並みと言っても良いはずの彼らが3対1敵うはずがないと理解し身を隠すのが正解だと考えるはずだ。
「なんでだ?」
「ゾルグまでもう少しですけど、嫌な予感がしますね……」
クリエの言う通りだ。
このゴブリン達……確かになにかがおかしい。
俺達はそんな不安を抱えながらゾルグへと向かう。
何も起きなければいいんだけどな……。




