80 朝食
突然の目の不調を覚えたその日の夜。
キューラは夢の中、あの男に会う……。
彼はやはりアウク・フィアランスその人だった……相変わらず会話が出来ない中、たった一言だけ言葉を交わす「使いこなして見せろ」その一言にキューラは答えるのだった。
俺はクリエとトゥスさんが起きるまで待ち。
二人が起きた所で食事の準備を始めた。
といっても俺に出来る事は少ない。
なんて言ったって料理は得意ではないからな……出来るとしたら具無しチャーハンとかただ炒めるぐらいだ、
しかし、俺達の中には以外にも料理が上手い人が居た。
それは――
「さてと、後これで――」
徐に王様にもらった胡椒を手に取ったトゥスさんを見て慌ててクリエはその手を止める。
「ト、トゥスさん!? それ全部入れたら駄目ですよ!?」
「だって高級品なんだからたっぷり入れた方が良いだろう?」
「入れた方が美味しいですが、まず砕いてください!? それに量が多すぎです!?」
そう、料理が得意なのはトゥスさんではなくクリエだ。
彼女は見事な手際で食事を作って行き――。
「キューラちゃん、そこにある唐辛子取ってもらえますか?」
「ああ……」
俺はクリエに言われた通り、唐辛子を手渡す。
それにしても、良い匂いだ……。
クリエが料理をしている所は初めて見たけど、出来あがる料理が楽しみだ。
「出来ましたよっ」
クリエは笑みを浮かべ器に出来あがったスープを淹れ、俺達の目の前に置いてくれた。
そして、クリードで買って来ておいたパンを添えてくれた。
美味しそうな匂いに釣られるまでも無く、俺はスプーンを取りスープを口へと運んでいく。
「……んっ!」
故障の香りと唐辛子のほどよいピリ辛さが癖になりそうだ。
それに野菜と鶏肉を噛むと甘味も感じられる。
「どうですか?」
「美味い! 凄いなクリエ!」
正直に言えば城で食べた料理よりもおいしいかもしれない。
いや、あの時は緊張の余り味が分からなかったこともあるが、それを差し引いてもだ。
しかも、少し辛いお蔭か身体も温まってきた。
俺はスープとパンに夢中になっているとクリエは相変わらず「うへへ」と笑いながら嬉しそうに揺れていた。
「これはたまげたね、クリエお嬢ちゃんが料理できるとは思わなかったよ」
それは失礼じゃないだろうか? 料理の腕なんて実際に料理をしなければ分からないだろうし、作ってみたら上手だという人も居る。
俺なんかは料理が出来ないけど、まさかトゥスさんが出来ないとは思わなかったしな。
「あ、キューラちゃん」
「ん?」
クリエに名を呼ばれ俺は彼女の方へと視線を向ける。
すると彼女はクスリと笑い布で口元を拭ってくれた。
「夢中になりすぎですよ? パンくずがついてました」
「あ、ああ……ありがとう」
なんというかこう、こういうのは初めてで気恥ずかしいな。
食事も終わり、後片付けをし荷物をまとめた俺達は改めてゾルグへと向け旅立つ。
帰りもあの道を通る訳だが、あの猿の魔物は全滅させたしあいつらには遭わないだろう……。
他の魔物にも遭わないで済むならその方が良い。
「キューラちゃん、気を付けて進みましょうね?」
「ん? ああ」
そう言えば朝に目の事を言ってなかった。
今のところはちゃんと見えるようになった……だけど、あいつが原因とは限らないし、一度医者かなにかに診てもらった方が良いのは変わらないだろう。
「大丈夫だ、例え魔物が出ても右側に行ったら撃ち抜いてやるよ」
「た、助かるよ……」
うん、頼もしい一言なんだが、どこか怖いのは俺の気のせいだろうか?
いや……俺の事を心配してくれるのは分かってる。
だが、彼女の場合容赦なく魔物や人を撃つだろうから怖いと思ったのは気のせいではないよな……。
事実――。
「「……………」」
「ふんっ……そんな鈍間な動きで逃げられるとでも思ったのかね」
少し歩いた所で出てきた魔物……ゴブリンは見事にその脳天をトゥスさんの銃で撃ち抜かれていた。
エルフって……優しい種族だってチェルは言ってだけど、嘘なんじゃないか?
そう思いつつも、また右目に靄がかかったらただでさえ戦闘経験の少ない俺は足手まといだ。
ここは素直に感謝しておいた方が良いだろうな。
「助かるよ」
「高くつくよ?」
トゥスさんは俺の例に悪人の様に笑う。
だが、彼女の事だ悪い事は考えてないはずだと俺も口角そ少し釣り上げると――。
「つ、次は私が守るんですからね!」
何故かクリエがトゥスさんに噛みつくように声を上げた。
「そうかい? じゃアタシは疲れたし、頼んだよクリエお嬢ちゃん」
「…………」
トゥスさんに鋭い視線を向けつつクリエは意気込む様に拳を握る。
彼女もまた頼りになるな……そう感心していたのだが……。
「助けて、それでキューラちゃんを……うへへへ」
すぐに俺は思い浮かべた言葉を撤回し、やはりなるべく自分の身は自分で守ろうと考えるのだった。