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79 不調

 クリエについて行かなくてはならなくなったキューラは彼女の方を見ないように気をつけつつタオルなどを用意する。

 その時ふと右目に靄がかかっている事に気が付いたキューラは不思議に思う物の放って置くことにした。

 しかし、どうやら遠近感が掴みづらかったりと厄介の様だ……。

 その日は泉の祠で泊まる事になった。

 俺の右目と言えば……違和感を抱えたままだった。


「……う~ん」

「キューラちゃん大丈夫ですか?」


 クリエは俺の事を心配してくれて右側に座り色々と世話をしてくれた。

 暗くなってきた所為もあって、靄がかかっている右目が更に見えにくいからだ……。


「あ、ありがとう、クリエ」


 助けなきゃならない子に世話をしてもらうのは情けない気もするが……彼女のお蔭で助かった。

 俺は礼を告げつつ右目の近くを触ってみるが、靄がかかって見にくい以外には特に変わったことはない。


「しかし、一体どうしたんだい?」

「分からない、ちょっと霞んでてな……」


 変な病気にでもかかったのか? 一応次の街で医者に診てもらった方が良いかもしれないな。


「ゾルグには良い医者か神父は居るのか?」


 俺はトゥスさんにそう聞くと、彼女は頷き――。


「ここら辺で一番評判が良いとまでは行かないけど、それなりの腕を持つ奴が居るよ」

「それなら一応見てもらった方が良いですよ?」

「ああ、そうする」


 俺はそう答えて、その日は早く休むことにした。

 その時に気が付いたのだが、この祠にはまともなベッドは無かった。

 一件整ってるように見える祠だが、こんな所でも勇者に対する迫害は現れていたのか。

 そんな、いやな気分を抱えながら俺は眠りにつくのだった。









 俺が目を覚ましたのはあの場所だった。

 以前にも見た魔族アウク・フィアランスが現れる夢……俺は墓の前まで歩み寄る。

 すると、相変わらずあの魔族は墓の裏から現れた。


「……アウク・フィアランスなのか?」


 俺は彼に名前を問う。

 すると、彼は悪人じみた笑みを浮かべ頷いた。


「俺に……あの魔法を使いこなせと言ったな? でも、俺じゃ……無理だと言われた。実際に練習するにも死んだら意味が無い。何処かで修業できないのか?」

「………………」


 アウク・フィアランスは腕を組み、瞳を閉じ静かに俺の話を聞いていた。

 そして、ゆっくりと瞳を開くと俺へと歩み寄ってくる。

 思わず警戒した俺だが彼は左目に指を向け――。


「…………」


 何かを呟いた。

 以前は少しだけ言葉が聞こえたはずだ。

 だけど、何もわからない。

 俺は困惑するだけしか出来ず……その指と彼の顔を交互に見ていた。

 その時、以前の時の様に左目が暖かくなる……だが不思議と痛みなどは無かった。

 何かを伝えようとしているのだろうか?

 そんな疑問を思い浮かべていた時――。


「――っ!!」


 急に右側が見えなくなり焦り、俺は左目で右を見る。

 すると、突然肩を掴まれ――。


「使いこなして見せろ……期待しているぞ……」


 質問の答えになっていないその言葉の終わりと共に右側に再び景色が映ると――すぐに世界は暗闇へと落ちた。


「なっ!?」


 一体なんなんだ!? そう問う暇も無く、俺の意識は覚醒していく――ただ、何となく思い浮かんだことは……右目の不調……もしかして、アウクが関わっているのか?

 二つ目は以前も今回も左目が熱を帯びた事……それは魔拳と何か関係があるのではないか? という事。


「………………」


 そして、あの魔族アウクは――俺を殺そうとはしていないと言う事だ。

 悪人の様な笑みを浮かべていながら、彼は俺に魔拳を託すことだけを純粋に考えている。

 まぁ、トゥスさんも悪人みたいな笑い方はするし、人は見かけではないだろう。

 兎に角、分かった事……魔拳は現実で使わない方が良さそうだ……。

 彼にまだまだ何かを学ばなくてはならない、その為には彼の言葉を完全に理解しなくてはいけない。


「……期待に応えられるか分からないが……クリエを救う為なら何でもやってやる……」


 俺は暗闇の中に消えゆく魔族へそう伝えるとアウク・フィアランスは歯をむき出して笑った。







 目を覚ますと其処は昨日泊まった祠の中だった。

 右目は昨日よりは大分マシになっている。

 もしかして、あの靄はあいつと会える夢が見れる印なのだろうか?

 そうだとしたら、その日は早めに寝た方が良いかもしれない。

 体感時間は短い夢だ……長く寝て置けばそれだけ話が出来、魔拳について学べるかもしれないからな。

 そう思いつつ俺は立ち上がると、二人はまだ寝ている様だ。

 朝食……と言っても料理は得意じゃないがお湯ぐらいは沸かしておこう。

 そう考えた俺だったが、以前のクリエの様子を思い出し、せめて彼女が起きるまではとその場で待つことにした。


「うへへ……」


 その勇者様はどんな夢を見ているのか……笑い声を上げる。

 少なくとも以前みたいに怖い夢じゃなさそうだと言う事は分かり、何故かほっとした。

 ただ……。


「キュー、ラちゃん…………綺麗……な、肌……」


 夢の中で俺に何をしているのか? いや、聞きたくも知りたくもないな……。

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