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77 精霊の泉

 猿のボス……どんな力を持つ魔物なのだろうか? 警戒するキューラ達はその瞳を丸めた。

 そう、ボスはどうやら今まで命乞いからの奇襲で人々を襲っていた様だ。

 種明かしをしたキューラは魔法で猿を倒すのだった。

「ふぅ……」


 俺は魔物を撃退し、安堵のため息をついた。


「キューラちゃん!!」


 すると、クリエがいつもと違った口調で俺の名を呼ぶ。

 なんだろうか? そう思いつつもなんだか怖い感じがし、恐る恐ると彼女を見てみると――珍しくも眉を吊り上げているではないか……。


「どうした、クリエ……」

「どうした、じゃありません!! なんであんな危ない事をしたんですか!!」


 怒られた事に俺は驚きつつ、あんな危ない事とはと考え気が付いた。

 猿の魔物に近づいた事だろう……確かに傍から見れば危ない事だ。

 ライムが居たからこそ出来た事なんだが……。


「その、ライムが居たから、な?」

「な? じゃありません!! 私は心臓が止まるかと思いましたよ!?」


 涙声でそう言われると罪悪感しかわかない。

 ライムが居てくれるし俺は安全だと思ってはいたが、クリエにとってはそうじゃなかったんだな。

 でも、心配されて嬉しく思うってのは良くないのかもしれないが、嬉しいと思えるな。


「だって! キューラちゃんが私じゃなくて魔物と抱き合うなんて!!」

「そこかよ!?」


 俺は思わず突っ込みを入れると、トゥスさんは呆れ顔で溜息をつき――ライムは頭の上で跳ね始めた。


「……はぁ」


 そして、俺は溜息をつくと荷物の中から林檎を取り出し頭の上に乗るライムへと差し出す。

 するとライムは身体を伸ばし林檎を受け取ると若干頭の上が重くなったのを感じた。


「と、とにかく! 魔物だろうと駄目ですよ!?」

「分かった、分かったから落ち着いてくれクリエ……」


 そして、抱きつこうとするな。

 俺は彼女の抱擁を逃れるつつトゥスさんの方へと向くと――。


「クククク……こいつ良い物もってるじゃないか」


 そこにはエルフとは思えない程、薄気味悪い笑い声を上げた女性が魔物の死体から貴金属をはぎ取っていた。

 うん、なんだろうか……エルフって言ったらこう、清楚な感じで男女ともに慎ましいのを想像してたんだけど、理想と現実って違うよな。

 そう思うと百合で不幸な勇者の方が普通に見えてくるのだから困ったものだと考えていたところ、俺はついにクリエに捕まり――。


「うへ、うへへへ……良い匂いです」

「…………」


 前言撤回という言葉を心の中で叫ぶのだった。





 それから暫く歩くと開けた場所……大きな泉がある場所へと俺達は辿り着いた。

 花は咲き誇り、森の動物達は泉の水を飲んでいる。

 人間が来たと言うのに逃げる気配も無く、まるでここだけは絶対に安全だと確信している様だ。

 それに時間がゆっくりと過ぎている様な錯覚を覚えた。


「ここが精霊の泉、か?」


 確かにそう言われるだけの神聖な感じはする。


「はい、そうですよ」


 クリエはそう言うと泉の傍に立つ祠の方へと歩みを進めて行った。

 当然俺達も後を追う……。


「不思議な場所だろ?」

「ああ……そうだな」

「何でこんな場所があるのか、今だに分からない……だが、不思議な事に誰もここを荒そうとは思えない犯罪者すらね。だからこそここは神の土地ともよばれたりするのさ」


 神の土地……か……本当に不思議だ……光が差し込んでいるとはいえ光る泉、それはまるで宝石のようにも見える。

 本当に神様が降りてくるとしたのならこんな土地なのだろう……そんな気持ちにさせられる景色と空気だ。

 そんな事を考えながら俺達は祠の中へと足を踏み入れた。





 祠の中はまた簡素な作りだった。

 誰かが管理しているのだろう、綺麗ではあるが入口にはテーブルと机。

 そして奥に続く扉が一つだけという物だ。

 勇者が使う施設にしては簡素過ぎる気もするだろうが、彼女の扱いを見れば綺麗な分ましなのかもしれない。

 そう思い浮かべているとトゥスさんがそっと耳打ちをしてきた。


「昔逃げ込んだ勇者がいてね、定期的に人が来るんだよ」

「逃げ込んだ?」

「当時は誰も来ないただのボロ小屋だったでも身を隠すには十分な場所だ……死にたくなかったんだろうね」


 ……なるほどな、自分の運命を知り、怖くなって逃げたのか……それは人として正しい選択だと思うんだけどな。

 何処までも酷い世界だ。


「では着替えてきますね」


 クリエは俺達の会話が聞こえてはいなかったのだろう、振り返るとその表情を硬めた。


「ト、トトトトトトトゥスさん!? キューラちゃんに何をしているんですか!?」


 そして、どうやら勘違いをし始めた。

 どう見たって何かを話していたとしか思えないんだが……。


「…………ふぅ」

「んひゃぁ!?」


 そんな事を考えているといきなり耳に息を吹きかけられ、俺は思わず悲鳴を上げ飛び跳ねる。

 危うく落とされそうになったライムは頭の上で跳ね訴えてくるがそれどころでは無かった……。

 だって「んひゃぁ!?」だぞ? 俺は男なのに情けない悲鳴だと一人ショックを受けているとクリエに抱きつれてしまい。


「キューラちゃんは私のです!」

「いや待て、多分”私の”と”です”の間に従者って言葉が抜けてるぞ!?」


 俺の突込みは無視し、クリエは唸り声の様な物を上げつつ一点を見つめる。

 その視線を辿って行くとトゥスさんは小刻みに震え……笑いをこらえていた。


「す、すまないね……」


 絶対にわざとからかってるなこの人は……。


「……行きましょうキューラちゃん」

「おうって何処に?」


 ようやく口を開いたクリエの言葉に頷いた俺は首を傾げる。

 しかし、その言葉の意味に気が付くと慌てて彼女から離れようともがいた。


「待て! 確かクリエ着替えに行くって言ってたよな!?」

「はい」


 いや、はい。じゃなくてだな!? なんでそう平気そうな顔をしてるんだこの勇者は!?


「それだけは駄目だ。勘弁してくれ!!」

「駄目ですトゥスさんは危険です!」


 いや、どっちにしても俺のダメージは変わりないぞ!? というか着替えについて行った方がダメージが大きいぞ!?

 そう思いさらに暴れもがく俺だったが、勇者の力に敵うはずもなく――ずるずると奥の部屋へと連行されて行ってしまうのだった……。

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