76 猿の魔物
キューラ達はクリードから旅立ち精霊の泉と言う場所へと向かう事にした。
その泉に行く途中、彼らは魔物に出くわす……魔物の数を減らすのだが、ボスは悠然と枝の上に座り込みキューラ達へとその瞳を向けていたのだった。
あの親玉はニヤリと笑ったままその場に居た。
こちらに来る様子はない……何時仕掛けてくるのか? そう思うとこちらも思うように動けない。
魔力消費が無いと言ってもそう何度も魔法は撃てない。
無駄撃ちだけは避けたい。そう思っていると魔物は枝から降りようと動き始め――。
『ウキャ!? キャキャキャキャ!?』
身に着けた物が重すぎたのだろう「降りる」ではなく「落ちた」
まさにあれだな……猿も木から落ちるだな……。
寧ろあれで良く昇ったと俺は言いたい。
「「………………」」
そして、口を開けたまま驚いているのはクリエとトゥスさんだ。
まぁ、そうなるよな……気をつけろと言ったのにその魔物はまさかの転落。
開いた口が塞がらないと言うのは俺も理解できる。
というか、そう言う気分だ。
俺達がそう思っているとは分かってないだろう魔物はよろよろとした足取りでこちらへと近づく。
「キュ、キューラちゃん! 気を付けてください!!」
それを見てようやくはっとしたクリエは慌ててそう口にし剣を構えた――のだが……。
『ウキャキャ、キャキャキャキャ……』
魔物はその瞳に涙を浮かべつつ人が謝る様に手を合わせ頭を地面へと擦り付ける。
そして頭を上げると言う動作を繰り返している。
まさか、こいつ……。
「見逃してくれって言ってるのかね?」
トゥスさんが呆れ果てつつ口にした言葉は俺が思い浮かべた事と全く一緒だ。
というかこの魔物は何しに来たんだ?
拍子抜けも良い所だなぁ……そう考えた所でふと俺は考えた。
この猿が強いと言われた訳だがそうは思えない。
しかし、先程の説明や身に着けている物から群れのボスである事は間違いない。
だったらどうやって取ったのか? くすねたと言う訳ではないだろう……。
見れば高価な物もあり、見逃してもらえるとは思えないからだ。
つまり、こいつは何らかの方法でこれらを手に入れた。
寝込みを襲った? いや、それでも気が付く可能性がある。
「なんだか可哀そうにになってきました……」
クリエがそう言うと猿はその言葉の意味を理解してるのか、彼女へと両手を伸ばしうきゃうきゃと甘えた声を出す。
「な、なんですか?」
「懐かれた? そんな馬鹿な……混血のお嬢ちゃんはともかく……」
トゥスさんの疑問を聞いて俺はまさかという考えが浮かび――。
「ライム……」
俺はライムを手の上に乗せ、耳打ち……耳は何処にあるか分からないがとにかく猿に気が疲れない様に命令を伝えてから猿の方へと向かう。
『うきゃ?』
すると猿は媚びるような瞳を向けてきた。
なるほど……と心の中で呟いた俺は徐に手を伸ばしてみると猿は此方へと抱きついて来た――瞬間。
『ウキャキャキャキャキャ!!』
突然騒ぎ始め――。
「キューラちゃん! 何をしてるんですか!?」
クリエは慌ててこちらへと向かって来るが――。
「大丈夫だ」
俺はそれだけを口にすると、猿はぴたりと騒ぐのを止めた。
『ウ、キャ……?』
俺からゆっくり離れると自身の腕にまとわりついているライムを見て、瞳を丸くするとぶんぶんと腕を振るいライムは宙に舞う。
「ライム!?」
まさか投げ飛ばされるとは思っていなかった俺は慌ててライムを受け止めるとライムはプルプルと震え始め、何かを吐き出した。
再び慌てて吐き出したものを見ると、どうやら毛を吐き出したみたいだ。
もしかして、ただ単に変な味がしたから力が抜けたとかなのか? とにかくまずかったんだろう、ライムは何かを訴えるようにプルプルしている。
「わ、悪かった、林檎買ってあるから、後でやるから、な?」
そう言うとライムは満足そうに震えると頭の上と戻ってくる。
「使い魔とじゃれてる場合じゃないよ、お嬢ちゃん」
「ん?」
トゥスさんに言われ俺は顔を上げると、そこには猿がこちらへと目を向け牙をむき出してるのが見えた。
だが、もう怖くない……あの魔物は自分が弱い事を十分に理解している。
そして、今まではそれを利用し卑怯な手を使って来た……頭の切れる魔物だったと言う事だ。
だが――。
「グレイブ!!」
種が明かされてしまえば相手はただの弱い魔物だと思ったのだが、魔物は転がって魔法を避けた。
頭が良いから魔法が来るであろう場所を予測したのだろうか?
『うきゃきゃ、きゃきゃきゃ……』
だが、俺の魔法の威力を見て青ざめた様子の魔物は再び謝るような動作をし始めた。
「また騙すつもりなんでしょうか?」
「いや、今度は本当の命乞いだろうね」
トゥスさんがそう言いつつ指を向けた先には自分が身に着けている宝物を取りこちらへと差し出す猿の様子が見て取れた。
いや、どう見てもガラクタだけどな? それに――。
「悪いな、お前にはライムみたいな可愛げがあるとは思えないし、騙し討ちをする様な魔物を生かしてはおけないな」
俺はそう呟いた後、再び魔法を放つのだった。




