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73 ”勇者”の旅立ち

 仲間に迎え入れられそうな者はいない、王へとそう言われキューラ達はその場では諦めることを決める。

 そして、同時にクリードからの旅立ちも決めた。

 新たな旅立ちとなるキューラ達を見送る王カヴァリは子供たちに何かを話していたようだが……その内容をキューラ達は知ることは出来なかった。

 騎士の王国と呼ばれるクリード、俺達は其処から離れ次の目的地を目指す。

 次の目的地はゾルグと言う場所だ。

 出来れば仲間になってくれる人が見つかればいいんだが、そんな事を考えつつ俺は歩く……というか、この頃この事ばっかり考えてる気もするな。


「キューラちゃん?」

「ん? どうした?」


 クリエに肩をつつかれ俺は彼女の方へと向く――すると彼女は焼き鳥屋へと指を向けていた。

 そこには忙しそうに焼き鳥を作る店主と匂いに釣られたのか、それとも味を知ったのかどちらでも良いがお客が溢れていた。

 どうやら成功したみたいだな、良かった良かった。

 そう思っていると――。


「あの人と知り合いなんですよね? お別れを告げた方が良いんじゃないですか?」

「あ……うーん……」


 知り合いって程ではない。

 だが、焼き鳥をこの世界で味わえる様にしてくれた人だ。

 本人はそんな事を知るはずもないのだけど、まぁなんにせよ俺は彼に感謝をしている。


「何を悩んでるんだい? この前あんなに親し気に話していたじゃないかい」

「そうですよ、それに美味しいですし……」


 クリエの言葉に俺とトゥスさんは思わず笑みをこぼした。

 どうやら勇者様は焼き鳥が相当気に入ったらしい。


「だ、だって! 皆さんだって美味しいって言ってましたよ!?」

「ああ、確かに美味しかった。次にクリードに来るのがいつになるか分からない、挨拶ついでに買って行こう」

「出来れば、今度はゆっくりと酒を飲みながら食いたい物だね」


 そう言えばトゥスさんは酒に合うとか言ってたな。

 まさにその通りだと俺も思ったはずだ。

 そして、今度は俺も酒が飲める歳になったら皆でって考えたんだよな。

 ほんの数日前の事だけど、妙に懐かしく思える。

 そんな事を考えつつ俺達は列に並んだところで気が付いた。


「そう言えば、今度は使わなくていいのか? 特権……」


 俺の言葉にクリエは頬をかくと――うへへと笑い。


「あんなに美味しいんですから、皆さんにも食べてもらって繁盛してもらった方が名前を決めたキューラちゃんも嬉しいですよね?」


 なるほど、そういう事か……。

 確かにこの焼き鳥がこの街だけじゃなく広まってくれればどこでも食べられる。

 それに特権を使ってもらえばすぐに食べられるが、待ってる人には悪いもんな。

 ならこのまま並んでおこうそう思いつつ俺は店主の方へと目を向ける。

 すると彼は一瞬驚いた表情を浮かべ――。


「悪いな! 先客だ!!」


 そんな事を言いだし、当然お客たちは文句を言い始める。

 そりゃそうだろう……そして、その先客と言うのは恐らく……。


「ほらお嬢ちゃん! それに勇者様も! そんな所ならんでないで早く早く!」

「あ、いえ……皆さん待っていられましたし、此処では特権は使わないと先程キューラちゃん達と話しましたので」


 クリエはそう言って断るのだが、トゥスさんはそうでは無い様で……


「美味いもんに早くありつけるんだ。使わないとは言っても断る理由も無いだろ?」


 いや、確かにそうなんだけどな? その……クリエが貴族とは別の理由で歓迎されていないんだよ。


「ほら! アンタは店の店主だろ? クリエは特権を使わないって言ってるんだし、目の前のお客の相手をしてくれ」


 というか、俺もコンビニとかでこういった扱いを受けたら同じ目で見るだろうしな……。

 俺の言葉に頷く客達を見て店主は慌てた様に目の前の客から対処していく、此処は彼の店だから彼の自由だとは思うが、やっぱり待っている人がいるんだからこれで良い。

 それに良く見れば並んでいるのは冒険者の人達だ。

 彼らはこの街に着いたばかりなのかそれとも以来の前の腹ごしらえといった所なのかは分からないが彼らに広まるのは運が良い。

 冒険者に限った事ではないが美味しい食事というのは娯楽の一つだ。

 特に冒険者はその日その日を生きるために戦っている。

 勿論、運が良ければ一攫千金……実力があれば色々な素材を集められることからそれなりに稼げるが命がけなのは変わらないからな。

 そんな彼らが焼き鳥を手ににこやかに去って行くといよいよ俺達の番になり、店主は笑みを浮かべていた。


「お嬢ちゃんのお蔭で繁盛してるよ!」

「それは良いんだが、特別扱いはしないで良い。俺達もただの客だ」


 俺がそう言うとおっちゃんはぶんぶんと首を振り――。


「とんでもない! 勇者様とそのご一行……ってだけでないんだ本来なら売り上げの一部を寄越せと言われてもおかしくはない!」


 そう言うが……そのつもりは全くないんだよな。


「とにかく3人分頼むよ」

「あいよ!」


 焼き鳥が出来るまでの間に俺達は彼にこの街を去る事を告げる。

 すると不安そうな顔を浮かべはじめ――。


「そ、そうなのか? もっとこう、コツとか聞きたかったんだが……」

「コツって俺は商売人じゃないぞ? だけどそうだな……今のところは大丈夫みたいだが、客が来てるのに商品が無いってなると売れないだろ? 後は飽きさせない為に違う部位や味付けにしてみたりとか……そこは気を付けた方が良いんじゃないか?」


 多分……だけど……。


「そうか、なるほど味と在庫か……在庫の方は保存用の箱もあった方が良いかもしれないな、その二つは考えておくよ。その上で今度お嬢ちゃん達が来た時はでっかい店で出迎えてやるからな!」

「それは楽しみですね、ぜひまた寄らせてください」

「ああ、ついでにでっかい店にしたら酒を扱ってくれ、これは酒に合いそうだ」


 クリエはその時が楽しみなのか嬉しそうにおっちゃんに告げたけど、トゥスさんは本当にそればっかりだな……

 出会った当初ほどの衝撃は無いが酒、賭け、煙草以外に娯楽が無いと言い切った人だからな。

 おっちゃんはどう思うのか? そんな疑問を感じつつ顔を向けてみると――。


「あ、ああ……そうだな、エルフの好む酒も」

「いや、ドワーフの好む酒で頼む」


 彼女の言葉に困った様な笑みを浮かべた店主から焼き鳥を受け取った俺は二人へと配る。

 後ろを見るとまだ人がいっぱい居るし長居は迷惑だな。


「じゃ、また来るよ」

「道中気を付けて、恩人に何かがあったなんて知らせは要らないからな!」


 俺達は彼の言葉に笑みを浮かべ答えるといよいよクリードを後にすべく門へと向かう。

 その道のりで食べた焼き鳥は何故か一段と美味しく感じた。

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