72 王との食事
チェル達を仲間に迎えられない。
だが、神聖魔法の使い手は必要だと考えるキューラは王に誰かが居ないだろうかと食事の中で話を始めた。
事実、神聖魔法の使い手が居るだけで旅の安全性は高まるのだ。
果たして王の答えは?
「ほう、新しい仲間……か」
俺は食事の最中、行儀が悪いかとは思ったが王に先程話したことを告げる。
すると、彼は嫌な顔一つ浮かべずに考え始め――。
「でしたら、私が――!」
王子は恐らく普通の女性だったら一発で落ちるだろう爽やかな笑みを浮かべた。
が……横に居るお姫様の方はふくれっ面になってしまった。
兄がそこまで好きなのか……珍しいと言うか、歳が離れている事もあるみたいだし、普通なのか? 前世ではあまり聞いた事無いな。
「ならん、シュヴァルツよ、お前はこの街を王を継ぐ身だ……その為に私の意志の全てを教えてきた」
なるほど、その口ぶりからすると王子もやはり王様と同じ考えと言う事だろう。
「ですが、今助けになれるのは!」
「それでお前が死ぬようなことがあった時、私が存命でなかったらどうする? まだ幼いエーレに任すのか? 母も父も……お前も居なくなったその子に」
そう言えば確かに母親、つまり王女様にはあった事が無かったが、やっぱり亡くなってたのか――。
「流石に王子の手は借りれません、王が言う通り貴方の身に何かあったら国の存命に関わる事、それこそ死罪をもってしても民は許してくれないでしょう」
「うぐ……」
俺の言葉に彼は変な声を上げ黙り込んでしまった。
しかし、ついて来てもらえないのは残念だが、俺達にとって王の意志を継いでくれる彼が居てくれるのは心強い。
「そうは言うがお嬢ちゃん、誰か居そうかい?」
「出来れば私達はすぐに次の街を目指し発ちたいのですが、仲間は集めておきたいですね」
二人の言葉に王は再び唸るが……。
「すまないな、信用できそうな者と言えばあの二人ぐらいしか思いつかん……」
「そう、ですか……」
そう簡単に俺達と同じ考えの人が居ないという事なんだろう。
残念だが、仕方が無い。
「しかし、もう行くのか? 彼の回復を待った方が――」
「相手は魔王です、何時まで大人しくしているのか、いや、もうすでに被害は出ています。次の街に向かい、同志を得たいと思っています」
俺は正直にその事を告げる。
すると、彼は頷き――。
「そうか、そうだな……旅の物資は此方で出そう、食料などは気にしないでも良い。して旅立ちは何時だ?」
王の言葉を聞き俺はクリエの方へと目を向ける。
彼女も大怪我をした身だ。
それに、魔法も使えない……彼女の体調次第だと考えたのだが――クリエはゆっくりと首を縦に振った。
「明日、朝に発ちます」
「そうか、分かった……食事の後兵達に準備をさせよう」
「ありがとうございます」
礼を告げた俺達は食事を進ませた。
うん、やっぱり緊張して味が分からないな。
その日の内に王様が用意してくれた物資は部屋へと届いた。
それを確認しつつ俺はクリエに問う。
「次は何処に行くんだ?」
「ええっと……」
彼女は地図を取り出し、それを俺へと見せつつ指で地図を辿る。
「次はこのゾルグですね」
「ゾルグか……」
街の名を聞きトゥスさんはニヤリと笑う。
もしかして良い街なんだろうか? 俺は彼女に問う事にした。
「もしかして、仲間が見つかりそうとかか?」
「いや? ゾルグは酒の名産地でもあるんだ」
そうか、そういうことか……。
何かもう慣れてきた俺が居るな。
「それにゾルグには美味しいものが多いんですよ?」
つまり、酒のつまみってことか? まぁ、そう言った物は美味しいものが多い。
俺は前世も今も変わらず未成年だから酒の味は知らないが……。
「食べ物は楽しみだな」
「ついでに酒を飲めばいい」
トゥスさんの発言にクリエは乾いた笑い声を上げた。
「だ、駄目ですよ、その……」
「歳だって? あんなの法律なんてないし大人が勝手に言ってるだけだ。律儀に守ってる奴らなんて殆ど居やしない。それにドワーフなんて見た目が見た目だ。ガキの頃から飲んでる奴が多い」
そりゃ、ドワーフだし……男性は髭面らしいし……。
女性は幼い雰囲気だそうだけど、それは本当なのだろうか? だとしたら、俺が酒を飲んでもあながち文句は言われ無さそうだ。
しかし、酒を飲まない理由は歳以外にもう一つある。
「俺は止めておくよ、飲んだ事が無いから分からないけど、弱いと面倒な事になる」
「あー……」
俺の言葉でその場面を想像したのだろうか、トゥスさんは変な声を上げた。
「面倒ってもしかして魔力の事ですか?」
クリエに尋ねられ俺は首を縦に振る。
「酔っぱらって魔法を使ったら周りが焼け野原とか、そういう事になるかもしれないだろ?」
つまり、簡単に言えば飲酒運転だ。
酒に酔えば当然判断力が落ちる、魔法を使おうとして暴走すると言う事はありえるからな。
面倒な事と言ったが、それじゃ済まされないだろう。
「堅いねぇ……そんなに堅いと旦那がかわいそうだ」
いや、未成年達に酒を進めるエルフもどうなんだ? というか、俺は男だから旦那は貰わないぞ?
「旦那!? キューラちゃんのですか!? い、いいい、いいいいいい何時の間に!?」
「落ち着けクリエ、旦那は居ない! つか、作る気も無い!」
作ってたまるか!!
思わず俺は心の中で叫び声を上げた。
翌日、俺達は予定通り王城から去る事にした。
最後に王様達へとあいさつを済まそうとしたのだが、何故か彼らは捕まらなかったのだ。
伝言だけ伝え、城を後にしようとした所――。
「うわぁ……」
クリエは何処か感動したかのような声をもらす。
それもそうだろう、そこにあったのは兵士達がまるで道を作るかのように2列に並び、門の前には王であるカヴァリ、王子シュバルツ、姫エーレそしてチェルが並んでいた。
「随分と大層な見送りじゃないか」
トゥスさんもこれには驚いたのだろう、感心した声を出すと王様は微笑み――。
「大層な物か、新たなる勇者の門出だ……ここに居る者達は志を同じくするもの、何かあったらここに戻ってくるが良い、我らはお前達を歓迎こそすれ迫害はしない」
彼はそう言うとチェルと子供達と共にゆっくりとこちらへと歩み寄って来て、俺の手に見覚えのある剣を手渡して来た。
「これって……」
確か奴隷商人に盗られた物だ!
「アタシが回収しておいたんだ、ちょっと細工してたからね、返すのに時間がかかっちまったよ」
そうだったのか……。
「ありがとうございます。クリード王、トゥスさん」
俺が礼を言うと王はゆっくりと頷き俺達へと告げる。
「事が終わったら皆で祝杯を上げよう、必ず戻って来い」
それは何かのフラグに聞こえるんだが、彼はそんな事を知るはずもない。
それに俺は約束をしたんだ……。
「はい、必ず皆で戻ってきます」
「絶対だよ? カイン君が起きたら追いかけるけど、怪我とかしたりしたら駄目だからね?」
何故かチェルが怒って俺を睨んだような気がしたけど、そりゃそうか、俺は大怪我クリエは死にかけたんだからな……。
「大丈夫だ、その為に保護者としてアタシが居る」
トゥスさんはトゥスさんで保護者と言う感じがしないが……。
それはチェルも思ったのだろう、溜息をついている。
「では、私達はそろそろ発ちますね」
クリエは何処か気恥ずかしそうにはにかむとそう言って歩き出してしまい。
俺達は慌てて彼女の後を追う――
初めてだったんだろう、自分の運命を知る者達がこう言った見送りをしてくれたのは……。
死を待つだけの運命、そんな悲しいしがらみは今の彼女にはない。
しかし、奇跡を使えなくなったと言っても彼女は勇者……これからも迫害を受けるだろう……。
だからこそ、俺が――いや、俺達がちゃんと支えないといけないんだ。
キューラ達が去った後、王カヴァリはゆっくりと口を開く……。
「良く脳裏に刻んでおくといいシュヴァルツ、エーレよ……」
「はい! クリエ様は酷く残酷な運命を背負いつつも――」
そう口にした王子の肩へと手を置いたカヴァリは瞳を閉じゆっくりと首を左右に振った。
「最古の勇者は自身の家族を魔物や獣の守る為、武器を作り力を振るった……だが勇者は変わった」
「勇者が変わったとはどういうことですか? お父様?」
傍らに立つ娘に尋ねられた王はチェルの方へと目を向ける。
そして、彼女が身に着けている紋章を目にし――娘の質問へと答えた。
「それはな――」




