71 治癒魔法の使い手は?
今だ目を覚まさないカイン……。
チェルはそんな彼についていることを決め、キューラ達の旅に加わらないことを告げた。
キューラは予想していた事ではある事から彼女の意見を汲むのだが、彼女ほどの治癒魔法の使い手に心当たりがある訳がなく……
カインとチェルの事を王に伝えた俺達は一旦部屋へと戻った。
これからの事を話す為だ。
「それで、どうするんだい? こう言っちゃなんだが、あのお嬢ちゃんの神聖魔法……特に治癒は必要だろ? 置いて行くのは得策じゃない」
部屋の椅子に腰かけたエルフの女性はコップに酒を注ぎつつそう口にする。
また酒かよ、と思いつつも以前の事がある。
話ぐらいは出来るだろう……。
「さっき言った通り、旅立つ事は決めた……だが、神聖魔法は――」
どうするか、考えていない。
旅をする以上、治癒魔法と言う手段は必要だ。
病気を治すには薬しかないが、怪我を瞬時に治す事が出来るんだからな。
そして、それは混血である俺には出来ない事だ。
だからこそ、チェルの魔法に頼りたかったんだけど、今回ばかりはなぁ……。
「その、トゥスさん……私はまだ魔法を使っちゃ駄目なんでしょうか?」
俺が頭を悩ませているとクリエがおずおずとトゥスさんに尋ねる。
彼女は確かに神聖魔法が使える。
だが、今は精霊石の影響で魔法が使えなくなってしまっているはずだ。
それが治るのがいつなのか俺も聞いていないんじゃないか?
「……まだ駄目だね、魔力が乱れてる」
「そうですか……」
トゥスさんの言葉にクリエはがっくりと項垂れる。
それにしてもはっきりと言うって事はエルフには魔力の流れを読むことが出来、それ故に魔法が使えるか、使えないかが分かるのか?
「なぁ、トゥスさんなんで魔力の事が分かるんだ?」
「分かるも何も昔からそう感じる、エルフは皆そうだ……魔法が使えるか使えないか見れば分かる。お嬢ちゃん達混血と人間、使える魔法が違うだろ? それも理由はまだ分からないが、それが魔族と人間の違いでもある。エルフも同じようなものさ」
なるほど、確かに俺達魔族の血が流れる混血は神聖魔法が使えない。
そして、クリエ達人間は古代魔法が使えない。
更に、エルフは魔法を使う事は出来ないが魔力に対する知識があり、精霊石という魔法の道具を作る事が出来る。
最後にドワーフは魔法に関しての才は一切ない。
考えて見れば不思議だ。
同じ人なのに魔法が使える使えないでは差がある。
だからこそ、エルフにしか精霊石を作れないのかもしれないな。
「でも、困りましたね……魔法が使えないんじゃ怪我をしたらキューラちゃん達が……」
クリエは相変わらず俺達の心配か……ありがたいが自分の心配もしてほしいものだ。
「仕方ない、なるべく戦闘は避けるように次の街に向かうしかない。傷薬も多めに買っておこう」
「傷薬か、それもそうだね、ただ買うとしたら新しいものにしないといけないね」
トゥスさんの言う通り買うなら新鮮な物だ。理由は勿論ゲームとは違いこの世界の傷薬は当然のように腐る。
それも仕方が無い物だ……薬草を磨り潰して色んなものを混ぜているのだから、薬草単品よりも腐りやすい。
「そうですね! いざ使う時に腐らせて使えないのはもう嫌です!」
クリエ……それは誰もが思っている事だよ。
俺もターグもミアラ先輩も傷薬を腐らせてしまった事はあったしな。
分かっていてもすぐに頼れる治癒魔法があったからなんだけど……あれは勿体なかった。
だからこそ、旅では買うのが躊躇われ治癒魔法が使える者が重宝されるんだと授業でも習った。
治癒魔法とはそれだけ重要なものだ……早めに解決をしておきたい。
「って王様に頼めばいいんじゃないか?」
「確かにそうだけど、同じ考えの人間がそう何人も居る訳じゃない」
そう、だよな……だからこそチェルを紹介してくれたのかもしれないし、望みは薄いか……。
俺が落ち込むとライムは頭の上でピョンピョン跳ね励ましてくれた。
「でも、一応聞いてみましょう? もしかしたら、良い人がいるかもしれませんし」
「ああ、そうするか……」
俺は頷き、立ち上がる。
「今は止めておいた方が良い」
「なんでだ?」
王様を頼るって決めたばかりだ。
行動は早い方が良いだろうにそう思いつつトゥスさんに尋ねると――。
「そろそろ公務の時間だ。それに謁見だってある。話は夜中にしておきな」
「そうか、分かった」
相手は王様だ、多分俺達が話があると言えば無理に時間は作ってくれるだろう。
だが、邪魔をしたら良くないよな。
「王様って色々と大変なんですね……」
「そりゃ、国をまとめてるんだ。お嬢ちゃんとは違った苦労があるのさ」
クリエはなるほどと呟きながら頷いた。
本当いつもこうなら美人なお姉さんなんだけどな。
「それじゃ、夜食事の時かその後にお話ししましょうか? キューラちゃん」
「そうしよう……ついて来てくれる人が居れば良いんだが……」
そんな都合の良い展開にはならないだろうな。
時間は過ぎ、顔を赤くしたトゥスさんと彼女を心配するクリエと共に食事へと向かう。
結局あれからトゥスさんは酒を飲み続けていた。
というか……どれだけ入るんだこの人? と言う量は飲んでいた。
その所為かふらふらと歩き、クリエを心配させてるみたいだ。
しかし、本人は――。
「大丈夫、酔っちゃいないよ」
何処からどう見ても酔っ払いだってのっと口から出かかったのを飲み込みつつ俺は扉を開く。
すると、そこには豪勢な料理が並べられており、俺達は使用人さん達の指示に従い椅子へと腰を下ろす。
何度目かになる食事だが、こういった事はなれないな。
美味しいのは美味しんだが、緊張してあまり味がしない時がある。
以外にもクリエもそうなのか食事の時はガチガチだ。
「すまない待たせたね」
俺達が席に着いてから暫くすると王であるカヴァリは席に着いた。
それに続く様に王子、姫も椅子へと座った事を確認すると――。
「さぁ、食事を始めよう」
王の一言で目の前のグラスに飲み物が注がれた。
勿論、未成年である俺や王子達には果実酒などではなく搾り汁、つまりジュースだ。
クリエも同じ物と言う事は成人はしていないのだろう、問題は――。
「あー、別のは無いか?」
出てきた酒に文句を言う始末だった。
「すまないな、城にあるのでは君が普段飲んでいる物より質が落ちる。こっちの果実酒の方が味が良くてな」
「そうかい、じゃぁ今日は自前ので良い」
おいおい、失礼極まりないなっと思ったのだが、王様は頷くと視線を使用人の方へと向け下がらせた。
「では、皆飲み物は揃ったな……乾杯」
そうして、慣れない食事は始まった……。