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70 心配事

 キューラとクリエ、そしてトゥス達は城の中での生活を送っていた。

 クリエに対する差別もなく、快適な日々ではあったが心配事はまだある。

 そんな中、キューラはクリエと共に城の中を歩きその心配事の一つ様子を見に行くことにした。

 服を買ってから数日後……。

 カインの容体は変わらずと言った所だった。

 命には別状はない、だが目を覚まさない。

 毒や呪いの類を疑ったのだが、どうやらそうではない様だ……疲労と精神的な物だと神官は言っていた。

 しかし、この世界には点滴という物が無い、つまり栄養が取れない訳だ……後数日長引けば命にかかわるだろう。

 そう思っていた……だから針や薬を開発できればと思うんだが――。

 残念ながら俺には医学的な知識はない。

 針はまぁ形状を絵にかけば良いだろう、それと万が一血管に空気が入った時の危険性も添えて置けば作れるとは思う……。

 しかし、問題は栄養剤。

 あれって結局何で出来てるのか俺は知らないんだよな……漫画で読んだような気もするが……。

 そんな事を考えながらクリエと共にカインのいる部屋へと向かう。

 最早歩きなれた城の中を進み、扉へと手を駆けると――。


「あ、キューラちゃん!?」


 慌ててクリエが止めに来た。


「どうした?」

「一応ノックしておいた方が……」


 そうか? 中に居るとしてもチェルぐらいだろう……。

 あーでも、もしかしたら泣いてるかもしれないよな。

 そう思うとノックをした方が――。


「何やってるんだい、お嬢ちゃん達?」


 突然聞こえた声に俺は振り返る。

 そこに居たのは昼間だと言うのに酒を抱えている女性のエルフ……トゥスさんだ。


「何って決まってるだろ?」


 見舞い以外なにがあると言うのだろうか? そう思って口に出すとトゥスさんは――。


「いや、入るなら早く入りな」


 彼女はそう言うと俺を退かし扉へと手をかけ――。


「トゥスさん、ノック! ノックをしてから入った方が良いですよ!!」


 クリエが慌てる声に振り返ったトゥスさんだったが、彼女は予想外の言葉を口にした。


「面倒」

「はいっ!?」


 彼女はたった一言を口にしつつ扉を開け――俺達を部屋へと押し込める。

 俺は転びそうになって慌てる羽目になったが、クリエに支えられ事なきを得た。

 それにしても、トゥスさんいきなりなにをするんだ!!

 少し注意した方が良いよな? そう思って顔を上げた時――。


「「………………」」


 俺とクリエは固まり、俺達に気が付いたチェルもまた固まっていた。


「え、あ、あの……」


 そして、チェルは慌て始めた。

 それもそうだろう、チェルはカインにキスをしていた。

 何が起きてるのか分からない、ただ寝込みを襲うような子じゃないと思ってはいたんだが……もしかしてこの世界の女の子は積極的なのだろうか?

 そんな事をぐるぐると頭で考えていると――。


「ち、違うからね!? その、これ、これだから!!」


 彼女は何か器のような物を取り出し、そこには何か入っていたのだろうか?


「このまま食事が取れないとカイン君が……」

「食事? 食事っても……」


 カインは寝たきりというか意識不明だ。

 下手に何かを食わせれば喉に詰まらせてしまうだろう、何をしてるんだ?


「どうやら、カインさんは食事は出来るそうです……その、だからチェルちゃんが噛み崩して……」

「意識不明なのに出来るのか?」

「その、完全に意識が無いと言うか目を覚まさないのはそうなんだけど……今の会話も聞こえてはいると思う」


 そんな症状があるのか、知らなかったな……って、いや待て……なら流動食を作れば良いんじゃないか?

 なのにわざわざ口移しで食べさせる理由なんて……そう思うものの焦るチェルを見ていると突っ込みを入れ辛い。


「……そうだったのか」


 俺は何とかそう口に出すとカインの傍へと寄る。

 怪我も無い、栄養も取れている、だが目を覚まさない。

 これが呪いじゃないと言うんだから起きない理由が分からないな。


「あの、キューラちゃん……」

「ん?」


 俺はチェルに名前を呼ばれ彼女の方へと向く。

 すると、彼女は視線を逸らした……一体どうしたと言うのだろうか?


「チェルちゃん、どうかしたんですか?」

「…………」


 クリエも内容が気になったのだろう、訪ねるがチェルは黙ったままだ。

 すると痺れを切らした様子のトゥスさんが――。


「お嬢ちゃん、だんまりじゃ何を言いたいのか分からない」

「トゥスさん、言いにくい事なのかもしれないだろ?」


 彼女をそうたしなめた俺はチェルの言葉を待つ。

 暫くし、カインへと目を向けた彼女は――。


「その……クリエさんの従者の件、今は無理なの」

「…………」


 それはある程度予測できたものだった。

 彼女はカインについて来たんだ、その彼が今この状態で放っておいて俺達に付いてくると言うのは到底無理だろう。


「チェルちゃん……?」

「勿論、人を人として見ない人達は許せない。だけど……カイン君が目を覚まさないと……不安で……もしかしたらこのままって思っちゃって……」


 涙声でそう説明するチェルに俺が癒える事なんて一つしかないだろう……。


「そうだな」


 チェルはクリエを助けてくれた。

 カインだって窮地を救ってくれた。

 もし、今目を覚まさないのがその所為だとしたら、俺は彼女を連れて行くことはできない。

 彼女はカインの傍に居て彼を介抱する方が良いだろう……。


「カインが起きて、それでしっかりと身体を治してから手紙でもくれ、そうしたら二人を迎えに来る。それで良いよなクリエ」


 クリエはカインを一行に加えない。

 そう言っていたが、この場では頷き答えた。


「勿論です、まずはカインさんが目を覚ます事が先ですよ」

「ありがとう、クリエさん」


 ほっとした様子のチェル。

 彼女のそんな姿を見て俺は――気が付いた。


「チェル、カインが心配なのは分かる、でもしっかりと休んでおいた方が良い。カインが起きてもチェルが倒れてたら意味が無いだろ?」


 彼女は目を丸めるが気が付かないとでも思ったのだろうか?

 いや、実際気が付くまで時間がかかったから、隠し通せると思ったのだろう。

 時折彼女は疲れた表情を見せていた。


「そう、だね……うん、後で王様に人を頼んでみる」


 弱弱しい声に彼女がどれだけ心配していたのかが見て取れた。

 俺達三人はこのままチェルが人を呼ばない可能性を考え、その場から離れ王に頼みに行くことにした。


「で、どうするんだい?」


 その途中、トゥスさんが唐突に質問してきた。


「……チェルとカインの事を頼んだら身支度をして旅立つ」


 俺はそれにそう答えると、クリエは一瞬驚いたがすぐに顔を引き締める。


「そうですね、何時までもここに居る訳には行きませんし」

「ああ……」


 そう、俺達は何時までも一つのとこには留まれない。

 目的はあくまで魔王の討伐だ。

 だから、旅をし仲間を集い、先に進む必要がある。

 チェルは今は無理と言った。つまり、カインが起きて時が来ればちゃんと仲間になってくれるはずだ。

 だから、頼むぞカイン……早く起きて彼女を安心させてあげてくれよ。

 じゃないと、チェルは名も姿も知らない誰かとお前の二人を失う事になる。

 優しい彼女がそれに耐えられるとは思えないんだ。

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