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69 ご機嫌な勇者

 トゥスから精霊石を受け取り、再び服屋へと向かったキューラ達。

 加工された服を身に着けた彼はふと気になる事がありクリエに服を買わないのか問う。

 すると彼女は途端に様子を変え……キューラは店員にクリエに似合う服を頼み、買うのだった。

「うへへへへへ~」


 大通りを進む中、クリエはずっとその顔を崩して笑みを浮かべていた。

 新しい服がよほど嬉しいのは分かったから、時々自身を見下ろして服の裾を掴むのは止めて欲しい。

 さっきからその度に俺は思わず目を逸らすし、男がクリエの方を向いているのが分かる。

 そりゃそうだろ、美人が似合う可愛らしい服を着て笑みを浮かべながら自身のスカートの裾を持ち上げてるんだからな……

 俺だってそうした……じゃなくてそうしていたかもしれない。

 クリエが勇者だからか、言い寄ってくる者は居ないがもう少し用心して欲しいというか、俺が持たない。

 色々と……


「キューラちゃん?」

「ん?」


 名前を呼ばれて俺はクリエの方へと向くと彼女は笑顔ではなく――


「その、どうしたんですか? 変な顔してて具合悪いんですか?」


 心配してくれたのか、彼女は俺の額に手を当ててくる。

 勿論熱はない、だが、母以外からそんな事を女性にされた事が無い俺は心臓が張り裂けそうなぐらい鼓動が早くなった。


「顔も赤いですし、熱は……無いみたいですけど……休んだ方が」

「ち、違う! その……」


 俺は彼女の手を遠ざけると耳へと口を近づける。


「きゃぁ!? そんなキューラちゃん積極的です!」


 この子は何を言っているのだろうか?

 そんな風に思いつつも俺は伝えなくてはならない事があると話を切り出した。


「何ですか?」

「道端でスカートを持ち上げるな、男が見てる……」


 本来ならこういうのはデリカシーが無いのかもしれない。

 だが、今のクリエは浮かれ過ぎてるし、喜んでくれるのは買った俺としても嬉しい。

 しかし、下手をすればいくら勇者でも彼女は女の子だ襲われるかもしれないんだ。

 慎んでほしいと俺は思いその事を伝えた。

 すると、まるでぴしりと音が鳴ったかのように固まったクリエは――


「え、えっと……その、下にその、下着以外に着てま――!?」

「ちょ!? 声! 声がデカい!?」


 何の報告だ!? そう思いつつ俺は彼女の口を大慌てで塞ぎ、黙ったのを確認した後、すぐに彼女の手を引き城への道を急いだ。

 やっぱり道端で伝えるべきじゃなかった、そう反省しつつも顔を真っ赤にするクリエを見つつ申し訳ない気持ちが溢れてくる。


「ごめん……」


 それに耐えきれず、俺は謝ると――


「キューラちゃんのエッチ……」


 出会って数日、この日俺は初めて彼女の俺に対する好感度が下がった様な気がした。

 にしても……百合勇者なクリエだって分ってるけど、そう言われるとへこむな……かなり……








 部屋へと辿り着いた俺達は椅子へと腰を掛ける。

 クリエの方へと顔を向けると彼女は顔を赤く染めたまま無理に笑顔を作り「うへへ」と笑う。

 怒ってた訳じゃないのか? そう思いつつ彼女を見つめるとゆっくりと目を逸らされた。


「そ、そのクリエ……?」

「だ、大丈夫です! 気にしてないです!」


 そう言ってくれるのはありがたいが……やっぱり目を逸らされるのは辛いものがあるな。


「その服本当によく似合ってるよ」


 最早手遅れ、そう分っていても俺はもう一度そう口にした。

 似合っているのは本当だ。

 嘘は言っていない……だけど、さっきの男が見てると言うのは余計な一言だった。

 彼女は男性が苦手だっていうのに……


「…………」


 返ってこない返事に俺は溜息すら出ず。

 怒っていても仕方が無いと思う――すると……


「うへへ……二回目でも嬉しいのは嬉しいですね」


 彼女の言葉に俺はゆっくりと顔を上げると彼女は笑みを浮かべており、此方へと向かって来るといきなり抱きしめようとした。

 俺は慌てて抱擁から逃げるとクリエは口を飛ばらせ――


「キューラちゃんのエッチ……」

「ま、待て!? 今は何も言ってないよな!?」


 俺は理不尽な言葉に思わず突っ込みを入れる。

 するとクリエは――


「さっきキューラちゃんの所為で恥ずかしい目に遭いました。ちょっと位は良いと思います、ね? ライムちゃん」


 何故ライムに聞く?

 そう思っていると名前を呼ばれたからかライムは俺の頭の上でピョンピョンと跳ねる。

 それを見てクリエは口元を歪ませた。


「ほら、ライムちゃんもそうだって言ってますよ!」

「いや、名前呼ばれたからだろ!?」


 ライムは賢いから自分が呼ばれた事は理解してるだろう、しかしその内容までは――いや、今までの事を考えると理解してるのか?

 とすると俺はライムに見捨てられたと言う事だろうか? そんな馬鹿な……


「じゃぁ、そういう事ですので……」


 クリエはそう言うと徐に鎧を脱ぎ始めた。


「何で鎧を脱ぐ必要がある!?」


 全部脱がないだけましだけど! ましだけど!? そう思うのも束の間、俺はクリエに捕まってしまった。


「ちょ!? クリエ俺は一応――」

「駄目です! 今日は私は恥ずかしい思いをしたんですっ! これ位我慢してください」

「ぐぬぬ……」


 そう言われると俺はもう何も言えなかった……

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