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68 精霊石の服

 キューラが出した答え――

 それは、魔拳を使いこなす事だった。

 それ故にやはり耐火の加工はしたい、そう思う彼に対しクリエとトゥスは止めるが、キューラは「死ぬつもりはない」と告げる。

 そんな彼の言葉に折れたトゥスは使えるようになったら耐火の精霊石を作る事を約束し、別の効果を持つ精霊石を作ってくれると口にしたのだった。

 数日後、約束通りトゥスさんは精霊石を持ってきてくれた。

 それを服屋に持って行くと――


「綺麗な装飾です! でも飾り過ぎずキューラちゃんにぴったりです!」


 高いテンションでそう言うのは勿論クリエだ。

 彼女は相変わらずうへへと笑っている。

 しかし、なんだ……慣れとは恐いものだな……


「どうしたんです? そんな見つめて――もしかして――!!」

「そんな期待に満ちた顔をしても何も無いからな?」


 何を考えたのかはあえて聞かない様にしよう……聞いたら聞いたで後悔しそうだからな。

 取りあえず、がっくりしてるクリエは放っておく事にし、俺は姿見に映った自身の姿を目にする。

 所々にちりばめられた精霊石がまるで宝石のようにも見える。

 ちょっと女の子っぽ過ぎる気もするな。

 そんな事を考えてはいたのだが、出来たものにこれ以上のケチをつける気はない。

 ただ、まぁ……


「クリエは服買わないのか?」

「え?」


 以前も気にはなったのだが、何故かクリエは服を買わなかった。

 見れば結構ボロボロだ。

 俺は魔拳の所為で燃えていた事もあるが、彼女のだって新調した方が良くないか?

 そう思って聞いて見たんだが、彼女は意外そうな顔を浮かべている。

 もしかして、勇者だから着飾る必要はないとでもいうつもりか、それとも言われたのか……もしそうだとしたら、それは違う。


「服、ボロボロだろ? 新しいの買おう、もし足りないなら俺が出すよ」


 そう、実はチェル達を助けたと言う事で金一封を王から頂いた。


「で、でも……ほら私は……ですから」


 彼女の言葉はほとんど聞き取れなかった。

 だが、恐らくは勇者ですからとでも言ったに違いない。


「店員さん、クリエに合う服を頼みたいんだ……鎧の邪魔にならないような物が良いんだけど……」


 クリエは正真正銘の女の子だしな、それなりのお洒落はしたいだろう。


「はい! ではこちらはいかがでしょうか?」


 そう言って早速差し出された服は適度な丈のスカートを合わせた物だった。


「これ位の長さでしたら今身に着けていらっしゃる鎧にも合うと思いますし、ちゃんと可愛らしさも出せますよ! しかも新作で織り込みがある物なんです」


 俺が来ているそれとは違い、そのスカートは確かに織り込みがある……たしかプリーツスカートとか言う物だっけか?

 多分そんな名前の物だ。


「で、でも私には似合わないですよ」


 そんな事はないだろう、そう言おうとした所――


「いえ! 絶対お似合いですよ!」


 店員さんの強い一声にクリエはうへへと笑った。





 そして、クリエが服を受け取って着替えに向かおうとした時、何故か彼女は俺の手を引いた。


「何で俺の手を掴んでるんだ?」

「え? だって着替えに行くんですよ?」


 うん、何で疑問形なのかが気になる。


「いや、一人で着替えてくれ、というか、一緒に行けるわけがないだろ?」


 俺は男だし、なにより――


「お風呂も一緒に入ったのにですか?」

「ぐぬぅ……」


 そ、それを言われると色々と反論が出来ないが……


「そ、それでも着替えは駄目だ! ほ、ほら、着替えた後の楽しみが無くなるだろ? な?」


 俺は諭すように彼女にそう言うと、クリエは納得がいかないと言った風な表情を浮かべつつ――


「分かりました……」


 渋々一人で着替えに行ってくれた。


「仲がよろしいんですね!」


 俺の気持ちを知らない店員さんは笑みを浮かべてそう言うが……違うんだよ、クリエはただの百合なだけだっとは言えず。


「は、はは、ははは…………」


 笑って答えるしかなかった。

 そんな俺を見て店員さんは可愛らしく首をかしげていた。








 着替えが終わったクリエが戻ってきた。

 彼女は鎧の下に服を着こむ形にはなっているが、以前の服とは違い飾り気のある服の彼女は顔を赤く染め若干もじもじとしつつ……


「ど、どうでしょうか?」


 視線をあっちこっちに彷徨わせながら訪ねてきた。

 当然俺はそんな彼女を見て似合ってるよと――


「…………………」


 言う事が出来なかった。



「キューラちゃん?」


 いや、だって仕方が無いだろ? 美人がもじもじとしながら新しい服はどうですか? と聞いてくるんだぞ? しかもその服がに合ってるのは間違いはない。

 だけど、ただそれだけで良いのか? と疑問だらけだ……


「やっぱり私なんかがこんな可愛い服を着ても……」


 しかし、俺が何も言わなかった事で不安に思ってしまったのか、クリエがしゅんとしてしまい。

 俺は慌てて――


「そ、そんな事無いって似合ってる! ただその……似合い過ぎててその、何て言ったら良いのか分からなかったんだ……」


 正直にそう言うと彼女はその顔に笑みを再び浮かべ――


「うへへ……キューラちゃんに褒められました」


 なんというか、その……美人の中に可愛らしさがある様な気がしてきたぞ……いや、気がすると言うかそうなんだが……


「本当に仲が良いんですね」


 店員さんは相変わらずの反応だ。

 それに頷いたクリエは――


「はい! キューラちゃんは私の大事なお嫁さんです」

「「よ、嫁!?」」


 俺と店員さんはほぼ同時に驚いた声を上げる。

 何故嫁なんだ!? と思うのも束の間――


「あ、はは……ははは……お会計は38ケートになります」


 ああ、店員さんが明らかに引いている。

 そして、俺の服よりも妙に高いな…・・・ ま、まぁ仕方が無いか、とにかく今はお金を払ってさっさとこの場を離れよう。


「38ケートだな?」


 俺は財布から金を取り出し、店員さんに手渡す。


「うへへへ……初めて人に買ってもらっちゃいました」


 特権で貰える、安くなる筈なんだが、買ってもらった事が嬉しかったのかクリエはご満悦だ。

 まぁ、彼女が喜んでるなら良いか。

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