67 託された力は諸刃
耐火の加工の為、精霊石を作って欲しい。
キューラはトゥスにその事を告げた。
しかし、トゥスはそれを断るとキューラが託された力…‥‥魔拳の事を語り始めた。
その力は同胞達を食らい続けてきた諸刃の剣だったのだ。
キューラがそれを聞き……出した答えは――
「…………………」
俺が新たに得た魔法……それは勇者を守る為に従者が作った魔法。
そして、その魔法は命を奪い続けてきた……
魔法の作成者であるアウク・フィアランスは自殺をした……か……
フィアランスって事はチェルと関係があるんだろうし、気になる事ではある。
だけど、今はそれよりも――
「トゥスさんの話は分かった……だけどやっぱりお願いできないか?」
それを聞いても俺の意志は変えようが無かった。
「今の話を聞いてたのかい? 危険だって言ってるんだ!」
「そ、そうですよ! だってそれじゃ……キューラちゃんが!!」
確かに危険だ……実際に使ったから痛いほど分かる。
痛みで良く気が狂わなかった……そう言われてもおかしくはないだろう。
だが、魔拳は勇者を守る為の魔法、これは俺の推測だが――
「本当にアウク・フィアランスはただの自殺だったのか?」
「何を言って――!!」
今までの人間は魔法を使ったら焼け死んでいた。
だが、俺は生きている……腕は焼けてしまったが、まだチェルに治せる範囲だった。
つまり、今まで魔法を使おうとしてきた者達には何かが足りなかったんじゃないか?
そして、その足りない何かを伝える手段に死ぬことが必要だったんじゃないか?
魔法に関して全て知っている訳じゃない。
だが、呪いの一つに魂だけをこの世に永遠に引き留めておく、そして死んだときの苦しみを味わうという物があるのを俺はシェート先生から聞いた覚えがある。
呪いを解く条件は生前成し遂げなかったことをするだ。死んでしまっているんだ、当然そんな事は敵わない……
「夢や現実に幻として現れたのがアウク・フィアランスなら……あの魔法を使う条件ってのを俺に伝えようとしてるんじゃないか?」
何よりアイツは俺に使いこなして見せろと言ったんだ。
「だから自分が犠牲になるってのかい?」
トゥスさんは俺を睨み、低い声でそんな事を言って来た。
クリエは不安からか泣きそうだ。
だが――ここで言う事は決まってる。
「死なないさ」
そう、死ぬわけにはいかない。
俺はクリエに奇跡を使うな、死ぬ必要はないとそう思い言った。
なのに、その俺が自分の命は犠牲にしても良いなんて言える訳が無い、それはただのわがままだ。
俺は泥水をすすってでも生きなきゃならない、クリエを守る為に命を落としたら何の意味も無い。
「キューラちゃん……そうは言っても、き、危険な魔法なんですよ!? キューラちゃんにその気が無くても」
「使いこなせたのは一人だ」
トゥスさんの言った言葉を繰り替えす。
すると、トゥスさんの視線が鋭くなったが知った事ではない。
「つまり、一人は居たんだ……可能性はゼロじゃない。勿論、使いこなせない内は何の考えも無しに使わないさ、だが――いつか使える時の為に精霊石は必要なんだ」
「下らないね、天才と呼ばれたアイツにお嬢ちゃんが迫れると? 才能だけじゃアイツに追いつけない、追い越せない……お嬢ちゃんが思っているよりその魔法は諸刃だ」
分かってる……分かってるさ……
だからこそ、今までは誰も使えなかった……だが――
「俺は辛うじてでも使えただろ? 他の人達はどうだったんだ?」
「…………」
俺の質問にトゥスさんは黙り込んだ。
そして――
「死んだよ、腕何かで済む以前にね」
そう答えが返ってきた。
俺の予想は当たって欲しくはなかったがどうやら正解の様だ。
彼女が言った通り、一人以外は……いや、皆死んだと言う事か……
「ね、ねぇ? やっぱりそんな魔法……やめましょう?」
「俺は死ぬつもりはない、だけど力が欲しい……今すぐにじゃない、いずれだ! だから、俺はあの魔法を使いこなしたい」
「で、でも……トゥスさんは一人も生き残ってないって……」
クリエは最早涙声だ。
だが言った通り、俺は力が欲しい……守る為の術が……
その為に作った魔法なら、尚更なんだ。
「はぁ……」
俺の変わらない意志の所為だろう、トゥスさんは大きなため息をついた。
そして、紫煙を吐き出しながら頭を搔き乱すと――
「お嬢ちゃんが完全にその魔法を使えるようになったら考えてやる」
「それじゃ……」
遅いんだ! そう言おうとしたのだが彼女は指を俺へと突き付け……
「その代わり、その服が破れない様に強化の魔法はかけてあげるよ、勿論魔法は使いこなせるまでむやみに使うのは無しだ」
うーん……服が燃える可能性があるから耐火の魔法が良いんだけどなぁ……
「良いかい? お嬢ちゃんは今”唯一”の従者だ! それを忘れない事だね」
唯一の部分を強調してきたな……
そりゃもうクリエは魔法を使えないって言ってたし、分かっている。
「良いかい?」
「……分かった、それで頼む」
強化の魔法なら多少なりも耐火の効果はあるだろう。
それにしても使いこなせるようになるとは言ったものの……どこで練習をすればいいのかさっぱりだな。
下手に使えば両腕が燃える……だけじゃなく俺自身が黒焦げだ。
ただ魔法が不発に終わるだけなら、問題はないが死ぬのだけは勘弁だしなぁ
あの夢の中で修業が出来ればな、なんて都合のいい事できる訳が無いか……なんにせよ、どうにかしないと俺は――
「使いこなせないだろうけどね」
まるで俺の心を読んだかのようなタイミングでトゥスさんはそう口にし、吸い殻を灰皿へと捨てる。
「わ、私もそんな危険な魔法は使わないでほしいです」
クリエは相変わらずだな。
そう思いつつも俺は彼女の肩に手を乗せた。
「大丈夫だ、クリエに約束させたんだ俺も死なないよ」
彼女にはしっかりと言葉で伝えなければならない。
だから、俺は笑みを浮かべ彼女にそう言った。
「はぁ、とにかく精霊石は準備してやる、邪魔だからとっとと部屋行きな!」
「あ、ああ……頼むよトゥスさん」
い、一応は交渉成立って事で良いんだよな? 残念ながら俺の望む形では無かったんだが……仕方が無いか。