6 両親と勇者
勇者の旅について行く者を決める……キューラはその候補へと入る事を決めた。
そして、全ての手続きを済ませた彼は……女性になった事をようやく両親達にも伝えるのだが……?
果たして両親達の反応は……キューラは無事、勇者の従者に選ばれるのか?
俺が候補となった事で手続きやら色々あり、勇者が来るまでの数日間はあっという間に過ぎて行った。
勿論勇者の仲間候補の原因にもなった女性化の事だが、両親にも伝えられ――。
「で……母さん、父さんなんだこれは?」
俺は目の前に居る現世の両親に出来るだけ低い声と射貫くような視線をプレゼントした。
「だって、めでたいじゃないか!」
「何が……」
「何って女の子になった上に旦那様まで決まったんだから!」
二人の笑顔に俺は心底呆れ息を吐く……。
この両親は決して悪くはない。
こんな事を言ってはいるが、男の俺に対し不必要な暴力なんてしなかったし、飯だって美味い物を食わせてくれた。
勿論叱ってくれる時はちゃんと叱ってくれた。
その上、冒険者になりたいと言った時は不安だからとこの学校まで通わせてくれているんだ。
文句のつけようのない両親だろう……一部を除いては――。
「あのな二人共、俺は女になったんだぞ? もっとあるだろ?」
「ああ、こう言っては何だが無事で何よりだ。心底嬉しいぞ」
「ええ、死なれるのは嫌ですが、生きていてくれるなら……」
こうは言っててまともっぽい意見だが――。
「本音は?」
「「女の子になってくれて嬉しい、取りあえずこの服を着なさい」」
だよな……そう来るよな。
そう思いつつ、俺は両親の持ってきた服へと目を向ける。
それは以前二人に無理矢理着せられた服であり、二人のお気に入りとなった物だ。
というか、この世界でミニスカートを着る事になるとは思わなかった、男の俺が来ても見苦し……くはないか……。
似合ってしまったから、この両親のお気に入りとなったんだし……だけど、なんだこの敗北感……。
「とにかく、今日は勇者様と会うんだろ? なら少しまともな服を着てた置いた方が良い」
「そうよ? 連れてってもらわないと駄目なんでしょ?」
因みに両親には俺の呪いが魔王を倒せば解けるかもしれないというのは言ってない。
それは何故か? 絶対に文句を言われるからだ……。
いや事実、魔王討伐なんて言葉が出た時には心配の余りしばらく引っ付いてきたぐらいだからな。
複雑だが……その上で男に戻るなんて聞いたら絶対に旅に行けないだろうな……。
女になったことを心底喜んでるし……。
普通は死ぬ事の方を心配して欲しいものだが、勇者が居るというだけであっさり許可されたぐらいだ。
そっちはもう心配していないだろう。
しかし、旅を許してくれたのはそれだけが理由と言う訳じゃない、俺なら魔王の呪いが効かないと言う事が伝えられてる。
それ故に魔王に対抗できる、手段の一つとなれる。その二つの理由のお陰もあって二人は旅を許してくれたような物だ。
「はぁ……」
とは言ってもこの服は……着たくない、着たくないんだ!
「勇者様は可愛い女の子が好きだと聞いてるわ、もしその格好で納得されなかったら他の子が連れて行かれるのよ?」
「ぅぐっ!?」
痛い所をついてくる……。
くそ、ミアラ先輩の……いや、女の子たちの危機というのも伝えられてしまっているんだったか……。
くそ、もう逃げ道は無い……覚悟を、決めるしか……ない!
「分かったよ着る、着るよ……」
俺はそう言うと仕方が無しに服を掴む。
すると二人は満足そうに頷きじっと俺の方を見て来た。
それに溜息をつきながら頷くと、俺は近くにある小部屋へと向かう……。
部屋の中に入り、何度目かになる溜息をついた俺は着ている服へと手をかけ――着替えを済ませ部屋へと戻ると――。
「おお、やっぱり似合っているぞ我が娘」
「ええ、本当に可愛らしい……」
誰か何とかしてくれこの両親を……と俺は頭を抱えた。
それから暫くし、俺は学校にある教会に来ていた。
どうやら、ここまで勇者について来た司祭の人から話があり、名前が呼ばれ勇者に一人一人面接をされるらしい……。
俺以外に居るのは女性の生徒3人に男性が10人……勇者は女性が良いって言ったけど、理由が理由だけにやっぱり集まらなかったんだな。
そんな事を考えながらぼんやりしていると司祭が現れた。
「生徒の皆さん、初めまして……この度は勇者の為に集まっていただき、ありがとうございます。皆さん優秀な生徒だという報告は聞いておりますが、勇者に選ばれるというのは大変名誉な事……皆さんのご武運をお祈りします」
大きな声でそう告げると頭を下げた司祭。
名誉な事か……確かに魔王討伐とかに関われば名誉だとは思うが……実際はどうなんだろうな?
それでお金がもらえるという訳ではないだろう……勇者と言っても道中の旅では冒険者と一緒で依頼で金稼ぎをするって聞いた事があるしな。
「では、名前を呼んだ生徒さんからこちらの部屋に……まずは戦士科キリーク・ハイロゥさん」
俺が考えてると最初の生徒が呼ばれ小部屋へと入っていく……が――部屋に入って数秒……。
「早いな……」
がっくりとした足取りで出て行くキリーク先輩……まさか、落ちたのか?
でも、あの人って確か科のトップだったはずだぞ!? 俺達の情報は知ってるみたいだが……数秒で落ちるってどれだけ倍率が高い……。
いや、まさか男だからか? そんな訳……だって旅だぞ!? この世界には魔物とかも居るしトップの成績の奴を落とすって言うのは無策にもほどがある。
そんな事を考えていると名前はどんどん読み上げられていき、ついに男子生徒は残り2人……勿論俺を含めてだ。
「嘘だろ……あの人もかよ……」
俺以外に残っていた男は確か盗賊科の生徒だ。
トップって程ではなかったはずだが……ここに集められた以上優秀な生徒である事は間違いない。
「俺、大丈夫かな?」
「次、古代魔法科……キューラ・クーア」
俺は不安を抱えたまま名前を呼ばれ個室へと足を運ぶ……。
まさか、ここまで頑なだとは……情報が行ってるって事は俺が男だって言う事もばれてるよな?
このままじゃ本当に危険な旅に女の子が危険な勇者に……。
そう思いつつ、扉を開けると――。
「はぁ……次も男性……でしたよね……?」
そこに居たのは短い金髪を揺らし半眼でこちらを見つめる……その瞳は髪と同じ色だ。
瞳が金色……その瞳はこの世界では恐らく目の前に居る一人だけだろう……なにせそれが勇者の証だからだ。
……その証拠に何処か神秘的で見ていると吸い込まれそうな位綺麗な黄金の瞳だ。
何よりその瞳や髪を飾る顔……可愛いというよりは美人で……胸がでかい。
そこに居たのは女性だった……。
「って……あれ? 次の人は? 確か男性だったはずでしたけど……」
彼女は手に取った羊皮紙へと目を落とし、困惑をしている。
そうか俺は今女性の格好をしていたんだ……その事を思い出し慌てて彼女に告げた。
「俺はその……魔族の呪いを防いだ時に女性になってしまって、それで男性と書かれているんです」
「……呪いを防いだ時ですか?」
彼女は俺の話を聞き眉をひそめた。
「じゃぁ今は女の子なんですか? 証拠は?」
「証拠って……そう言われても見た目と声は変わってないですし……」
うわぁ、言ってて悲しくなってきたぞ……元から女の子だって言ってもそのまま押し通せる容姿と声だったからな……。
困っていると彼女は溜息をつき――。
「あのね、私が女の子じゃなきゃ嫌って言ってるのは伝わってますよね?」
そう告げられた……いや、それは知ってる。
でも勇者が女の子だって言うのは知らなかった……勇者というからてっきり男なのだと思ってたんだが――。
「伝わっていないのならもう一度言いますが、私は女の子でなければ嫌です。ですので証拠を見せてください」
だよな……相手は女性だもんな。
せめて一人や二人は同性の仲間が欲しいと言うのは理解が出来る……とはいえ、この願いには困ったことになった。
「ですから証拠と言われても……」
何を証拠とすればいいんだよ……俺の困り顔を見て勇者は笑みを浮かべると席から立ち上がり――。
ゆっくりと俺に近づいてくる。
「ありますよ簡単な方法が……」
「へ!? ちょ……なんで服に手をかけ!?」
確かにそうすれば分かるだろうけど!?
焦る俺の意見は無視されたのだろう……俺は勇者による性別診断を受ける羽目になった。