65 新しい服
キューラはクリエと共に死地……服屋へと向かう。
そこで彼は勇者の手により着せ替え人形とかしていた。
しかし、渡される服は露出が多く、キューラは思わずナンパ男にでも攫われるんじゃないか? と口にした。
すると、クリエから渡された服はようやくまともな物で……
新しく渡された服はいたって普通だ。
肌をあまり見せない物で何処かアコライトと言った方が良いのだろうか? 神官っぽい服ではあるんだが……
「うへへ、キューラちゃん似合ってます」
「なぁ、コレ風が少しでも吹いたら下着が見えるんじゃないか?」
スカートと言っていいのだろうか? いや、腰に布を巻いてると言った方が良いのかもしれない……というか、このベルトみたいな物はただの飾りなのだろうか? やけに余って歩きづらい。
「えっと、それは――こうするんですよ?」
クリエはそう言うとベルトを直してくれた。
なるほど、そこにベルトを通す所があったのか……だが――
「やっぱり、風に吹かれたらまずいんじゃないか?」
ベルトで多少固定はされたがこの服は太ももがもろに見えている。
かなり、きわどい所までだ。
「だ、大丈夫ですよ! 肌が見える場所も太ももぐらいですし……これ以上は私が――」
「クリエが何だ?」
「キューラちゃんの肌が見えないのはあまりに耐えられません」
……この子は本当に何を言っているのだろうか? そう思いつつ俺はクリエを見つめる。
すると、彼女は慌てた様に――
「ま、待ってください! そんな残念な人を見るような目で見ないでください! だって仕方ないじゃないですか! 折角の美少女なんですから出来ればこっちの方が良かったんですよ!?」
そう言って彼女が掴んだのは服とは到底思えない物というか紐。
こいつ、さっきの服を買おうと思ってたのか……そんな風に思っていると、騒がしかったのか店員さんがこちらへと来て――
「ゆ、勇者様、その申し訳ないのですが……」
「は、はい?」
急に話しかけられた彼女はびくりとするが、相手が女性だった事に安堵すると――
「なんでしょうか?」
満面の笑みで尋ねた……うん、本当に女好きだな。
これが男だったらと思うと恐ろしい……この性格だったら確実に俺は襲われていたのかもしれない。
というか、美少女と呼ばれても今までと容姿が変わらないし、そこまで可愛いとは思わないんだけどな……普通だと思うっとそうじゃない。
それよりも――
「どうかしたんですか?」
俺も店員さんに尋ねると彼女は申し訳なさそうな表情で引きつった笑いを浮かべ――
「それ、服は服でも下に別の物を着込む物でして――」
「へぇ……」
なるほど、この世界でもおしゃれと言うのは色々あるんだなぁ……と素直に感心しつつクリエの持つ服へと目を向ける。
「――っ!?」
確かにというかやはりというか、別の服と合わせて着ると考えれば普通だ。
だが、それ以上に気になったのは――
「何でクリエは目を逸らした?」
「な、なんでもないですよ!?」
クリエのこの様子……間違いない。
知ってたんだ……この紐が別の服と合わせる物だと言う事に――
「た、大変申し訳ないのですが……その、クリードは治安は良い方です、ですが……その、流石にこれだけだとそちらの可愛らしい従者様? は襲われてしまう可能性もありますので……こちらをご所望でしたら別の服も……」
「あ、いえ、こっちの服を買うので大丈夫ですよ」
襲われると聞いてクリエは慌てて答える。
俺を守るのも勇者の務めだとか言ってたし、当然なんだろうが……何故だろうか? 痴女同然の格好でそうなる事は頭に入って無かったらしい……
悪気が無いのは分かるから良いんだが……いや、あるのか?
「でも、こちらがお気に召した様子でしたよね?」
「駄目です! キューラちゃんが襲われるのだけは駄目です! ああ、でも……部屋でそれを着てもらうなら……うへ、うへへへ」
うん、悪気はあるのか? 良く分からなくなってきたな。
「と、とにかくこっちの服のお金を支払います!」
クリエは俺の視線に気が付いたのか、慌ててそう言った。
「は、はい……そちらは全部で34ケートになります」
そして、高いな……まぁ服と言ってもここにあるのは日常品と言うよりは娯楽品と言った方が良いだろう見栄えも良いし、高いのは仕方が無いか……となるとやっぱりあれが不安だ。
「あの、一つお願いがあるんですが……」
俺は遠慮がちに店員さんに話を切り出す。
「はい、なんでしょうか?」
「この服って耐火の加工を施してもらう事ってできますか?」
勿論この服のまま戦うって事はない、と言いたいんだが、残念ながらこの服は動きやすい。
この上にちょっとした防具を纏うだけで俺には十分だ……となるとやはりアレ……つまり、魔拳での服の損傷が気になる所だ。
「は、はい可能ですが……そうなると魔法付加の為の精霊石が必要になりますので……勇者様もおられますし勿論割引はさせてもらいますが……」
高いって事か……
「キューラちゃんが望むなら別に大丈夫ですよ?」
「いや、加工の代金は自分で払う……これは俺が欲しいってだけだからな」
背に腹は代えられない。
いくら危険でも、まだまともに使えない魔法でも、あれは間違いなく切り札だ。
練習をしたい事もある……トゥスさんには怒られたが、魔法が発動しなかったのには何かの理由があるはずだ。
何も考えず魔拳を使う訳にはいかないからな。
とにかく魔拳を使えるようにすると言う事を考えると加工は必要だ。
「精霊石については……アテがあるかもれないので、そちらを当たってみます。ですのでその分、引いてもらう事は――」
「勿論可能ですよ、それでしたら装飾の代金だけになりますのでそちらが16ケートになります」
16ケートか……クリエのお蔭もあるから、払えそうだ。
「じゃぁ、精霊石の件を話したらまた来ます」
俺がそう言うとクリエは店員さんに笑みを向け、34ケートを手渡した。
「では、一旦戻りましょうかキューラちゃん」
「ああ」
クリエも気が付いてるだろうが、精霊石はトゥスさんに頼むつもりだ。
理由については勿論話さなきゃいけない……反対されるだろうな……そんな事を考えながら俺はクリエと共に城へと戻るのだった。




