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64 死地へと向かう少女

 荷物を取りに行ったキューラ達。

 彼らは王より、部屋を貸してもらう事となった。

 しかし、クリエがわがままを言ったらしく、キューラとクリエは同じ部屋になってしまい……

「キューラちゃん! 服を買いに行きましょう!」


 ソファーで寝るとは言った手前、クリエにせがまれ本当に一つのベッドで寝る事になるのか? と苦悩する中、嬉しそうなクリエは突然そんな事を言い始めた。


「なぁ、クリエ……」

「だって、キューラちゃん好きな服を着てくれるって言いました!」


 そ、それは言ったけどさ……今からか? いや、クリエのあの顔……どうやら逃げられそうもない。

 しかし、クリエが選ぶ服か……


「変な服は選ばないでくれよ?」

「大丈夫です似合う服しか選びません!」


 いや、それでも不安なんだが……


「と、とにかく……カインの様子を見てから、買いに行こう……」


 だが、俺はもう逃げられない事は決定している。

 覚悟を決めるしか……ないか……


「はい!」


 ああ、しかしその笑顔はずるいな……別の意味でも逃げれる訳が無い。

 俺達は部屋から出るとカインが居る部屋へと向かって歩き始めた。





 カインが寝かされている部屋に辿り着いた俺達はその部屋に足を踏み入れると其処にはチェルも勿論居て――

 椅子に腰かけつつ、彼の様子を見守っていた。


「チェル……」

「あ、キューラちゃん、クリエさん……来てくれたの?」


 魔法を使い続けたせいで疲れているのだろう、チェルは元気が無く――


「カインさんは……」


 クリエは遠慮がちにカインの様子を尋ねるとチェルは弱弱しく微笑んだ。


「大丈夫……今は寝ていますが、その内目を覚ますはずだと」

「そうか……」


 それは良かった……しかし、目を覚まさない事には心配だな。


「目を覚ましたらお礼を言いたいですね」

「ああ、そうしよう」


 俺は頷き、チェルへと目を向ける。


「チェルも無理はするなよ? しっかり休んだ方が良い……何なら、此処で休めるよう王様に言っておくよ」

「ありがとう、そうしてもらえると嬉しい……」


 力なく微笑んだ少女に別れを告げ、俺はクリエと服屋(戦いの舞台)へと向かう。


「うへへ……うへへへへ……」


 因みにクリエはずっとそうやって笑っていた。

 俺は負け確定だ……くそ、あの時は自分を犠牲になんて思ったが、やっぱりやめておいた方が良かったかもしれない。

 そう思いつつ俺は顔に出ない様に注意し、クリエの方へと向く――


「どんな、服を着てもらいましょう! うへへ、何着ても似合いますからね……うへへ~」


 嬉しそうにしているクリエはやっぱり何処から見ても普通の女の子だ。

 そんな彼女を見てしまうと俺は今までのうっそうとした気分が消え、思わず笑みをこぼす。


「キューラちゃん?」

「あ、いや、なんでもない、さっさと行ってしっかり休むか」

「はい!」


 確かにクリエは俺を着せ替え人形にするが、永遠にそうするって訳じゃないだろう、少しの我慢だ。

 そう思う事にした――








 のだが――









「うへへ……これなんてどうでしょうか?」

「だから! なんで! お前は! 肌色が多くなるように服を選ぶんだよ!?」


 服屋にて俺が着せられていくものは何故か肌色が多い……

 良いか? 俺は男なんだ! 女になったけど男なんだ! 早く戻りたいと願っているにも関わらず、こいつは一体なにを考えているんだ!?


「え? だって可愛いですよ?」

「なぁ……可愛い云々じゃなくて街を見て、そんな服でうろついてるの居るか?」


 俺がそう聞くと彼女は大きな胸を持ち上げるように腕を組む。

 どうやら考えているようだが……いや、うん……目立つな。


「それは――」

「居ないだろ?」


 確かに過激な服や防具を身に着けた女性は居る。

 しかし、目の前にあるのはまるで紐と言った方が良いだろう、いくらなんでもそれは歩く公然わいせつ物と言っても過言ではない……というかそれ、別の何かを上に着るものなんじゃないか?


「そうなったらうれしいです」

「クリエの願望は聞いてない!」


 この勇者は……そもそもそんな風になったら、少なくとも俺は目のやり場に困る。

 それに――


「そんな紐身に着けた日にはナンパ男に攫われそうだっての……」

「ナンパ……?」


 あっと、つい口にしてたか……まぁあの物好きは俺が勇者の従者だと分かったんだろうし、もう心配はないかもしれない。

 だが、別の街に行った時は……って自意識過剰か、この街の奴らが特殊なだけだろう――


「キューラちゃん、ナンパをされたんですか?」

「あ、ああ……この街に来た日に、な?」


 何故だろうか? 急にクリエが怖い気がする。


「そうですか、でしたらこっちの服はどうでしょうか?」


 そしていつも通りのうへへ笑いは無く、明らかに作った笑顔で差し出してきた服はようやく普通の服と言えるものだった。

 何故今? そう思いつつ俺はその服を受け取るのだが――


「ひゃぁ!?」


 急に両肩を掴まれ俺は思わず変な声を上げた。


「ク、クリエ?」

「着替えはついて行きますからね?」


 何故か俺は断れない気迫を感じ、無言で頷く――

 ここで断ったら良くない事が俺の身に降りかかるだろう事は何となく……そう、何となくだが理解が出来たのだ。

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