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63 旅館への道のりで……

 貴族の屋敷を脱したキューラ達はその足で王城へと戻る。

 報告を済ませた所、王は貴族ネーガ一家の様子を聞き驚きつつも、大臣にキューラ達を保護するため王城に泊まらせては? という案に首を縦に振る。

 そのお陰もあり、キューラ達は城へと泊まる事となり旅館へと荷物を取りに向かう――

 俺達はその日から王城に泊まる事になった。

 その為に荷物を取りに行くわけだが……大通りを進む中、俺は懐かしい匂いに気が付いた。


「焼き鳥だ……」

「焼き鳥?」


 それに気が付かないってのが無理だろう、なにせ日本で俺が住んでいた場所には美味い焼き鳥屋があったんだ。

 当然の様にその匂いに釣られてしまう、俺にその店の店主は気が付いた。


「あ……お、お嬢ちゃんか」


 何処か警戒したような店主に俺は申し訳ないと思うが、値段を見てほっとした。

 一本3ケートこれなら俺の小遣いでも買う事が出来る。


「えっと5本くれるか?」


 俺達3人、そして手伝いで来てくれた2人の分だ。

 本当はもっと食いたいが、もうすぐ夕食の時間になるからな……俺達はともかく手伝ってくれている兵士さんは城で取るはずだ。

 だからあえて1人1本だ。


「い、良いのか? だって前は買ってくれなかったじゃないか」


 そ、それは髙かったからだって……


「ああ、5本頼む」


 だが、それを言ってまた落ち込まれても困る。

 この世界に来て焼き鳥何て食べた事が無いんだ……出来ればこの店には繁盛して欲しいと言う気持ちは変わらない。


「これなんですか? これが焼き鳥? ですか?」


 クリエは焼き鳥が気になったのだろう、俺の後ろから串に刺さった肉を指差して訪ねてきた。


「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆう!? 勇者様!?」


 随分な慌て様だな……


「お、落ち着てくれ、とにかくその焼き鳥を作ってくれないか?」


 クリエとしても騒がれるのは嫌だろうし、とにかく注意を逸らしてもらおう。


「あ、ああ分かった! しかし、勇者様に食べてもらえるとは……だが焼き鳥とは何の事だ?」


 だが、当の主人は焼き鳥の準備をし始めながら首を傾げ始めた。

 そういえば……


「この鳥を串に刺して焼いたのは何て名前の料理なんだ?」

「…………」


 これから売っていくんだろうから、彼が考えた名前があるはずだ。

 焼き鳥と言うのは日本に居た頃の料理だし、次からは気をつけないとな。


「焼き鳥じゃないんですか?」

「あ、ああ……鳥を焼いてるから俺が勝手にそう言ってるだけだ」


 名前知らないしな……そう付け加えようとしたら。


「今日から焼き鳥だ」

「「「……は?」」」


 思わずそう言ったのは俺と手伝いに来た2人……片方の人はジェイクさんの弟でドラン、もう一人はレッドと言うらしい。


「実は……名前決まって無くってな……串焼きと言うのも考えたんだが、それじゃなにを焼いてるのか分からないだろ? お嬢ちゃんが言ってる焼き鳥だと鳥を焼いてるってすぐわかるじゃないか!」


 それはそうだが……ま、まぁ……本人がそれで良いならそれで良いか……

 こうして、この世界にも焼き鳥は生まれたのか……なんか、複雑な気分だな。

 そう思いつつも俺は支払いを済ませる。

 暫く待っていると焼き鳥が焼けた様でそれを受け取ると皆へと配った。


「何か面白い料理だね」


 そう言いながら焼き鳥へとかじりついたトゥスさんは目を丸めた後すぐに笑みを浮かべた。


「これは酒に合いそうだね」


 ま、まぁ……俺は飲んだ事無いが居酒屋とかでも良く食べられるものだし、トゥスさんの予想は間違っていない。


「不思議な料理ですけど美味しいですね、それにこれなら食べながら歩く事も出来ますよ!」


 クリエもどうやら気に入ったみたいだな、一安心しつつ俺も焼き鳥に食いついた。


「ん? んん……」


 なんだ? 確かに炭の良い香りがする。

 肉も柔らかく、噛んだ瞬間に口の中に肉汁が広がって行く……だが、何かが足りない……


「ん? お嬢ちゃんどうしたんだい? 固まって首なんか傾げて」


 トゥスさんに言われ、俺は初めて自分がそんな行動を取っていた事に気が付いた。

 しかし、それも仕方がないだろう……この焼き鳥は確かに美味しい。

 味付けもしてあるし、味が無いって訳でもない。

 だが違う、俺が知っている焼き鳥ではない……当然と言ったら当然だ。

 この世界に焼き鳥があると言っても目の前の店主さんが作った料理なんだ、違うのも無理が無い。


「これって味付けは何でやってるんだ?」


 俺が訪ねると店主はびくりと身体を震わせた。

 そんな警戒する必要はないだろうとは思うけど……以前の事があるからな。

 警戒されても仕方が無いな。

 食べてみた感じだと香草かなにかだとは思う……炭の匂いに微かに香草の匂いが混ざってるんだよな。

 その所為か肉が柔らかく……香草の味やらが加わって確かに美味しいんだが――


「こ、香草だ……だ、駄目か?」

「あ、いや、これはこれで美味しい」


 折角の香草が意味が無くなってしまっている気もして勿体無いが、美味しいのには変わりがない。

 今はこの焼き鳥をしっかりと味わおう。


「うん、旨い!」


 前世では実際に居酒屋に行くことは出来なかったからな、今度はちゃんと成人して酒と一緒に食べてみたい物だ。

 その時には皆で来たい……だからこそ、クリエを絶対に助けないといけないな。

 こんな些細な事でも、俺は自分の目的を再確認をさせられた。

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