62 勇者の帰還
ようやく牢から脱したキューラ達の前に現れたのはラザドだった。
彼は鍵を渡すようにキューラ達に迫る。
しかし、キューラは王に今までの事を告げると言うと彼の態度は一転、キューラ達は無事屋敷から出る事を許されたのだった。
王城までの道のり、俺達は辺りに警戒しつつ進む。
だが、追手がくる様子はない。
もしかしたら、襲う事はしないまでも追ってくるかもしれないと思ったが、心配し過ぎだったか……
王城も見えてきたし、門番も俺達に気が付くとまだ距離があると言うのに敬礼をし道を開けてくれた。
これで取りあえずは安心か……
「後は王様に会うだけだけど、さて何て言われるかね」
「ぅぅ……」
トゥスさんの言いたい事は分かるが、それでクリエが不安になってちゃ意味が無いだろうが……
「でも、王様は……そのクリエさんを」
「大丈夫だ。守るべき人だとは言ってる」
だが、本心は分からない。
トゥスさんはそう考えてるのだろう……それだけ、勇者イコール人柱と思っている王族や貴族が多いって事だよな。
そして、彼女はそれを見て来たんだ。
恐らく、カヴァリ王の様に守るべきだと言ってそうではなかった者も中には居たのかもしれない。
「お疲れ様です!」
「お、お疲れぇ!? お疲れ様です!!」
「あ、ああ……」
俺がそんな事を考えていると門番の所までいつの間にか辿り着いていたのだろう、とは言っても先程から見えてはいたんだ。
そりゃすぐに着くよな……それにしても、この門番さんは緊張し過ぎじゃないか?
「今、王様に会えるか?」
俺は門番に尋ねると彼らは頷く。
「はい、王より勇者様達が来られた場合は案内せよと伝えられておりますので」
「そうでしたか、ありがとうございます」
クリエは門番に丁寧に頭を下げると二人は驚き――
「や、止めてください勇者様、貴女が頭を下げる必要はありません」
「そ、そうですぅ!? そ、そうです、貴女様達が世界を救ってくださってきたからこそ、私達はこうしてぇ!? こうしてこの世界で生活が出来るのですから」
この兵士たちは事実を伝えられていないのか……それとも、王の意思なのか分からない。
だが、クリエを人として見てもらっているだけで今はありがたいな。
「従者様? どうされたのですか、急に笑って……」
俺は気を張っていたせいもあったのだろう、彼らの言葉に思わず笑みをこぼすと門番は俺の方へと目を向けてきた。
「いや、悪かった……悪い意味じゃないよ」
「は、はぁ……とにかく、王にはすぐに伝えます。中に居る兵に案内を頼みますので少々お待ちを」
先程来た時と同じように門番は王城の中へと向かって行った。
今言った通り案内をしてくれる人を呼んできてくれるつもりなんだな。
「…………大丈夫でしょうか」
クリエは先程トゥスさんが言った言葉で不安なままなのか、小さな声で俺へとそう尋ねてきた。
「大丈夫だ……いざとなったらクリエは俺が守ってやる」
「………………」
そう言うとクリエは黄金の瞳を丸くし、何故か顔を赤く染めていく――どうしたんだ? そう思った直後彼女は慌てた様に口をあわあわと動かし――
「い、いえ……その、カインさんの事なんですけど……」
「…………あ、ああ」
そっちだったか……なんか俺、凄い恥ずかしいセリフを吐いてしまった気分だぞ……というか、うん……言ってたな。
何か顔が熱い……そんな風に感じ頬に手を当てると――
「うへへ……何か今のキューラちゃん可愛すぎて、おそ……抱きしめたくなっちゃいました」
……うん、襲おうと思ったんだな? 途中まで言ってるからな? 隠せてないからな!?
身の危険は感じるが、見捨てる訳にはいかないんだよな、というかそんな事はしたくない。
がっくりと項垂れつつも俺は半眼でクリエを見ると――
「ぅぅ……そ、そんな目で見ないでください……」
どうやら落ち込んだ様子だな。
少しはこれで――
「あ、でも、それはそれでいいかもしれません……うへへ」
駄目だ、この勇者早く何とかしないと――
そうこう考えている内に門番さんが帰って来て俺達は王の元へと案内をされる。
その間もクリエはにやけた顔で俺の方を見てくるわけで……今晩無事で過ごせるのか不安になってきた。
謁見の間で待つ王の元へと辿り着いた俺達は早速、報告を済ませた。
すると、王は唸り出し――
「……そうか」
「まずかったでしょうか?」
流石に拘束した上で鍵をかけたのはいけなかったのだろうか? そう思い王へと尋ねると――
「いや、そこまで酷い者達だとは思わなかった……勇者殿達には不快な思いをさせてしまったなすまない」
彼はその場で頭を下げる。
やはりこの王はまともなんだろう――いや、この世界ではおかしいのか?
どっちにしろ俺達の味方でいてくれるならそれで良い。
「例え、私が彼らと同じ考えだとしても魔王が居る今、今回の事は見過ごせぬ……キューラよ鍵を此方へ」
「は、はい!」
俺が鍵を持って王へと近づくと一人の男性が俺の前に立つ――
「私からお渡しします」
なるほど、王様に直接渡す訳じゃないのか……そう思いつつも鍵をその人に渡すと、彼はそれを王へと手渡した。
「この者達は心配ない」
「はい、カヴァリ様、貴方様が彼女達を信頼し気に入っておられるのは十分理解しております。ですが、これが私の役目の一つでもあります。どうか、ご理解を――」
なるほど、彼は大臣かなにかか……王と同じでどこか優しそうな人だ。
「それよりも国王様、ネーヴェ家に縁のある者達が彼女達に手を出さないとは限りません、私としてはこの王城に泊まっていただくのが良いかと思うのですが」
「そうだな、無論そのつもりだ……キューラよ、どうだ?」
それはありがたいが……王様は何故俺に聞いて来るのか? 一応勇者が居るんだしそちらに聞いた方が良いだろうに――と思ったのだが、俺が王と約束したんだ。
クリエの力を使わずに魔王を倒すと――つまり、王はその約束をした俺とその一行と考えているのだろう。
「ありがたいお言葉です。ですが、俺やクリエは勿論チェル達もそこに泊まっているので荷物を取りに向かいたいのですが――その前に」
俺はカインの方へと目をやる。
そこには今だ目を覚まさない少年の姿があり――
「その者についてはしっかりと治療をし療養を取ってもらう、トラストよ彼を頼む」
王は先程の男性にそう告げると男性の方は頷いて答えた。
「はっ、すぐに神聖魔法使い、および医師を手配しましょう、ジェイク殿、彼を運んでください」
「はっ!!」
この前の門番さんはトラストと言う人に頼まれるとカインを抱きかかえ始めた。
流石は兵士、力持ちだな。
「わ、私もカイン君と――」
チェルはカインが運ばれるのを見て、そう言いながら俺とクリエへと視線を向けてきた。
断る理由もない、俺は頷くと――
「鍵だけ貰えるか? 兵士さんを二人ぐらい頼んで二人の荷物を運んでもらうよ」
「うん!」
チェルから俺は鍵を受け取り、再び王の方へと向く話はちゃんと聞いてもらえていたのだろう。
「すぐに手配しよう」
王の声は静かに紡がれた。




