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61 屋敷を去ろう

 クーグ・ネーガはキューラに対し、卑猥な笑みを浮かべその考えを口にした。

 しかし、騎士見習いの彼はキューラとライムに敗北をしトゥスの手によって拘束される。

 一行は部屋を後にし、屋敷から去ろうとするのだが……

 俺達はカインとチェルを連れ来た道を戻って行く、この先にはラザド・ネーガも居るだろう。

 息子より強いとは限らないが、弱いとも限らないだろう……

 出来れば戦いになるのは避け、城まで戻りたい。


「もうすぐ上に出れるようだね、お嬢ちゃん、警戒はしておいた方が良い」

「ああ……」


 トゥスさんの忠告に俺は頷く。

 こっちには怪我人のカイン、貴族御令嬢のチェル、そして勇者であるクリエが居る。

 クリエは戦えるが、勇者は人質を取られていると言う事を聞いた以上、貴族相手に下手に刃を交えさせるわけにはいかない。

 チェルも魔法を使い過ぎているのか、クリエに支えられてやっと歩いているような状況だ。


「分ってる」


 だからこそ余計に戦闘は避けたいんだ。

 俺は見えてきた扉を睨みつつ気が付いた。


「な、なぁ……もしかしてこの先って鍵が必要なんじゃないか?」


 確か牢屋に来る時も鍵を使っていたはずだ。

 つまり、この先には鍵がかかっていると言う可能性は十分にある。

 もしそうなった時は戻ってクーグと言う奴から鍵をもらって来る必要がある訳だが……拘束したとはいえ仮にも相手は騎士見習い。

 何時までも大人しくしている訳が無いだろう。


「そう言うと思ってね」


 俺の心配を予想していたのだろう、トゥスさんが取り出したものは――


「おい、それ……」

「くすねてきた」


 おい、エルフ……それはつまりスリをしてきたと言う事で良いんだよな? と言うか間違いないよな? もし盗ったのがばれていたなら貴族はもっと慌てているはずだ。


「なんだ、要らないのか?」

「いや、要る……必要だ」


 アイツを閉じ込めておくためにも鍵は必要だ。

 だが、なんだろう……この腑に落ちない感覚は……

 俺はそう思いつつもトゥスさんから鍵を受け取った。


 それから少し歩くと先ほどの予想通り、扉は鍵が無いと開けられない様だ。

 わざわざ戻る手間が省けたし彼女には感謝しつつも――


「……よし、扉の前には誰も居ないみたいだ」


 納得いかない気持ちを押さえながら安全確認をし、俺は仲間達と共にようやく扉を潜った。

 一応後から追ってくることを考え、鍵をかけておこう……この鍵は……そうだな、交渉材料に使えるだろう。


「貴様等……!!」

「って早速かよ……」


 俺はうんざりするような声が聞こえ、がっくりと項垂れつつそちらへと向く。

 そこに居るのは予想通りラザド・ネーガ卿だ。

 恐らくクーグが俺達を始末したか聞きに来たのだろう……


「クーグはどうした!」

「俺達がここに居るんだ、決まってるだろ?」


 そう言うと彼は顔を青くし、即座に赤へと染まって行く。


「貴様ぁぁぁぁ!!」

「落ち着け、別に命に別状はない……所でこの扉の向こう側に行く鍵は複数あるのか?」


 俺がそう言うとクリエは心配そうに俺の方へと目を向けてきた。


「キューラちゃん……そのあの人」

「大丈夫だ、飢え死にさせる訳じゃ……殺す訳じゃない」


 俺達は此処から抜け出せればそれで良いだけだ。


「鍵を寄越せ、今なら許してやろう」

「ずいぶんと上から目線なもんだね、それはこっちの台詞だ」


 トゥスさんの言葉に俺は頷くと鍵を貴族へ見せる。


「公爵家御令嬢を監禁、その護衛への無用な刑罰に加えて勇者とその従者まで監禁、殺人未遂……正当防衛でお前達に危害を加えても良いが……俺達はあくまで王の依頼で来てたんだ。判断は王に任せる」

「なに……?」

「これ以上、手を出そうってんならこっちだって身を守る為には仕方が無いが王様に判断は任せるって言ってるんだよ……そこを退け」


 俺にだって我慢の限度がある。

 クリエまで命の危機にさらされて黙っているつもりはない。

 此処で貴族を黙らせておくのは得策だろう……しかし、こっちにはカインとチェルも居る。

 早く王城に連れて行って休ませてやりたい訳だ。

 今俺が言った通りこいつらの処罰は王に任せれば良い――勿論、この場で抵抗しないならだが……


「……貴様等何を言っているのか分かっているのか?」


 だが、貴族は急に顔を歪め――


「クククク……ハハハハハハハハハハ!! これは傑作だ! そうか、王に言うか……ハハハハハハハハ」


 な、なんだ?


「そうかそうか、なら良い、その鍵持っていくが良い。どうせすぐに返される物だ」


 ああ、そうか……

 普通王様や貴族は勇者が犠牲になる者と考えている。

 その上で貴族に無礼を働いた……彼はそう思っているのだろう。


「よくよく考えれば、王がお前達の味方であるはずがない、それでも公爵家に牙をむいた事で多少の罰は受けるだろうが――なに、すぐに誤解は解ける……それを知ってなお、王に告げるか? 小娘」

「ああ、そうするよ」


 俺がそう答えると貴族ラザド・ネーガは気にくわなかったようで不快そうな表情を浮かべた。

 しかし、先程言った事を信じているのだろう……


「ではお好きにどうぞ、短い人生をな……」


 そう言って道を開ける。


「勇者ご一行がお帰りだ! 道を開けろ!」


 ラザドの声が辺りに響き、どうやら本当に返してくれるつもりらしい。

 俺達は襲われる事無く屋敷の中を歩いて行く――すると、横に並んだトゥスさんは俺へと目を向けてきた。

 何事かと思い彼女の方へと向くと――


「安易に信じるのは良くない」

「分ってる、完全に信用してるわけじゃない」


 彼女が言っているのは王の事だろう――だが、この場はどうにかなった。


「キューラちゃん……大丈夫でしょうか?」


 クリエは不安なのだろう……それは分かってるが上目遣いは止めてください。

 美人にそれをやられて何とも思わない男はいないんだからな?


「いざとなったら、俺が助ける……だからな、心配するな、な?」


 そう言ってやると途端に笑みへと変え「うへへ」と笑うクリエ。

 もしかしてそれワザとやってるんじゃないよな?

 そう思いつつも俺達は使用人や兵達に睨まれながら屋敷を後にした。

 さて、これで後は王城へと戻るだけだ。

 ついた途端、王カヴァリが今までの事は嘘だったんだなんて事にならない限り、取りあえずは安心だろう。

 トゥスさんはああ言ったし、俺も彼女に完全に信用してる訳じゃないと答えたが、勝手だけど……それでも俺はあの人を信じたい。


「戻ろう」

「はいっ!」


 俺の言葉に笑みで答えたクリエに何処か安堵しつつ俺達は再び王城へと戻る為に歩みを進めた。

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