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60 クーグ・ネーガ

 カインはふらつきつつも見事に扉を斬り裂き、キューラ達の道を開いた。

 しかし、そこにはラザドの息子であり、キューラが知る城を守っていた門兵の一人だった男が経っていた。

 彼は自らをクーグ・ネーガと名乗り、クリエ……つまり勇者は死んで当然だと告げる。

 そんな彼にキューラは怒りをあらわにするのだった。

 俺の脅しは意味が無いのだろう……

 貴族クーグ・ネーガは高笑いをすると剣を振り、俺を睨んだ。


「どうやら死ぬのがお望みらしいな、元はと言えば勇者の所為だが、直接的な原因はお前だ……勇者の前で四肢をもぎ贓物引きずり出してやる」


 お、おう……こういう展開って現実で起きると薄い本展開じゃないのか? いや、そう言えばラザドの方が家に泥を塗るとか言っていたな。

 つまり、貴族としての誇りで理性か何か――


「いや、待てよ子供だが見れば遊べそうだな、男の方を殺して、この生意気なガキは躾けるのも悪くはないか」


 あ、うん……結局薄い本展開はあるのか……と言うか俺は男だ。

 とは言っても今は女の子になってるが、男に何かされるのは勘弁願いたい。


「よし決めた、お前は別の意味で泣かせてやる。そうだな今すぐ服を脱いで許しを請えば少しは優しくしてやっても良いぞ」


 下卑た笑いをする男に対し、女性陣は当然顔を歪め一歩後ろへと下がる。


「さ、さいってぇ……」

「こんな小さい子に流石貴族、下種でしかないな」


 ただ一人クリエだけは俺の目の前に腕を伸ばし――


「キュ、キューラちゃんは渡しません、よ……貴方みたいな変人になんか!」


 頼りがいのある言葉のはずなのに何処か頼りない勇者の言葉に俺は思わず苦笑いを浮かべた。

 何故なら俺の目の前にある腕は震えていたからだ。

 良く見ないまでも膝も笑っていた……魔物に対しては勇敢な勇者も男性……恐らくこの手の奴は怖いのだろう。

 だから俺は彼女の腕をどかし、数歩前へと出た。


「だ、駄目です!」


 クリエの焦る声が聞こえ、俺は彼女の方へと振り返ると笑みを見せる。


「大丈夫だクリエ、俺はこんな奴に負けはしない」


 いや、正しくは負けられない。

 こんな所では、な……


「こんな奴、だと? どうやらきつい躾けが必要なようだなぁ!!」


 剣を両手で持ち駆けて来るクーグと言う男。

 流石は騎士見習いの兵士と言った所だろう……その動きは流れるようで、体術や剣術で俺が勝てると言う事はないだろう。

 だが、幸運な事に俺は古代魔法使い――


「グレイブ!!」


 目の前へと迫りつつある冷たい光を放つ刃に向け俺は魔法を当てる。

 すると、剣の描く線は歪み――それは音を立て地面へと叩きつけられた。


「こ、このぉ……ガキィィィィィィィ!!」


 だが流石に騎士と言った所だろう、すさまじいほどの覇気と共に地面へと叩きつけられた剣を持ち上げ、その剣は俺へと再び迫る。


「なっろぉぉぉぉぉぉ!」


 良く分からない咆哮を上げつつ俺は身体を反りその刃から逃れる――が――


「馬鹿が!!」


 振り上げられた剣は今度は振り下ろされる。


「――っ!?」


 身体を反っていて無理な姿勢で避けたせいもあって今度は避けられない。

 そう思ったが、俺は更に身体を反り、わざと倒れ込むことで攻撃をかわす。

 だが、そうすれば当然――


「終わりだ!!」


 受け身を取ったものの次は避けれる訳が無い……普通なら……だ……


「ライム!!」


 俺は使い魔であるライムの名を呼ぶ、するとライムは俺にピタリとくっついた。


「うひゃぁ!?」


 その冷たさとくすぐったさに思わず声を上げた俺だったが――次の瞬間、クーグの持つ剣は俺の首へ振り下ろされた。


「ああ、クソ! 折角、遊んでやるつもりだったのに殺しちまったじゃないか! 死んだら楽しくないじゃないか!!」


 興奮していた所為か、俺に薄い本展開をしようと考えていた彼はどうやら俺を殺したと勘違いをしたらしい。

 まぬけなのか、それとも興奮しすぎてなにも見えていないのか……分からないが――


「勝手に人を殺すなよ――」

「――な!?」


 俺が生きていた事に驚いた男はまるで化け物を見るような目で俺を見て気が付いたのだろう……

 首にまとわりつくその存在に……


「ス、スライムだと!?」

「ご名答……だ!」


 言葉と共に放った拳は見事に彼の頬を撃ち抜く――人を殴る嫌な感触とクーグの意味のなさない言葉と共に彼の身体は揺れた。

 流石に吹っ飛ばすのはあの魔法が無いと無理なのだろう……

 しかし、不意の一撃は効果があったようで隙が出来た!


「こ、このガ――」

「バインド!!」


 魔法を唱えると同時に現れた闇色の鎖は彼を瞬く間に拘束していく……闇魔法の一つその名の通り拘束の魔法だ。


「こ、の……」


 ただ単に動きを止める魔法なんだが……当然その場に俺が居なければ魔法が切れるし、そう長い時間捕らえられるわけじゃない。


「トゥスさん手伝ってくれ」


 だから俺はエルフの女性に頼んだ所、彼女は悪人の様な笑みを浮かべ……


「良いじゃないか、逆に楽しませてもらおう」


 悪役の様な笑い声と共に先程までカインが繋がれていた鎖でクーグを拘束し始めた。


「ククク……いいねぇ、本当に無様だよ貴族様、辱めようとしたお嬢ちゃんにやられただけじゃなくまさか自分が拘束されるなんて思ってもみなかったろ……ククククク……」

「うわぁ……」


 俺は彼女の言葉と笑い声を聞き思わず引いた声に出してしまった。

 まるっきり悪役だ……そう思いつつもクーグを拘束をしてもらえたのは助かる。


「こ、こんな事をしてただで済むとは思うなよ!!」


 クーグの方はまぁほっとくとして……


「トゥスさん……とても楽しそうです……」


 クリエもこれには引いている。

 というか……


「ククク……ほら、動ないだろ? どんな気分だい?」


 ドSなのか何なのか分からないが……クリエの言う通り実に楽しそうだ。

 エルフってなんだろうか……?


「クソ! おい、エルフ! お前は分かっているのかこの俺に――」

「ああ、分かっているとも……生意気で馬鹿な貴族を縛り付けるのは本当に楽しいね」


 その場に居る俺達は最早呆然と立ち尽くすのみだ。

 そんな中、肩を叩かれ俺はそちらを向くとチェルがそこに居て――


「エルフって……優しい種族だって……聞いたことあるんだけど……あの人エルフだよね?」

「そ、そうだったのか……精霊石の知識もあったしエルフには間違いない」


 というか、この世界でもエルフは優しかったのか? てっきりトゥスさんのような人ばかりだと思ってたぞ……


「おい、貴族のお嬢ちゃん、勘違いしないでほしいね」

「は、はい!?」

「エルフはエルフでも人は人、考え方はそれぞれ違うんだよ」


 彼女はそう言うと近場にあった猿轡で貴族の口をふさぎご満悦だ。


「よし、これでうるさくないね、さっさと行こうじゃないか」

「そうですね、キューラちゃん大丈夫ですか?」

「あ、ああ……俺は勿論問題ない、ライムも怪我とかはしてないみたいだ」


 俺達は気絶したカインを連れ、その部屋を後にする……だが、なんというか……そうだな、トゥスさんが楽しそうで何よりです……

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