58 残る手は……
古代魔法……詠唱を長く続ける事で魔法の威力を高める性質のある魔族と混血だけが使える魔法だ。
しかし、キューラがどんなに詠唱をしようと目の前の扉を壊す事は叶わなかった。
彼は壊れない扉に焦り、トゥスに止められていた魔拳を使う物の魔法は使う事は出来なかった。
落ち着きを取り戻した彼はもう一度策を練るのだが……果たして?
だが、どうする?
俺は扉を前にして固まってしまった。
どうやっても扉があかない……トゥスさんの銃は効かない。
俺の魔法も駄目だった……俺に実力があれば魔拳を使って戦う事も出来るんだが、生憎そう簡単に行く訳じゃなさそうだ。
つまり、俺は……いや、俺達はこの扉を魔法でどうこうする手段が無い。
残る手段……俺に思いつくとしたら、後残されているのは残されているのは物理的な……
そう、あの鉄扉を剣や体術のみで壊すって事だ。
「…………どうすればいい?」
だが、それは俺にはできない。
恐らくクリエにも無理、だろう……何処の世界に鉄を切れる人が居る?
いや、アニメや漫画なら居るけど、これは現実だ。
その上、目の前の扉は危険人物を閉じ込めておく牢の扉、そんなやわでは話にならない。
「やっぱり、剣かなにかで壊すしかないですね……チェルちゃん、カインさんは平気ですか?」
俺の考えている事はクリエも同様に思いついていたのだろう。
だが、なんでチェルに声をかけたのだろうか? カインの事は確かに心配だが……
「はい、傷は何とか……」
チェルはほっとした様子でクリエに答える。
「なら、お願いがあるんです。身体強化の魔法をかけてもらえますか? 自分で出来ればいいのですが、魔法は使ったら駄目だと言われているので……」
クリエは申し訳なさそうにそう口にした。
「身体強化魔法?」
俺は効いた事も無い魔法だな。
神聖魔法だからだろう……だけど、そんな魔法あったかな? いや、そう言えばリザレクション以外の上位魔法はあまり知らないぞ、なら――
「分かりました! でも、どうするんですか?」
「それなら扉を壊せるのではって思いまして」
他に何か理由があるのだろうか? そう思いつつも俺は二人のやり取りを見守った。
俺やトゥスさんは強化してもらっても意味が無いからだ。
身体じゃなく魔法が強化してもらえるなら良いが、体術は少し習った程度だからな……
それなら、剣を扱えるクリエの方が良いに決まってる。
そう思ったんだが――
「えっと、言いにくいんですが、クリエさんが扉を壊すのは無理だと思います……」
「ん? なんでだ?」
俺の質問にトゥスさんも同様だったのか……
「現状、魔法じゃ無理なんだ。勇者のお嬢ちゃんに賭けるしかないはずだよ」
「身体強化の魔法はそんな便利なものじゃないんです! 確かに今よりは多少強化出来ます。カイン君ならともかく、でも……クリエさんは身を守る方が得意ですよね?」
ん? どういうことだ?
だってコボルトの時、ちゃんと剣で戦っていたはずだ。
それに対しカインは剣を掴まれていた、どう考えてもクリエに魔法をかけた方が良い。
「た、確かに……私はその、剣術は本職の方よりは劣りますが……」
「あれで劣るのかよ……」
それじゃぁ、成長したターグとかどうなるんだ? 考えたくもない。
まさか、成長していたら俺は対処出来ずに真っ二つにされるって事か? それは嫌だな……
「でも、それならどうする? 俺の魔法じゃ扉は開かない」
なら、それを試した方がいいのではないか? そう思うんだが――
「…………実を言うと、その、私も疲れてしまって……おそらく魔法を使えるのはあと一回だけなの」
それならとは思うけど、それで渋ると言う事はもしかして――
「何か、方法があるのか?」
俺の言葉に反応し、クリエとトゥスさんの視線はチェルへと集まる。
すると、彼女は頷き――
「さっきも言ったけど、カイン君なら出来るかもしれない……剣はクリエさんの借りれればそれで良いから……」
カインなら? そうか……だけど、そのカインはまだ目を覚まさない。
彼が起きるまで待つとしても……一体何時になる事か、それならライムに頼むか?
何時までかかるかは分からないが、それでも現状よりは進む。
そう思い俺は肩に乗るライムへと目を向けた――その時……
「分か……った……そ……扉…………壊、せ……ば……良いんだな?」
ゆっくりと立ち上がった少年はその顔に笑みを浮かべている。
なんだろうか、その……カインからどことなく、主人公臭が漂っている気がするが……っというか――
「カイン、起きたのは嬉しいが、無理をするな!」
もし、チェルの言っている通り、カインがなんとか出来るのならば、彼にはしっかりと休んでもらい万全な状態で頼んだ方が良いだろう。
だが、俺の言葉にカインは首を振り――
「起きてるのがやっとだ……次、何時目が……覚める、か、分からない、からな……チェル達を頼む……」
「カ、カイン君!?」
「む、無茶ですよ……そんな身体じゃ、立ってるのがやっとじゃないですか!!」
おおう……チェルのピンチに起きて事を成そうとする……まさに主人公ってそうじゃなくて、本当に辛そうだ……
彼の言う通りか……なら――
「なら、頼む……安心しろ、ぶっ倒れたらちゃんと背負ってでも連れてってやる」
この場を切り抜けない限り、俺達は死ぬしかない。
カインを見捨てる事はしない、だがその彼やチェル……何よりクリエを助けるためには現状彼を頼らずを得ないな。
そう思いつつ、俺はそう言った。
すると、カインは辛そうな表情を出会った時のような笑みへと変え――
「おう……」
力無く……だが、どこか力強い短い言葉で返して来た。