56 囚われのカイン
チェルを牢からだし、カインを助けに向かうキューラ達。
貴族ラザドはチェルが公爵家だったと知り、大人しく案内をしているようだが……
果たして、その先にカインは居るのだろうか? 無事なのだろうか?
ラザドに道案内をさせ、俺達は捕まっているカインの元へと急ぐ……
チェルが公爵家だったのは予想外だが、もし彼女がクリエの事を本当に心配してくれているのなら……いや、彼女なら心配してくれているのだろう。
王様の紹介もあったが元々心強い味方だ。
だが、そんな彼女だって守りたい人が居るのだろう、今まさにその一人であるはずのカインは危機的状況にあると言う。
無事でいてくれ、そう願いつつも俺達はその場所へと着いた。
これまでは鉄格子の牢屋だったが、そこにあるのは鉄で出来た重々しい扉。
貴族ラザド・ネーガがその扉を開くと俺達の目に飛び込んできたのは――
「カ、カイン?」
そこに居たのは紛れもなくカインだ。
だが、上半身は裸になっており、良く鍛えられたその身体には無数の傷が見える。
そこからはまだ傷が新しい所為か血が滴っており、彼の足元には彼自身の血が広がっていた。
途端に思い浮かぶのは先日のクリエで――
「カイン君!!」
「カ、カインさん!?」
そのクリエはチェルと同じように声を上げ慌てて部屋の中へと入って行き、俺も後へと続く――
近くで見ると酷いなんてもんじゃなかった……こんなえぐい事を平気で出来るのか貴族って奴らは……と怒りさえ覚える程だ。
「お、おい、カイン?」
気絶をしているのか彼の名前を呼んでも反応はない。
そうこうしている内にチェルはカインへと回復魔法をかけ始める。
「ふん! そんな無礼者にたいそうな事を……」
だが、その原因となった男はそんな事を言い――俺は振り返ると慌てて扉の方へと駆け寄った。
カインに気を取られ油断をしてしまっていた。
そう気が付いた時には遅かったのだ、ラザドはこの部屋に一切足を踏み入れず扉を閉じようとしていた……
扉の近くに居てそれに気が付いたトゥスさんも銃を引き抜き止めようとしていたが、ラザドは扉から手を放し其処に備え付けられていた剣を取り彼女を押さえると部屋の奥へと放り込んできた。
「チッ!! だから騎士は苦手なんだ!!」
剣と銃……銃は剣より強いなんて言葉を前世でとある漫画で学んだが、それは確かにそうなのかもしれない。
しかし、相手が歴戦の騎士だった場合は別なのだろう……舌打ちをしたトゥスさんはすぐに銃の引き金を引き、辺りに轟音が鳴り響き――
「きゃぁぁぁぁ!?」
その音に反応し以外にもクリエが叫び、俺は慌てて彼女の手を取るのだが――扉へと走った方が良かったかもしれない。
いや、銃を撃ってるんだ下手に射線に入る訳には行かないだろう……
そんな事を頭でごちゃごちゃと考えている内に扉は閉まり、無情にも錠がかけられる音がその場へと鳴り響いた。
「勇者ご一行は此処には来ていない! 王の命令を背き何処へ行ったのか…………ハハハハハハハハハ!!」
扉の向こう側から聞こえるわざとらしい声だけが静寂に包まれたその部屋へと響く……
「と、閉じ込められたの?」
カインを救う事で頭がいっぱいだったのだろう、ようやく事態に気が付いたチェルは蒼い顔をする。
「ご、ごめんなさい! クリエさん私の所為で……」
「ち、違いますよ!? だってチェルちゃんは何も悪い事をしてませんし……」
チェルの謝る声に気が付いたクリエはやはり顔を青く染めつつ答える。
とにかくここから脱出するしかない……
「幸い拷問の時間は過ぎてたようだね……辺りに気配はない」
トゥスさんの言う通り、この部屋には俺達だけの様だ。
まぁ、そうじゃなくても出るしかないと言う選択肢ぐらいしかないのだが……
「グレイブ!!」
俺は扉へと向け魔法を唱える。
現れた岩は鉄扉へと向かい轟音を立てながらそれを壊し道を切り開く…………………………はずだった。
「……魔法が消えちゃいました」
「嘘だろ?」
クリエの言う通り、俺の魔法は扉へと当たる寸前で消えた。
こんな事初めてだ。
混乱をしているとトゥスさんが扉へと近づき舌打ちをする。
「トゥスさん?」
「魔力無効化の魔法陣が組まれた形跡があるね、恐らく壁にも同じ物が使われてる。通りで弾が当たっても傷つかない訳だ」
そっか彼女はエルフだから魔法に詳しいのか……にしても魔力無効化? だとしたら俺は役立たずって事かよ。
「魔力無効化なら、想定以上の魔法なら壊せるはずだよね? キューラちゃんかクリエさんは何か強力な魔法は使えないの?」
俺はゆっくりと首を振る。
「クリエは昨日の後遺症で魔法が暫く使えない、俺は――」
いや、待てよ? 俺にはあれがあるじゃないか!
「そうだ、あれならきっと!」
一瞬だけ威力を高める様に魔力を練ればあるいは――
「止めときな」
だが、そんな淡い希望はトゥスさんの言葉で止められた。
何故だろうか? この場を打破できるのは間違いなくあれだ……
流石のクリエでも鉄扉を切るなんて芸当は出来ないだろう、おまけに周りは木ではなく石……同じく切って切り抜けるのは不可能だ。
「あの魔法は不完全だよ。下手したら今度は両腕だけじゃなく全身焼け焦げて死ぬかもしれない」
「な……でも、それ以外になにかあるのかよ!?」
俺は思わず反論をするが――
「確かにあの魔法は強力だ……恐らくお嬢ちゃんの魔力次第では魔法陣を壊せるだろう――だが、リスクがでかすぎる」
そ、そう言われてしまうと何も言えない。
確かに俺はあの魔法で両腕に大火傷を負った。
チェルが居るとはいえ、外に敵が待ち構えてるかもしれないのにそんなリスクを負うのは考え無しだ。
だとすると――
「詠唱でどうにかならないでしょうか?」
クリエの言葉に俺は頷く……扉を壊せない、一定以上の魔法以外は無効化されてしまう。
なら彼女の言う通り詠唱で魔法を強化し、それ以上の魔法を作り出すしかない――
「とはいえ、上手くいくものか……」
俺は恐らく顔を引きつらせながらそう口にした。




