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55 チェルの持つ紋章

 貴族ラザド・ネーガに連れられ地下の牢へと向かったキューラ達。

 そこにはチェルが捕らわれており、どうやらカインは別室に居る様だ。

 キューラは約束通り、チェルと二人で話をする事を許され彼女へと王は自分達と同じ考えだと告げた。

 するとチェルはキューラに上着の留め具を外すように告げ、そこにあった紋章はキューラも知る物で……

 何故だ? 何故チェルがこの紋章を持っている? 学生だってこんなにしっかりした物を配られる訳じゃない。

 制服がある訳でもないし、学生の俺が配られたのは羊皮紙に印が押された物だ。

 それに……あの学校の創設者は確か魔族……それも公爵家アウク・フィアランス……フィアランス?

 確かチェルもフィアランスだったよな? だからこれを持っていたのか? でも、何故同じ名前なんだ? チェルは神聖魔法を使える人間だ。

 混血ではない、その証拠にチェルの村には混血狩りが出たはず! だが彼女は無事だ。

 どういうことだ? くそっ色々と混乱してきたぞ……


「キュ、キューラちゃん……?」

「キューラちゃん、そこ退いてくれる?」


 クリエとチェルの言葉が同時に聞こえ、俺は思わず身体をびくりとさせつつもその場から動く。

 だが、頭の中は混乱しっぱなしだ。

 一体なにが起きている? なんでチェルが魔族の家系の名を持つ?

 この子は一体なんなんだ? そう言えば王様がクリエ同等特別だと言っていた……これが理由なのか? いや、そもそもチェルは何者だ?

 魔族ではない、と言う事は公爵家であるアウクの家系ではないはずだ。

 だが、同じフィアランスという家名を持っていて同じ……家紋だとして、彼女は一体……俺のそんな疑問はこの後すぐに判明した。


「なっ!?」


 それは貴族であるラザド・ネーガ卿の驚いた声から始まった。

 俺の傍に居る貴族であるはずの少女はどこか冷めた目で貴族を見る。

 そして、すぐにその視線をクリエへと向けると――


「勇者クリエ様……こんな所まで来ていただいてありがとうございます」


 瞳の中に優しさを灯すと、柔らかい声でそう告げる。


「ネーガ卿、この拘束を解く鍵は何処にありますか?」

「ふ、ふざけるな! お前のような小娘が――何故、それを……」


 そう言いつつ彼は慌てた様に鍵を投げ入れてきた。

 俺はそれを拾って拘束を解いてあげたんだが……何かアイツすごい驚いてるな? 俺も意味が分からないが……チェルが貴族なのがそんなに驚いたのか? いや、俺同様子の紋章に驚いてるのか……

 そんな事を考えてつつ俺はトゥスさんの方へと顔を向ける。

 そこには邪悪な笑みを浮かべながら煙草を咥えたエルフが居た。

 あの様子だと、もしかしてこうなる事は予測済みだったってことか? などと考えていると――


「何故って言ってもな、あのお嬢ちゃんがフィアランス公爵家御令嬢だからさ……」

「こ、公爵!?」


 この世界でも貴族の位と言うのは地球と同じだ。

 つまり、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵……まぁ、俺が知っていたのはここまでだが、この下に騎士がある。

 そして、トゥスさんが言っているのが侯爵(こうしゃく)ではなく公爵(こうしゃく)だとしたら貴族階級の頂点と言う訳だ。

 そう思うと俺は嫌な汗がどっと溢れ出るのを感じた。

 だって、相手はお嬢様もお嬢様、公爵家となれば何度か城に足を運んだこともあるだろう……


「騎士、ラザド・ネーガ……次期フィアランス公爵家当主として命じます。我が身を盾にして私を護ろうとしたカイン・アルフィを解放してください」


 だが、どういう事だ? だとしたらチェルはアウク・フィアランスの家系だと言うのだろうか?

 なのになぜ彼女は混血じゃない? ああ、駄目だ! 訳が分からない!!


「何故公爵家という立場でありながらあの様な戯言を――!」

「その事は先日伝えたはずです……それよりもいいのですか? ここに居る者達はどうやら私の味方をしてくれるようですよ?」


 た、確かにそうするつもりだ。

 だが、チェル一気に強気になったな……


「時間がありません、早くカイン君を解放してください」


 しかし、カインも助けるのが目的だ。

 これはチャンスだ……


「ネーガ卿、王に告げるも勝手だが、今は彼女の実家であるフィアランス家は公爵家だ……少なくとも何かしらの判断が出るまでは逆らえば不利なのは貴方だ」


 脅すつもりはないなんて言葉は敢えて言わなかった。

 どう考えもこれは脅しだし、そのつもりで言ったんだからな。

 そして、あの王様の考えが本当だとしたら、彼女の家であるフィアランス家が爵位剥奪されることはないはずだ。


「クッ……」


 だが、相手にはその事は分からない。

 とはいえ、上の階級に噛みつく事はそうそうできないはずだ。


「公爵家の名を持ちながら王家に手を貸さない変わり者のくせに何を言う――」


 っておいおい、此処の世界の貴族は馬鹿なのか? 世界を助けてくれる勇者に無礼な事言ったり、自分より上の階級の人にそんな言葉……

 普通そう思ってても口に出さない方が良いんじゃないのか? 少なくともそれを言ったって証言できるものが3人も居るんだぞ!?


「で、でも! 私が来たのはその王様の依頼ですよ? その証拠に王家の紋章だって!」


 クリエは慌てた様にそう告げる。

 するとチェルの口元が少しだけ歪んだ。


「その王は身柄を引き渡せと言ったんだろう!? 二人の無礼を許さないと言う意味ではないのか!」

「いや、その事をネーガ卿が報告したとは聞いてないから分からないが、どうなんだ?」


 俺がそう言うと彼は口を開けたまま固まってしまった。

 つまり、二人を捕らえたと言う事は伝えてないんだろう……


「確かに俺達はある貴族の娘とお付きの少年が捕まってると聞いた……その身柄の確保……というか保護を頼まれた訳だ。つまり、アンタは少なくとも現時点では公爵家に牙を剥いた犯罪者だ」


 俺の言葉にどんどん顔が青ざめていくネーガ卿。

 当然だろう、フィアランス家御令嬢がそこまで偉いとは思わなかったが……公爵家だもんな。

 というか男爵家でも上には変わりがないから、青ざめる気持ちが分かる。

 俺も後で無礼を働いたとか言われないだろうか? い、いや相手はチェルだそんな事は言われないよな?


「確かにこれまでは手を貸す事はしませんでした……ですが、キューラちゃんやクリエさんが言っている事が本当なら、この事を現当主に伝えます。そうすれば速やかに国王カヴァリ様に手を貸すでしょう」

「という訳だ、もう一人の坊ちゃんの方に連れてってくれないかね? そっちも保護対象なんだよ」


 まだネーガ卿へと向けてはいないものの銃を取り出したトゥスさん。

 そんな彼女へと視線を向けたネーガ卿は慌て始め――


「こ、こっちだ! つ、着いて来い!!」


 先程とは明らかに違う声色で歩き始めた。

 その先にカインが居るのか……チェルの様子や話の限り、危険な状態には違いない。

 間に合ってくれよ……!

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