54 屋敷の牢
キューラの身の会話なら許す。
そう口にした貴族ラザド・ネーガは彼らを牢屋へと案内をするために部屋を後にする。
当然ついて行くキューラ達だが、部屋を去る間際執事セッツァは勇者を侮辱した。
それに気が付いたネーガ卿はキューラの予想とは全く違い、執事を殴り飛ばし謝罪をする。
以外に思いつつも、失言を許すと改めて二人が捕らわれる場所へと向かうのだった……
俺達が案内されたのは鍵の付いた扉の前だ。
ラザドは鍵を開け扉を開くと、そこに置いてあったカンテラを手に取り、明かりをつけた。
中へと目を向けてみると確かに薄暗い……
こんな所に二人を閉じ込めてるのか……そう思うと怒りが湧いてくるが、俺はぐっと堪え貴族の後を歩く……
「暗いので足元にご注意を……」
そう言うが、言い方はそっけない。
恐らくは怪我をしてもあまり気にしないんだろうな。
まぁ、そんな事よりは二人だ。
そう思いつつ彼の後をついて行く、すると一つの鉄格子の目の前で貴族は立ち止まった。
鉄格子の中へと目を向けるとぐったりとした少女の姿が俺の目に映る。
髪の所為で顔は分からないが、その服装には見覚えがあった。
「チェル!!」
俺は牢の中に居る少女へと声をかける。
すると――
「チェルちゃん! 早く出してあげてください!!」
勇者であるクリエも今の彼女の様子がおかしいと理解したのだろう、慌てた様に願いを口にした。
しかし、貴族ラザドは首を振り。
「先ほどの約束があります故」
「チッ! おい、お嬢ちゃん、さっさと話しな!」
トゥスさんにそう言われ俺は頷く。
だが、チェルは大丈夫なのか? 名前を呼んだと言うのに全く反応しない。
ピクリともだ。
それに……
「もう一人、カインはどうした?」
俺はその事が気になり、ラザドへと問う。
「人殺し!」
だが、俺の言葉の後に答えたのは貴族ではなく……チェルだった。
彼女の瞳は俺達ではなく貴族へと向けられており――
「人聞きの悪い、死んではいない……斬りかかってきたのはそちらだろう?」
「だからって! あんな――」
チェルは俺達が見えていないのだろうか? 貴族へと喰いかからん勢いだった。
しかし、人殺しだって? つまり、カインは……いや、死んではいないって言っている。
なによりまだ見た訳じゃない!
それに彼女の首にはめられた首輪から伸びる鎖の所為でそこから動けない様だ。
暗くてよく見えないがあれは恐らく……俺もつけられた首輪だろう。
彼女が魔法さえ使えれば治せるはずだが、近くに居るのか?
「なぁ、鎖に繋ぐのはやりすぎじゃないか? それにカインになにをした?」
俺の言葉に溜息をついた貴族は答える気が無い様だ……だが、そこでようやく俺に気が付いたらしいチェルは――
「キューラちゃん? じゃ、じゃぁ! もしかしてそこに――!!」
チェルの泣きそうな声は恐らくクリエが居るかだろう……
それよりもカインの事だが貴族が答えないんじゃ仕方がない。
「安心しろチェル……ネーガ卿、約束通り彼女と話がしたい」
俺の要望には応えてくれるのか、ラザドは鍵を開けると扉を開ける。
そして――
「逃がそうなどとは思わない事だ」
それだけを俺に伝え、中へと入るよう促した。
このまま俺まで閉じ込めるつもりじゃないだろうな? そんな不安を感じつつもチェルの方へと向かう中、後ろから聞こえた声は――
「アンタも変な動きしたら撃ち殺すぞ?」
というトゥスさんの頼もしい言葉だった。
「それは脅しか?」
「アンタが鍵を閉めないとは限らない、まぁ脅しだとしてもこっちは王の依頼で動いてる、それに銃は抜いてないしアンタさえ何もしなければ問題はない」
彼女はそう言うと、俺に早く行けとばかりに目で合図を送ってきた。
牢の中に入った俺はチェルの傍へとしゃがみ込む……
「なんで……キューラちゃんが?」
助けに来た……そう言ってやりたいが、貴族が見てる以上変に警戒されるのはまずい。
「カインはどうした?」
俺はここに居ない少年の安否をまず確かめる事にした。
「酷い怪我をして……私とは違う場所に……」
なるほど、返り討ちに遭ってしまったって事か……
なら、早く治さないといけないかもしれない。
それにはチェルの力が必要だ……しかし、どうしたものか……いや、待てよ?
チェルさえ良ければこの状況を打破できるのではないか?
「チェル……良く聞いてくれ」
俺は声をひそめチェルへと質問をする。
「な、なんですか?」
「君の家の事を聞いた……王様もこっち側だそれは言っちゃいけないのか?」
チェルの故郷であるダイト村はこのクリードの一部だ。
なら、その爵位の剥奪などの権利はクリードの王カヴァリにある。
昔はどうだったか知らないが、今はそうなんだ……
だとしたら――
「こっちって……キューラちゃんみたいにって事ですか? 本当……です、か?」
「ああ、彼はクリエじゃなくて俺に……例の奴を倒せって言って来たよ」
そうだ、クリエも言っていたじゃないか、もしそれが気になっていた事ならば……
もし、自身の家を守る為に家名を名乗らなかったのなら……王さえこちら側だと分かれば!
そう思った俺の勘は当たったのだろうか、チェルの瞳は一瞬揺らぎすぐに何かを決意したような視線を俺へと向けてきた。
「キューラちゃん、上着の留め具を外して」
「…………は?」
今まで敬語だった少女はまるでカインに向けるような言葉遣いで俺へと告げて来る。
いや、そっちが素なんだろうが、いきなりの事に俺は思わず呆けた声を出す。
「外して早く……」
そうは言われましても、俺は男ですが? いや、見た目というか体そのものも女の子になっている訳ですが……
クリエじゃあるまいし、可愛い女の子なら大丈夫って訳でもないだろうし、一応彼女は俺を男だと聞いてるはずなんだけど、なんか自分で考えて悲しくなってきたぞ。
「い、良いのか?」
その、胸に触れそうだが? そう思い伝えるも彼女は頷いて答えてきたので言われた通り服の留め具を外していく。
「あ!? あー! あぁぁ!?」
そして、何でクリエが騒ぐのか……疑問だが、まぁチェルの考えがあるのだろう、何か思う所があっても我慢していただきたい。
そう思いつつ留め具を外し終えると、俺の目に映ったのは……
「こ、これって……」
そう、そこにあったのは王より受け取った紋章よりは劣るものの立派な紋章が刻まれた首飾り。
だが、驚いたのは別の理由だ。
なぜならそれを俺は見たことがある。
それもつい最近まで毎日目にしていた、だからこそそんな特別な物には見えなかった。
だが、何故それをチェルが持っている? 関係が無いはずだ。
「なんで、チェルが……?」
そこにあったのは5本の槍の中、4本に炎が纏ったように描かれる紋章。
それは……俺が通っていた冒険者学校にあった物だった……
「どうして……それを持ってるんだ?」
俺は思わずその紋章とチェルを交互に見つめるのだった。