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53 貴族との交渉

 貴族ネーガ卿の屋敷へと赴いたキューラ達。

 そこにトゥスとカインが居る事を確信した彼らは二人の身柄を渡すよう貴族に告げた。

 しかし、帰ってきた言葉は拒否の物であり……キューラは問うのだが……

 質問をした所だが、正直な話なんて返ってくるのかは予測できた。


「良いか! 相手はこの私に剣を向けた反逆者だ! 我が主であるクリード王カヴァリ様の勅命であったとしても、安全の保障も無しに応じられるわけがないだろう!」


 だよな……

 相手は仮にも騎士、王は勿論、民を守るのが仕事だ。

 剣を抜いたと言う事実がある以上、そう簡単に応じる訳が無いだろう。

 しかし、どうしたものか……と本来ならここで悩んだだろう。

 だが、トゥスさんが言っていた事を俺はしっかりと覚えていた。


「それが、一緒に居た女の子……チェルを守る為でもか?」

「なに……?」


 俺はちらりとトゥスさんの方へと目を向けると彼女は俺を射貫くような視線で見て来た。

 わ、分かってる彼女が貴族ってのは内緒なんだろ? ……そう思いつつも、俺は貴族ラザドへと瞳を再び向ける。


「俺と勇者クリエは彼ら二人とはここに来る道中出会ったんだ……彼らの事は多少ではあるが知ってる。カインは確かに考え無しの所があるが急に剣を抜くような男じゃない、チェルを守るって言う明確な理由があれば別だろうがな」

「なら、この私があのような子供になにかしたと……それも我が家系に泥を塗る様な事をしたとでも?」

「そうは言ってない、ただカインが勘違いする何かがあったんだろう? とにかく彼らの安全性は俺達が保障する。それじゃ駄目か?」


 あくまでも丁寧に問う。

 すると貴族は腕を組み……


「くどいな、断る。勇者殿や従者殿の言葉、判断だけでは安全とは言えん」


 おいおい、本音を言えばお前は男爵家以上のご令嬢を捕らえてるわけなんだが……

 此処でそれをばらすのは簡単だ。しかし、王様は味方とはいえチェルが隠している以上この貴族に知られるのはまずいかもしれない。

 下手に言う訳には行かないな……


 どうする? どうすれば……


「ふ、二人と話すのも駄目でしょうか?」


 俺が考えを巡らせる中、聞こえてきたのはクリエの声だ。


「……今の話を聞いていましたか? 勇者殿」


 鋭い眼光に驚いたのかクリエはすぐに後ろへと隠れてしまった。

 貴族相手だといつもこうなのか? だとしたら今までどんな目にあわされて来たんだよ……

 何か腹立たしいな。

 そんな事を思っていると、不意に俺の肩が軽くなる。

 なんだと思い見てみると、どうやらクリエがライムを手の上に乗せたみたいだ。


「キューラちゃんには珍しくもセージスライムのライムちゃんが使い魔に居ます。これほど強力な魔物を連れているんですから、もし何かあってもライムちゃんがキューラちゃんを守ってくれますし……話をするならやっぱり私達の方が良いと思うんです」


 結局ライム頼りになるのか……いや、でも確かにライムはスライムだもんな。

 幸い二人は混血でも魔族でもない、スライムを相手にすることは不可能だろう。

 クリエの案は良い所をついている。


「勇者はこう言っておられますが? 貴方は王の言葉、そして勇者の言葉の両方を聞けないと?」


 脅すように低い声をイメージしつつ俺はそう言うが、やはりどう頑張っても少女の声だ。

 だが、効果はあったようで……


「従者殿だけ罪人との会話を認める。しかし他の者はある程度離れた場所だ! 決して近づくな」

「ええ、それで構いません、ご協力感謝します」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる貴族に対し、俺は満面の笑みを浮かべた。


「ついて来い!」


 彼はそう言うと乱暴に机に手を付き、立ち上がる。

 それとほぼ同時だろう、先程の執事らしき男がノックの後、部屋の中へと入ってきた。


「旦那様、いかがなされましたか」

「セッツァ! もう飲み物は良い! それはお前達が飲め!」


 質問には答えずにそれだけを告げた彼はやはり乱暴な足取りで部屋の外へと出て行く……俺達は慌ててその後を追うのだが……


「勇者風情が旦那様に何をしたのか……」


 聞こえるかどうかと言った小さな声。

 だが、確かにセッツァと呼ばれた男から発せられたその言葉に俺は思わず反応しかけた。

 しかし、俺の服を引っ張る力が強くなったことにも気が付き、そちらの方へと目を向けると……


「…………」


 表情に出していないつもりなのだろうか? すでに泣きそうな少女の姿があり、俺は――


「気にするな、俺達が、俺が居る、な?」


 クリエへとそれだけを伝える。

 そうだクリエはもう一人じゃない、それに幸運な事にも彼女はもう奇跡は使えない……正直、彼女の家族の問題もあり、彼女自身にも嬉しい事なのかと言うには疑問が残るが奇跡は起こせないはずだ。

 彼女の安全は最低限は確保できた。精神的な方は我が身を犠牲にして後でフォローを入れておこう。

 後は魔王をどうにかして倒すだけ……それが一番難しいんだが、方法は考えるしかないな。

 そして、その方法の一つとして今は二人を助けに行くのが目的だ。

 そう思っていたのだが……


「おい……」


 女性の低い声がその場に響く……

 俺は嫌な予感がし、ピタリと足を止めた。

 いや、俺だけじゃない……前を歩いていたラザド卿も立ち止まっていた。

 まるで立て付けの悪い扉の様に俺は首を動かし、声の主を見る。

 そこには明らかに不機嫌な様子のエルフが居り――


「あんたの今の言葉……ちょっと聞き逃せないね」

「うちの執事が何かをしたか?」


 や、やばい……先日男を撃ち殺した時、トゥスさんは彼の発言に怒っていた様子だったし……つまり……


「勇者風情だと言ったかい? お前らは一体どこの誰のお蔭で生きていられると思ってるんだい?」


 彼女の言葉に舌打ちをした貴族は此方へと戻って来る。

 まずいぞ……こんな所でクリエを助けようとしている事がばれたら……最悪俺達は捕まるかもしれない。

 何せ相手は勇者は命を捨てる者と思ってる奴らだ! こちらの話をそう簡単に聞いてくれないかもしれないんだぞ!?

 仕方ない乱暴だが……こうなった以上、クリエは逃がさないと!


「……え?」


 そう思って身構えていた俺の目の前を通り過ぎて行った貴族は執事を殴り飛ばす。

 一瞬何が起きたのか分からなかった俺は思わずそれを目で追って行ったのだが――


「この大馬鹿者が!!」


 貴族であるネーガ卿は自身の執事であるセッツァと言う男性を殴りつけた。

 その後すぐに俺達へと向き直り、ゆっくりと頭を下げる。


「失礼をした。これであの者の無礼を許していただきたい、あれで優秀な側近でな……居なくなられると困るのだ」


 そうなのか……でも、執事を殴った?

 こいつも王と同じ……いや、そうだったらあの教会での一件は早々に解決していた。

 だが、よくよく考えれば遠回しに言ってきてはいたが、直接的な言葉は使われていない……

 態度こそは問題があるが一応勇者を尊重してるようには振る舞っているのだろうか?


「従者殿」


 相手は何故か俺に目を向けており、俺は慌てて頷く――なんにせよ、此処でのもめ事は避けれそうだ。


「あ、ああ……きつい一発だったみたいだしな、今後口には気を付けてくれ」

「……ふん、では行こうか」


 相変わらず冷たい刃の様な目だったが、俺の言葉に取りあえずは納得したのか再び俺の目の前を通り過ぎるラザド。

 彼の瞳は一瞬クリエを捉え……大きな舌打ちと共に過ぎていく――

 その所為で服はますます強く握られたが、今はこれで我慢だ。

 クリエには申し訳ないが今は二人の安否を確かめないとな。

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