52 貴族の屋敷
二人が居る場所は教会で出会った貴族……ラザド・ネーガの屋敷だと言うトゥス。
キューラ達は二人を救うため早速その屋敷へと向かうのだった……
トゥスさんに案内され辿り着いた貴族の屋敷は確かにそんなに大きなものでは無い。
どっちかというと旅館の方が大きいのではないか? というぐらいだ。
だが、旅館とは違いそこには門番らしき男が立っている。
彼は俺達……いや、勇者であるクリエへと目を向けると――
「これはこれは勇者殿……何かようですか?」
厭味ったらしい口調でそう言う男にクリエは思わず一歩後ろに下がってしまい。
俺は彼女の前へと出る。
「……何の用だ?」
その事を笑うかのように口元を歪ませた男。
こいつは……つまりこの家の貴族と考えが同じって事だろう。
「先日此処に尋ねてきた俺ぐらいの少女と少年が居たはずだ。その事で話がしたい」
「旦那様はすでに二人の処罰を取り決めた。何も問題は無い勇者に解決してもらう事柄ではない」
まぁ、そう言われるだろうな……
だが、こっちだってここで引く訳には行かない。
「それはここに居る勇者が話したいと言っていてもか?」
「そう言っている、特権を使いのだろうが、これはすでに旦那様が決めた事だ」
俺は後ろに居るクリエへと目を向ける。
すると彼女は小さく首を横に振った。
つまり、これ以上はクリエの特権は使えないって事だろう……
「そうか、なら……それがクリードの王、カヴァリ様その人の望みでもか?」
「何?」
門番は流石にこれには眉を動かす。
しかし――
「王の名を出して、それが偽りだった場合はいくら従者と言えど分っているな?」
こっちを脅すように地を這うような声でそう言った門番。
「うるさいな」
だが、そんな時、ここまで黙っていたトゥスさんは俺の横に並び――
「たかだか門番が王の名を出されても門を開けない方が問題じゃないか? こっちは勇者が居る、王の依頼も自然と受けるだろ?」
「証拠が無いのではこちらも信じるわけにもいかん」
トゥスさんの迫力に押し負けた様子の門番はたじろぎつつもそう口にする。
証拠、証拠ね……それにしても勇者が居るのに屋敷に入るのにここまで大変だとは思わなかったぞ。
「これで良いか?」
俺は先程王から受け取った物を見せる。
すると、門番は途端にその顔を歪め――
「そ、それはクリード王家の……紋章……」
驚いた彼は歯ぎしりを立てると門を開き俺達が通れるように道を開けた。
「通って良い、今案内しよう」
流石にこれには逆らえないみたいだな。
二人は何処に居るのだろうか? とにかく……早々に決着をつけたい物だな。
屋敷の中へと通された俺達は執事らしき男に案内を受ける。
彼もクリエを見る目が何処か冷たかった。
いやな気分になったが、此処で暴れても意味が無い。
出来れば穏便……は無理だとしてもせめて二人の安全を確保しておきたいからな。
そう思いつつ、俺達は彼の後をついて行くとしっかりとした作りの扉の前まで連れてこられた。
執事がノックをすると……
「なんだ!」
部屋の中から、教会で聞いたあの男の声が響く……
「国王様の使いで勇者……様達が来られています、通してもよろしいでしょうか?」
こいつ、今勇者の後に何か間があったが……クリエを見てみるとその事は気にしていない様だが、何処か不安そうにしている。
だが、俺の方へと向くと笑みを浮かべた。
なんか、良く分からないが、いやな気分だ……でも、うん……やっぱりクリエは笑っている方が良い。
そんな事を考えていると肩を小突かれ、俺はそっちの方へと目を向ける。
「気にするのは仕方ないけど、よそ見してない方が良い。ここじゃ王の証が頼りみたいだ」
「ああ……」
小声で告げられた言葉に俺は答える。
部屋の中からは何かを迷っているのか、すぐに返事は無かった。
しかし――
「入れ!」
ようやく、入室の許可が出たことで執事は重そうな扉をゆっくりと開く、そこから見えたのは絵に描いたような成金趣味。
床には豪華な敷物がしてあり、所々にあるのは宝石がはめ込まれた家具。
机の上には悪趣味と言った方が良いかもしれない、金のコップ。
そして、彼が腰かける椅子は王が据わっていた物よりは劣るものの上等な物だろう事は分かった。
思わず「うわぁ……」と言いかけるのを何とか止め、部屋へと入った俺は貴族ラザド・ネーガへと瞳を向ける。
「おや、君か……」
彼は嫌そうな表情を浮かべ、腰かけたままそう言うと――
「王の使いとしてきたと聞いたが?」
疑うような視線を俺達へと向けた。
俺は王家の紋章とやらを見せてやるとピクリと眉を動かす。
「セッツァ! 客人に飲み物を……」
そして、不機嫌な声で執事の方へと向き、告げる。
「かしこまりました。旦那様」
執事は執事でそう答えるも、やはりどこか納得はいってない様だ。
全く、仮にも勇者だぞクリエは……そんな対応する方がおかしいと思うんだが、とういうか勇者のお蔭で今があるんだろ。
「さて、何様かな?」
低い声で貴族はそう言うとクリエへと冷めた瞳を向ける。
すると、びくりと身体を震わせた彼女はすがるように俺の服の裾を掴んだ。
……あんな目を向けられたら怖いよなぁ、そう思いつつも俺は一歩前へと出る。
「……君には聞いてないが?」
「お言葉ですが、ネーガ卿……此度の王の依頼は私が受けました。その証拠に王家の紋章を手にしているのが勇者クリエではなく私です」
もし、勇者本人に依頼するつもりなら、カヴァリ国王は彼女に渡すはずだ。
だが、俺に渡された……恐らくはクリエを救うと言ったなら、その前に二人ぐらいは救って見せろとでもいう事だろう。
「……生意気な小娘め」
おい、ネーガ卿、聞こえてるぞ……
「ふん! で、改めて聞くが何様だ?」
「率直に申し上げます。先日此処へと足を運んだはずのチェル、カインの両名の身柄は王自らが預かるとの事です」
俺はあくまで丁寧に口にする。
まだ、相手の出方が分からない……だが、二人が居るのは門番とのやり取りで分かっている。
遠慮なんてせずにここに来た目的を告げると彼は椅子へとふんぞり返り――
「断る」
予想通りと言うか、なんというか……はっきりと断られたな。
「何故でしょうか? 王の言葉ですが」
そう言うと、彼は椅子に座り直し溜息をつきながら口を動かし始めた……




