49 それは不運か?
王の依頼を受けたキューラ達。
謁見の間を抜けた所でトゥスはキューラに話があると言うどうやらクリエに関する事らしく。
キューラは嫌な予感と共にトゥスと二人で話をする事にした。
彼女がいう事ではまずい事になったらしいが……果たしてそれは、どのような事なのだろうか?
部屋の中へと足を踏みいれてからトゥスさんの言葉を待って数秒――彼女はゆっくりとしかし、はっきりと俺へと告げてきた。
「勇者のお嬢ちゃんは恐らく、もう従者の契約も奇跡も起こせない」
「……は?」
奇跡が起こせない? それってつまり……
「クリエは死なないって事か?」
「……魔法に関しては本人も気づかない程度までは回復するだろうさ、問題はそれ以外、つまり勇者としての魔法は使えない」
もう一度はっきりと言われた言葉。
それを聞き俺は思わず、笑みを浮かべた。
だって、そうだろ? それってつまり――
「良い話じゃないか! 早速クリエにも――」
「待ちな! 何のためにあのお嬢ちゃんに言わなかったと思う?」
「は?」
なんで止めるんだ?
だって、そんなものがあるからクリエは――
「勇者とは今まで世界を救って来た。それもモノや道具扱いされているのに気が付きながらも神や聖人の様にね」
「…………」
「だからこそ、世界は勇者に特権を与えた……勇者だけじゃなく家族やその従者にも、同時に勇者は人質を取られてるのさ、家族は勿論、愛する人も従者も奴らにとっては人質だ」
「なっ!? そ、それってどういうことだ?」
「言った通りさ、逆らえばどうなるか分からない……勇者の家族は何処に行っても監視されているのさ……さっき言った通り家族だけじゃない従者なんかは勇者と共にいるんだからね、最初の犠牲者になるだろうね」
だから今までずっと?
つまり、クリエにとって俺は足枷なのか?
「それなのに奇跡が使えなくなったと知られたら……勇者であるあのお嬢ちゃんは勿論、両親やお嬢ちゃんもどうなる事か」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、家族ってクリエに家族が居るのか?」
俺の聞いた話では勇者に子孫が居るとは聞いた事が無い。
つまり、クリエは突然現れた女の子って事じゃ――
「人が突然出てくるわけないだろ? あのお嬢ちゃんにも親が居る……いたって普通の親がね」
「じゃぁ、勇者ってのは親とは関係なく生まれるのか?」
俺の言葉に頷くトゥスさん。
そうだったのか……じゃぁ、クリエは生まれたその瞬間、両親を人質に取られてるってことなのかよ!?
なんだよそれ……なんでそんな――
「それだけ奇跡に頼ってるのさこの世界は……それなのにそれを知る連中の殆どは勇者を敬う事はしない、救って当然、救わなければ待っているのは両親の死……そして、それを本人たちは兵士が守ってくれてると思い込むだけで知らないんだからね……」
「騙されてるって事かよ!?」
そうまでして奇跡を使わせる? 馬鹿げてる!!
生まれた時からの人質だと? そんなのが許されるはずがない……それに。そんな事をしてしまえば――
「いつか……何時の日か現れた勇者が絶望して世界の崩壊を望んだ時はどうするんだ!?」
「滅びるしかない、だろうね」
それさえも考えない? 意味が分からない。
「だが、あのお嬢ちゃんはその力を失った。アタシらには幸運な事だ……」
「だけど、世界全体で見れば違うって事かよ……」
なんだよ、やっぱりこの世界は狂ってる。
俺は転生した時、この世界を見て知って心を躍らせた。
魔物が居て、魔法があって、冒険者と言う職業がある世界……そして、俺は当然の様に冒険者に憧れた。
なのに……実際は犠牲を積み重ねて続けられた世界で何かがあればすぐに勇者を頼る世界だった。
「そんな馬鹿げた犠牲……地球なら、日本ならないってのに……」
「ん? 何の事だ?」
「……なんでもない」
だが、トゥスさんが言った通りであれば、その勇者は力を失った。
それは彼女だけじゃなく俺も望んでいる事だ……死なせなくて良いんだから……
「分かったかい、本人には言ったら駄目だ。もし知られるようならあの子は勇者としての自分を見失うかもしれない。それが万が一貴族や王族にばれでもしたら」
「……ああ、分かった……黙っておくよ」
くだらない……本来勇者というのは絶対に世界を救う者じゃないはずだ。
勇気がある者で困っている人を助け、そして救った人々に生きる活力と勇気を与える存在。
命を犠牲にして絶対に救うだと? そんなのは生贄や人柱と言ったものだ。
だがクリエは違う……生贄なんかじゃない! 普通の女の子だ。だけど魔物へと向かって行く姿を……あれを俺の感性で言えば――
間違いなく彼女は勇者だ。
「それにしても、何でそんな大事な事を黙ってたんだ?」
俺はふと気になった事をトゥスさんへと尋ねる。
魔法のことに関しても奇跡に関してもクリエに直接影響のある話だ。
黙ってる理由が無い……
「さっきも言ったけどどうせ会うんだ。その時で良い、後は――あそこには他の奴らも居たろ? アタシは信用してるわけじゃない」
「……そうか」
確かにこの話を誰かに聞かれる訳には行かなかっただろう、それなら納得だ。
「それなら戻ろう、クリエが心配する」
俺はそれだけを口にし部屋の外へと出る。
元の場所へ戻ると俺の目に映ったのは見るからに高価な服に身を包んだ男女に声を掛けられるクリエ……
「あれは、誰だ?」
「この国の王子だね……」
お、王子? 確かにあの王様には子供が居てもおかしくはないだろう。
それにあの王様の子供ならそんなに警戒する必要もないよな? そう思っていると――クリエは何処か困った様な笑みを浮かべていた。
一体、どうしたんだ? 不安を感じつつも俺達はその場所へと近づくと……
「あ、キューラちゃん!」
クリエは俺に気が付いたのだろう、表情を明るくさせる。
う、うん……そんな笑顔を向けられると勘違いしそうだ……
「クリエ、どうしたんだ?」
「え、えっと……うへへ……」
俺が聞くとクリエは困った様な笑みに戻ってしまい。
王子と姫へと顔を向けた。
するとその二人は柔らかい笑みを浮かべ――俺と同じ位の年だろうか? 王子の方がゆっくりと頭を下げる。
「初めまして……私は王カヴァリの息子でシュヴァルツと申します」
俺もつられ頭を下げ名乗ると彼はにっこりとしている。
一方――
「こちらの頬を膨らませているのは私の妹エーレ、ほらエーレお客様にご挨拶を」
王子にそう言われるもお姫様の方はプイっとそっぽを向いてしまい……
クリエは再び「うへへ」と笑う、なるほどこれが原因か?
何かをされたという訳ではなさそうだし、クリエがなにかしたんだろうけど……
「一体なにをしたんだ?」
俺はクリエに問うと彼女は慌てた様に――
「な、何もしてませんよ!!」
そう叫びながら答えた。