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4 キューラの異変

 無事、魔王の配下である幼女を退け、先輩ミアラを救うことが出来たキューラ。

 しかし、駆けつけたターグたちに話をしようとしたところ、ミアラによってキューラは二人から隠されてしまう。

 疑問に思う彼だったが、そのままミアラに連れ去られてしまい……?

「はぁ……はぁ……はっ……」


 俺はミアラ先輩に保健室まで連行された。

 先輩は息を切らし汗をかきうなじに張り付いている髪をうっとおしそうに振り払う……その姿には男なら誰でもドキッとしてしまうだろう。

 事実、俺も今そうなった。

 これで彼氏が居ないと言うのだから……いや、居たの、か? 今となっては思い出せないがなんか爆発して欲しい気分になるな……。


「先生! 先生!!」


 だが、ミアラ先輩は完全にその人の事を忘れてしまっているのか、それとも俺の状態が余程悪いのか焦った様に扉を叩きまくっている。

 いや、鍵は開いているはずだから、開けて入ったら良いのでは? と思ったのは内緒だ。


「もう、どうしたの!? もしかして誰かが大怪我したとか!?」


 そのノックの音に慌てて出てきたのは女性の先生だ。

 彼女はミアラ先輩が扉を叩いた事には触れず、俺達へと目を向け心配してくれた。

 一応この学校には異性に見せるのが恥ずかしいと言った人の為に男性、女性二人の医師が居るはずだ。

 その為、二人の医師にはそれぞれの部屋が充てられていた。


 勿論俺はこの目の前に居る女性の先生……シスさんに良く診てもらっていた。

 というか男でもシス先生に診てもらう人は多い、片方の方にかけるようにしている髪は若干ウェーブが入っており、美人……スタイルも良い、どっちを選ぶと言われれば当然だよな?

 いや、うん……俺の場合もう一つ理由がある。

 この容姿だと男の先生であるヴォード先生は目が怪しくなるんだよな……。

 いや、あれはキツイ……女じゃなくても避けたくなる。


「あら……キューラ君、どうしたの?」


 先生はミアラ先輩には外傷もないので俺の方に問題があると思ったのだろう、すぐに聞いてくれるが俺自身今の状況は飲み込めていない。


「い、いえ……良く分からないです。傷とかは特に……大したことは……」


 当然そう答え、シス先生は困った様に笑みを浮かべた。

 そりゃ……そうなるよな。


「と、とにかく部屋の中に! キューラ君が大変なんです!!」

「へ!? ちょ先輩!?」

「ミ、ミアラちゃん!? そんな乱暴に――」


 二人して首を傾げていたところ、ミアラ先輩に背中から押され部屋の中へと押し込められてしまった。

 ミアラ先輩らしくもない行動だな……一体どうしたって言うのか?


「もう! ミアラちゃん! 押し込んだら危ないでしょ!?」


 先生は眉を吊り上げ怒る。

 確かに今のは危なかった。

 先生が先輩を呼ぶ声は少しきつい……こりゃ相当怒ってるな。


「まったくもう……本当にどうしたの?」


 だが、彼女の様子からただ事ではないと判断したのだろう、心配そうな顔を俺ではなくミアラ先輩へと向けたシス先生。

 すると、ミアラ先輩はチラチラと俺を見て――意を決した様に――。


「キュ、キューラ君が」

「お、俺?」


 俺が何かをした?

 いや、特に何か言われるような事は――。


「む、胸があるんです!」

「そりゃあるでしょ?」


 ミアラ先輩の言葉に何を言っているのか? とでも言いたげな顔で告げるシス先生。

 もしかして、この頃鍛えてたから筋肉が胸に見えたとか? そうだとしたら少しは成果が出てきたのかもしれない。

 そんな事を考えていると――。


「そうじゃなくてっ!!」

「うわぁ!?」


 先輩は何を思ったのか先ほど俺に着させた上着を捲り上げた。

 なんでこんな事をするんだよ!?


「胸があるんです!!」

「………………」


 俺は一体どうなってる? なんで先輩に服をめくられ先生に胸を晒してる!? 何この恥ずかしい状況!!

 というか先生は唖然としているんじゃないか? 服の所為で見えないけど、黙ってるし間違いないはず……そうだよな、まさか生徒が自分の前で急に男の服引っぺがして……何してんだって思うに決まってる――!!


「あ、あははは……まさかそんなことある訳ない……」


 顔は見えないがまるで引きつった笑みを浮かべて良そうな笑い声が聞こえ、シス先生は俺の胸へと触れて来た。


「ひぁ!?」


 くすぐったい様な、そうじゃないような……何とも言えない感覚が俺の身体に走り、思わず変な声をあげてしまった。

 今の状況でこれは恥ずかしい。

 ……だけど、俺は自分の顔が赤くなるのを感じながら先生の触診を受ける羽目になった。


「き、ききき傷は深くないようね? だから、その、これ位ならすぐに良くなるから消毒と薬を――」


 そんな事を言いてきぱきと手当てをしてくれたのだが、治療が終わった後、俺の服がようやく元に戻されるとそこには項垂れているシス先生がおり――な、何があったんだろうか?

 というか、俺がそうしたい。

 なんで俺はこんな恥ずかしい目に遭ったんだろうか?


「こんな症状……見た事無い」


 だが、俺の心情は知られる事無く先生は……そう呟いた。






 それから数十分後――


「嘘……だろ……」


 俺はがっくりと肩を落とし瞳を床へと向けたままベッドの上に座っている。

 余りにもショックでこれは夢だと思いつつ自身の股間へと手を伸ばしかけると――。


「何度確かめても変わらないわよ……」

「…………」


 シス先生の言葉とミアラ先輩の申し訳なさそうな視線が痛い。

 そう、あの後すぐにシス先生は先輩に外へと出し、俺の身体を確かめてくれた。

 俺もこの時初めて事態に気が付いたんだが……最初は胸が膨らんだだけだと思っていた。

 しかし、そこで見た現実は「無かったのだ」そう……「ある」はずのものが「ない」それが俺につきつけられた現実だった。

 こうなった理由は分からない。


「心当たりはないの?」

「……キューラ君、最初から女の子だったとか?」

「それは無いって知ってるだろ先輩……」


 というか、入学当時にターグと同室だと聞いて先生に文句を言いに行ってくれたのは貴女だったはずだ。

 あの頃は俺が男性だと言っているのは男性に生まれたかったからと勘違いしてたんだよな先輩は……。

 あの一件の後、男だってのは書類等で理解をしてもらっている。

 それにしても心当たり……か……。


「あら、何か思い当たる事でも?」


 俺の表情が変わったのか、先生は訪ねて来て俺は頷く――とは言え、これが原因だとは思えないんだよな。


「さっき先輩が魔族の子供に襲われていて俺が助けに入ったんです」

「……魔族……でも、魔族自体は珍しくはないわ」

「ええ、でも……その魔族はこの学校の人じゃない」

「続けて――」


 先生は頷き真剣な顔で俺の言葉に耳を傾ける。


「その時鎌みたいな物で裂かれたんですが、どうやらそれは存在を消す……それも人の記憶からも居なかったことにされてしまう呪いか魔法だったみたいで……」

「そんな呪いも魔法も聞いた事がないわ」

「それ私も覚えてます。なんでも新しい魔王様の力とか言ってました」


 そう、確かそう言っていた。

 それにしても新しい魔王か……確か授業で聞いた内容ではこの世界には俺達が住む神大陸そして魔族が居る魔大陸があってそれぞれの大陸には治める王が居る。

 それが500年前の魔王は未だ最強と呼ばれる男でこの神大陸に攻めてきた。

 だが勇者とその仲間……そう、その仲間には魔王も想像しなかったであろう相手も居て、彼は討ち取られた訳だ……。

 その想像しなかった者とは魔王の息子、つまり王子。

 王子は裏切者を処刑しに神大陸へと攻めてきた所、向かった村で村娘に一目ぼれ……彼は娘を手にかけることが出来なくて求婚を申し出たらしい。

 勿論拒否されてしまった魔族の王子。

 しかし、それでも諦めきれなかった王子は裏切り者達を集め彼らの力を借り、新たに攻めて来た魔王軍から村を護った。

 それが勇者の耳に入り人間側へと裏切ったんだっけか?

 まぁ、勝手な奴だ……とは言っても俺達の先祖はその裏切者達と魔王の息子なんだが……。


「それにしても、たしか魔大陸の王って早い時は一年経たずにで殺されるって聞きましたけど……今代は長いんですよね?」

「ええ、あっちの大陸は力ある者が正義……王の席についても早くて数日で命を絶つと言われているわ……でも、確かに今代の王は長く続いてるはずよ」


 一年経つ所か数日って……恐ろしい大陸だ。

 俺こっちに生まれて良かったよ……。


「でも魔王を名乗り配下を送ってくるって事は――」

「現魔王が殺されて、本当に新しい魔王へと変わった?」


 先輩の言葉に頷くシス先生。

 なんだか、話がデカくなってきているな。


「それで裏切り者の子孫に復讐か……でもなんで俺は無事だったんだ?」


 それが疑問だ。

 魔族の呪い、それも魔王の力だ……女に変わったのは困るが、死んではいないし男だった俺の存在も消えてはいない。

 つまり、はっきり言って効果が無かったと言う事になるよな?


「理由は一つ、キューラ君の魔力が現魔王に勝っていたってことでしょうね」

「はぁ……でも俺ほんの15歳の学生兼冒険者見習いですよ?」


 とても勝っているとは思わないし、思えない。

 戦い方によっては俺はターグに勝てない……しかし、あの幼女はターグより強い。

 今回はたまたま運良く引いてくれただけなんだからな。


「そうは言うけどあなた、綺麗な黒髪に透き通る様な赤い瞳でしょ? 一説では魔族の強さは瞳と髪の質で分かるとも言われているの、知ってるでしょ?」

「「そうだったんですか?」」


 それは初耳だ。

 ミアラ先輩もそうだったようで一緒に驚いてしまった。

 でも魔力って確か練習を続ければ増えていくって聞いたんだが……。


「貴方たちね……授業聞いてなかったの? 良い? 考えても見なさい、魔族だって死にたい訳じゃないでしょ? だったらどうやって強者を見分けるの?」

「それはそうですけど、襲って来た幼女は俺を見てもなんとも思ってなかったような?」


 そう言うとシス先生は首を傾げた。

 あ、でも、なんか途中で目の色がどうのこうのって驚いてたのか?


「そう言われると妙ね? もし諸説通りなら逃げても良いはず……もしかして純血じゃないからかしら? その分例え強くとも純血よりは弱いと感じた?」

「あの……二人共冷静に話してて忘れかけてるみたいですけど」


 ん? 急に何を言い出してくるんだミアラ先輩は……。


「これからキューラ君どうするの? その……色々不便でしょ?」

「……そうだ! どうしてこうなったかよりも今がいや、これからがマズイ! これじゃトイレすら入れないじゃないか!?」


 俺は男だと知れ渡ってるし、姿形が全く違うならまだしも全く同じだ。

 かと言って男の方に入ったら入ったでばれた時がどうなるか……。


「……そこなの!? それも大変だろうけど、私が協力するし、もっと気にすることあるんじゃ!?」

「へ? ……」


 気にするところってどこだ?


「部屋どうするの? ターグ君ならばらさないと思うけど他の人にばれたら……」

「……ああ、それもあった」


 そう言うとミアラ先輩は苦笑いを浮かべた後、何故か呆れた様な顔になってしまった。

 俺、何か変な事言ったかな?

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