468 気持ち
俺の様子にチェルは大きなため息をついてすっと瞼を半分ぐらいおろした。
なぜそんな目で見るんだ……。
「いや、だから……」
クリエ以外に色目を使う?
それはない……それだけは言い切れる。
「俺がキューラ以外を好きって……ないだろ?」
「いや、なんで私に聞くの?」
がっくりとうなだれる彼女に俺は首をかしげる。
好きとは初めて口にした気がしたが……嘘は言っていない。
「確かに仲間として、好きだってのはあるが、それはあくまで仲間だったり、友達だったりってわかるだろ?」
「うんうん……それはわかるよ?」
そうじゃなくて、そうじゃなくて! ってチェルがはぁっとため息をつく。
「多分だけど……クリエさんはその……ファリスちゃんに焼きもちを焼いてるんじゃないかな?」
「ファリスに?」
なんでまた……。
いや、でも……確かに彼女に微笑んだ時にクリエが変な顔をしていた気がするな。
本当にファリスに焼きもちを?
「……うーん、でもクリエとファリスは違うだろ?」
「複雑なんだよ……キューラちゃん、女の子なのに……あー……」
チェルは今度は頭を抱え始めていた。
彼女も俺が男だったというのは知っているはずだ。
それを信じているか、嘘と思っているかはわからないが……。
「一応言っておくけど俺は男だからな?」
体は女の子だけどな……。
「うん、そうだったね、どう見てもかわいい女の子だけどね……もとは男の子なんだよね? 見た目も変わって大変だよね……」
「いや、見た目はほぼ変わらないかな?」
女の子のふりをして同室だったターグへといたずらをしたのはいい思い出だ。
いや、ほんとあいつ赤い顔をし始めて口をパクパクと鯉みたいにしていたからな。
あれ以降俺が目の前で服を脱ごうとすると焦ってしまう癖がついたのはさすがにやりすぎたと思ったが……。
「そ、そう……なんだ」
はぁっとため息をまたつかれてしまったが……。
「それで、クリエさんが怒ってる理由は理解できた?」
「……ファリスとのやり取りが原因だとは言い切れないだろ? 確かに変な顔はしてたけどさ」
「にぶい……」
彼女は小さくつぶやいたらしいが、思いっきり聞こえてるんだよなぁ。
「でも、もし焼きもちだとしてもさ……」
「ん?」
チェルは瞼を半分おろしながらにらみつけるように俺のほうへと目を向ける。
明らかに不機嫌だ……声も若干低くなっていた。
なぜ君が不機嫌になっているんだ? そう聞くのは野暮だろう。
「それでも、俺がやることは変わらないよ……気持ちだって変わらない。俺はクリエのために戦うし、彼女が好きだ」
「はぁ……だったらそれを本人に言ってあげたら?」
ため息をつかれてしまった。
今日何度目のため息なんだろうか?
しかし……彼女に伝えるか……もう伝えてたはず……。
「あーいや、好きだってことは伝えてないのか?」
「だからなんで私に聞くの!?」
彼女の言葉とともに扉の向こうで何か物音が聞こえた気がした。




