46 国王カヴァリ
クリードの国王カヴァリ……その人は何故かクリエに優し気な視線を向ける。
そして、キューラに向けてこれからどうするのかと問う……
彼はそれに対し「仲間を集い魔王を倒す」と告げると王は二人で話がしたいといいクリエを部屋の外へと出す。
キューラは警戒をするもののその必要はなかったようで……?
俺の言葉にクリードの王であるカヴァリは優し気な笑みを浮かべる。
「先ほど言っただろう? 教え子だと」
た、確かに……
でも、つまりこの王様は学園の教員だった? いや、だとしたら説明がつかない。
「シェート先生は古代魔法科だ、で、ですが……カヴァリ国王貴方は……」
「人間だ、だが嘘を言っている訳ではない。あれは元々戦士志望でね、その結果私の生徒だったという訳だ。その生徒からの手紙にキューラ、君が顔を見せるであろうことを書かれていた」
な、なるほど……
先生が戦士志望なんて知らなかった。
だが、それはそれとして――
「話とは何でしょうか?」
「簡単な話だ……君も学んだだろう?」
それはつまり、勇者……クリエの奇跡の事だろう。
「ええ……」
頷くと王様は満足そうに顔を歪める。
一体なにが言いたい?
「先ほど言った通り、私は元は学園の教師、そして冒険者だ……他国の王からは成り上がりの王と呼ばれるよ」
「は、はぁ……」
なんか差別的な言い方だな?
「実際私が王を名乗っているのは運だ。だが、いずれ産まれるであろう新たな勇者の為にこの国を栄えさせたと言っても良い」
「どういう意味ですか?」
「くだらない差別だが、勇者は人として扱われない……その理由は我ら王族、貴族そして学園の者達だけが知る事実だが、世界を守る為の道具として見る者が多い」
俺はその言葉を聞き思わず歯ぎしりを立てた。
すると王は頷き――
「だが、私は思うのだ。それではいずれ人は滅ぶのではないかと……」
「…………」
「勇者呼ばれているとはいえ人の力、しかし勇者も結局は主神ガゼウルの力を借りているにすぎん……もし、その力が無くなったら? 誰が世界を救う? 我らも力をつけ考えるべきではないか、そう思うのだが残ながらこの国にも勇者を差別する貴族は多い、それ故に勇者が人に落胆した時は?」
この人、俺と同じ事を? いや、何もおかしくはない。
この世界も当然人が沢山いる……それだけ考える事が違うし、同じ事を考える可能性だってある。
「実は君に会うのを楽しみにしていた。最初に来た時、門兵を睨んだそうだな」
「え……は、はい」
「先程も言った事だが、我が兵が申し訳ない――彼には然るべき罰を受けてもらう、同時に私に話を通してくれた兵にはそれ相応の褒美を持たせるつもりだ」
ば、罰か……そう、だよな……
「話がそれたな、学園では従者とは勇者を守る存在であるべきだと教えられているはずだ、だがそれを聞き、実際に従者になれるかは別だ。勿論、教え通りに勇者の手助けとなる事もな」
「…………」
「だが、門兵が勇者を物扱いをした時、あどけない少女はその顔に、瞳に怒りをあらわにした。それだけではない、自身も傷だらけだと言うのに勇者の為に走ったそうだな」
「なっ!?」
なんでそれを? だってあれは昨日の事。
それに王様は何も知らないはずだ……例え、教会に居た人が話したとしてもそれが一々王に伝わるのか? いや、もしかしてこれってかなりマズイ状況か? だって、謁見の機会をもらってそれを無視してやってしまった訳だし、な……
「違うのか? 確かにそう耳に入った――」
「い、いえ、その通りです……」
この上、嘘をつく訳には行かないと俺は観念し口にする。
すると王は玉座へと戻り、腰を掛け……先程クリエへと向けた物と同じ瞳で俺を見据え……
「だからこそ、キューラよ、勇者ではなくお前に告げる。先程お前が言った通り奇跡を使わず魔王を倒してみせよ、無論我が国、そしてこのカヴァリに出来る事なら喜んで手を貸そう、分かるな? 志を共にする小さな魔法使いよ、これは好機だ……悲しき宿命を断ち切る為のな」
真っ直ぐと向けられた視線、その向こう側には片目だけの王の瞳が映る。
そこには厳しさとも優しさとも思える物が何故か俺には感じ取れた。
これは、俺が勝手に思っているだけかもしれない。
しかし、奇跡を使うななどと王が何も考えずに言うはずもないだろう。
何故なら彼は其処に座っているだけでこの国の住民達……いや、世界中の命を賭けるとも言っているんだ。
そして、その賭けの先は俺――
「………………」
つまり、俺が頷けば自然と俺にもその重みが加わる。
クリエが世界の人達の為にという様に俺はクリエの為にクリードの……いや、この世界の人々の命を背負わなきゃいけないのか……
「どうした? 怖いか?」
俺は正直何も考えてなかったのかもしれない。
クリエに奇跡を使うなと言った時も感情から出た言葉なのかもしれない。
だが――目の前で泣かれて、死なれかけて……その上でその命を犠牲にさせる? そんなのは――
「魔王は倒す――クリエに奇跡は使わせない、俺は自分の言葉を引っ込めるつもりはありません」
そんなのはごめんだ――
「もし、魔王を倒せなかったらどうする?」
「……その上で奇跡を使えと言うなら――俺は世界の敵になっても良い」
相手は王、こんな事を言ったら首を切り落とされるかもしれない。
だが、俺は自然とそんな事を口走っていた。
でも、だからと言って誰かの犠牲の上で世界が成り立つのなら――そんな考え、俺には無理だ。
「…………はははは!! つまりキューラ、勇者の為にお前自身が最後の魔王となると言う事か? それは傑作だ! そして、王という絶対の存在に対しその言葉、ただの馬鹿者か大物か、楽しみにしているぞ?」
「…………」
玉座のひじ掛けを叩きながら大笑いをする王はひとしきり笑った後で彼は大きく息を吸う――
俺はそれを見てはっとし――
「ま、待ってください!」
「なんだ?」
思わず王を止めた。
その理由は簡単だ……
「貴方の様な王が居るのに貴族や闇奴隷商、門兵……なんでクリエを――」
物扱いしたのか? そう聞こうとして言葉を俺は詰まらせた。
「分っている……私としてもそのような者は国から追い出したい、しかし闇商人は追い出せるとしても貴族や兵は無理なのだ。それは分かるな?」
「……でも」
王にこういった人が居るなら貴族にだって同じ考えの人はいるはずだ。
そう言う人を集えば――
「貴族は多額の税を納め、街の為に騎士を育て、私はその金で街の壁や兵士の為の武器や防具、食料、給与を出している。貴族は街には欠かせない存在だ。我らと同じ考えの者だけにまとめると言うのは難しい」
「………………」
それは分かってる。
一般人も税は払っている……だが、貴族は桁違いだ……だからこそ、優遇もされる。
分かってはいる……でも納得はしたくない。
「時間をかけた! もう良いぞ勇者を今一度此処へ連れて来てくれないか!」
部屋の中に彼の大声が響き渡った。
なんとか、なったのか? 心臓に悪い……無茶苦茶ばくばく言ってるぞ……
「キューラよ」
「は、はい!」
こ、今度は何だ?
「何か困ったらこの国へ戻って来い、必ず手を貸そう……私はお前が気に入った。少女とは思えん肝が据わりようだ」
「あ、ありがたきお言葉です!」
思いがけない言葉に俺は頭を下げる。
しかし、少女ではないし肝は据わってない、ぞ……?




