459 夜
その日の夜。
俺は宿屋の一室で窓から外を眺めていた。
神大陸と何一つ変わらない夜中だ。
だが……俺は、変わった。
新たな武器を手にいれ……クリエを守る手段を手にいれた。
魔拳だって克服したようなものだ。
油断はできないが……身を守る手段は手にいれた。
「……キューラちゃん」
俺がそんな事を考えている中、クリエの声が聞こえた。
振り返るとそこにはライムを抱き上げた彼女が立っている。
不安そうな表情のまま俺を見つめている彼女に俺は微笑むと――。
「どうした?」
と尋ねる。
すると彼女は少し迷うそぶりを見せ――。
「あの、本当にガゼ……父様を」
「……君が必要とするなら、でもそうじゃないなら俺は魔王を倒すだけだ」
あくまで目標は魔王の討伐。
それさえなせれば勇者の奇跡なんてなくても人は戦えるとわかるだろう。
だからこそ、魔王は倒さなくてはならない。
だが……。
「タイミングが重要だな」
「たい?」
そうか……そう言えばこの世界では英語が通じないんだった。
「えっと要するに……時期だよ時期……今闇雲に魔王を倒したところで神大陸には何の影響もないって事だ」
進軍をしてからでも遅くはない。
脅威でもなんでもないやつを倒して誰が認める?
寧ろそれが原因で魔大陸との戦争になったらどうすると咎められても仕方がない。
「だからとりあえずはこっちで魔王の元へと近づきつつ冒険者として過ごそう」
クリエのためにちゃんとした条件で魔王を倒さなければならない。
だが、相手はあのお婆さんの孫だ。
「……魔王を殺すんですか?」
そこはクリエも気になってるんだろう。
少し表情が硬かった。
優しい彼女の事だ……自分のために人が死ぬのは嫌だというに違いない。
「……極力それは避けたい、だけど……どうなるか、絶対に殺さないなんて嘘の約束はできない」
俺はそう伝えた。
戦う中でそうするしかなかったら? そう言ったことはあるだろう……。
だから、彼女には嘘が言えなかった。
もうこれ以上彼女に嘘をつくのはやめたかったからだ。
「キューラちゃんは私のためなら何でもするんですか?」
不安そうな声で彼女はそう口にする。
それは彼女の本当に望むことじゃないだろう。
だからこそ――。
「君の本当に望むことなら……だけど、そうじゃなくてもクリエの命に関わるのならなんだってする」
本当の事を伝える。
俺は彼女を守りたい。
それは変わらない……本当最初であった時から考えると信じられないな……。
そんな事を考えつつ俺は彼女の目を見る。
引かれているだろうか? それとも幻滅されただろうか?
そんな事を考えていると彼女はその瞳から涙を流し……。
「もし、もし……お母さんとお父さんと会いたいって言ったら……」
「会わせてみせる……どんな手を使っても絶対に」
それが彼女の願いなら……迷う必要なんてあるだろうか?
どんなに難しいことだってかまわない。
俺の願いはただ一つなのだから。
「本当……キューラちゃんは変です」
「……そうかな?」
今更何を言うのだろうか? もう短い付き合いじゃない。
そもそも、死ぬのが怖いと泣いている子を放っておけと言われ放っておけるか?
無理な話だ。
この気持ちはそこから始まったんだ。
世界のためにたった一人が犠牲を強いられる。
そんな世界間違っている……。
「勇者ですよ?」
「いいや、俺からみたらただの女の子だ」
「本気になっちゃいますよ?」
「いや、寧ろ本気じゃなかったのか?」
その言葉には少しショックと危機を感じるのだが……。
何とか言い返す。
すると彼女は涙ながらに微笑みながら。
「うへへ……バレちゃいました」
と口にするのだった。




