458 反旗の拳
出来上がった武器……それを見につけ俺はファルさんへと礼を告げる。
「そんなの良いよ、ところでその武器の名前はどうするんだい?」
「名前?」
「これから魔王を倒す武器だってのに名前もなしじゃ締まらないだろ?」
彼女の言葉に俺は思わず「ああ」と感心してしまった。
そうか、名前……そう言えば武器の名前ってあまり聞いたことが無いな。
店で売っているものは大抵ソードとかロングソード……などと言った部類には分けられてはいたが、それ自体に名前があることは稀だ。
マジックアイテムとなれば別ではあるが基本的にその武器の名前というのは少ない。
「……アガートラーム」
思わずつぶやいた名前は昔読んでいたラノベに出てきた装備の名前だ。
聖拳と書いてアガートラームと読む。
そもそもアガートラームとは神話か何かの道具だか装備だったような気がするが……。
どういったものなのかは詳しくは分からない。
だが、そんな名前の装備があったのだ。
「……神殺しか、物騒な名前だね」
「……は?」
思わぬ返答に俺は目を丸める。
すると――仲間たちは俺へと驚いている表情で視線を向けていた。
「あ、いや……そんなつもりは……」
ないと言えば嘘になる。
例え神であろうが、なんであろうが、クリエを泣かせるのなら……俺は戦う。
だとしたらこの武器の名前にはぴったりなのかもしれない。
だが……現時点ではそうと決まったわけではない。
「キューラちゃん……神様が憎いの?」
そう呟くのはチェルだ。
彼女は神官でもあるはずだ……。
だからこそ、俺の言葉が引っかかるのだろう。
だが……。
「い、いや……」
俺はしっかりと答える事が出来なかった。
憎い、わけではない……。
だが、例え神に逆らってでも……それでもクリエを助けたいという気持ちがあるんだ。
「へぇ……そっちのお嬢ちゃんは神聖魔法の使い手だろう? なのに神への疑心があるんだねぇ」
「――っ!!」
ファルさんがそう言うとチェルは目を張りその瞳が揺れた。
何も答えず、彼女へと目を向け能面のような表情を浮かべたかと思うと慌てて目をそらしていた。
明らかに変だ。
それに対し、悲しそうな表情を浮かべるのはクリエだ。
当然だろう……。
彼女は神の子とも呼ばれる勇者なのだ。
「……皆さん……ガ……父様が……」
彼女自身そう言いつつ、迷っているようにも見えた。
その証拠にすぐに父様という言葉は出なかったのだ。
それもそうか……彼女にもちゃんとした両親はいるのだから……。
彼女は勇者として選ばれたにすぎないのだ。
「クリエは……どう思ってるんだ?」
俺は彼女に対し尋ねてみる。
勇者として選ばれたから彼女は家族と引き離された。
人としての暮らしを失い、世界の奴隷となった……。
「…………それは」
彼女は言葉を詰まらせ……。
「分かりません……」
「そうか……なら、君の考えがまとまったら言ってくれ、俺は君の意見を尊重する」
彼女を助けるためには魔王を倒さなければならない。
世間はきっとそれで認めてくれるはずだ。
少なくともこの魔大陸であれば……確実に……。
だから、神まで倒す必要は……ないよな?
だから……その時は彼女の意見の方を尊重したいと思う。
「……それで本当に名前はアガートラームで良いのかい?」
トゥスさんは確認のために尋ねてきた。
俺はその言葉に頷く……。
「ああ、例え悪魔だろうが神だろうが、俺はクリエのためなら戦う……そのための武器だからな」
迷いはない。
神が憎いかは分からない。
だけど……これは助けるための武器なんだ。




