45 クリードの王
クリードの王との謁見の為、キューラ達は王城へと向かう。
果たして国王はクリエを道具として扱い、平和のために命を差し出せという者なのか……
それとも、まともな考えを持つ者なのか……それはまだ分からない。
王城の目の前に付いた俺は首を傾げた。
その理由は其処に居る門兵だ。
「これは勇者殿、体調不良と聞いておりましたが大丈夫ですか?」
そう言うのは以前とは違う兵士だ。
嫌味という訳ではなく、礼儀正しい人だな……
一方もう一人の方はぎこちない動きでこちらへと来ると――
「きょ、きょうはぁ! ……今日はどのようなご用件で!!」
緊張しているのか声を裏返しつつもそう聞いて来た。
以前の二人の門兵はどうしたのだろうか? もしかしてあの無礼な方は処罰でも受けたのか?
いや、偶々休みなのかもしれない。
もう一人の兵士の人……あの人にはお礼をちゃんと言いたかったんだが……用件を伝えてから聞けばいいか。
「遅れて申し訳ございません、今日は勇者クリエの体調は良くなったので謁見をしたく参りました」
俺がそう伝えると門兵2人は頷き――
「かしこまりました。すぐに話を通します」
しっかりしている兵士が身を翻し城の中へと向く、俺は彼の背に慌てて声を掛けた。
「い、以前話を通してくれた兵士さんは今日はお休みですか?」
すると、彼は振り返り笑みを浮かべ。
「いえ、彼は今別の仕事についています。恐らくすぐに会えることでしょう……では」
頭を下げて去る兵士はやはり以前の人と同じで柔らかい印象だ。
もう一人の方は――
「で、ででで――ではせ、先輩が戻るまでおまちぃ……お待ちください!」
「そ、そんな緊張しなくてもいいんですよ?」
ガチガチに固まっている兵士にクリエも思わず苦笑いだった……
それから暫くし俺達は王の元へと招かれる。
「君が、あたらしい勇者か……私がこのクリードの王、カヴァリだ」
そこに居たのは片目に傷がある初老の男。
すぐに濁っているのが分かった。恐らくあの瞳は見えていないのだろう……そして怖そうな顔からは想像が出来ない程、優しそうな雰囲気があった。
「あ、あの……」
クリエは王を前にし泣きそうな顔を浮かべ、俺は焦りつつ王に声を掛ける。
「実はここに来たのには理由が――」
「大丈夫だ……話は聞いている」
王はクリエに優し気な瞳を向けた後にまるで射貫くような視線で俺を見る。
何で俺をそんな目で見る!? い、一体なんだ? この人は――
勇者であるクリエがどういった力を持つ存在なのかは理解しているはずだ。
だが――何故俺に敵意? いや、違うか……何か意味があるんだとは思うが……
「して、従者よ……どうするつもりだ?」
その言葉の意味はなんだ? いや、クリエを犠牲にするかしないかの話だろう。
しかし、何で俺にそれを聞く? この場で問うべき存在はクリエのはずだ。
だが、これは都合が良いだって俺は――
「はっ! 仲間を集い、その上で魔王を討伐したいと考えております」
俺はクリエを見捨てるなんて事はしない。
昨日は俺の考えの甘さから彼女を危機へと貶めた……次は――次はそんな事を……そんなヘマをしない!
そして、その考えをクリエの前で偽る訳には行かないんだ。
恐らくだが、この王がクリエに向けた視線……あれは決して道具を見る様な目じゃない。
例えその間が間違っていて、目の前に居る王に警戒されようが構いやしない。
俺は――守ると誓ったのだから……
「……………………」
俺は目の前の王へと目を向けつつごくりと生唾を飲む。
横からはクリエが俺の名を小さく呼ぶ声が聞こえたが――それどころではなかった。
もし、この王が変な動きをしようものならあの魔法を使ってでも――
「そうか……」
だが、王は俺に向ける表情を柔らかくすると――
「勇者よ……私はこの者と二人で話したいのだが、良いか?」
「「え……」」
王の言葉に俺とクリエは同時に声を上げる。
というかクリエよ……明らかに嫌そうな声だったのはなんでだ?
いや、まだこの王の事を何も知らないのだから、警戒して当然だとは思うが――
「……クリエ、頼む……少しだけ待っててくれるか?」
直感……とでもいうのだろうか? やはりこの王様がクリエを物扱いしているとは思えない。
俺をハメている……その可能性もまだあるが……それでもこの人の話を聞いて見たい。
「わ、わかりました……」
俺の言葉を受け、彼女はしょんぼりとしつつも兵士に連れられて部屋を出る。
ここに居るのは従者である俺と王。
奇妙な状況の中、王は立ち上がり俺の目の前まで来ると――
「なっ!?」
――頭を下げた。
「以前は我が部下が失礼をした」
「い、いえ……頭を上げてください」
部下とはあの兵士の事だろう……だが、一国の王が俺に頭を下げるというのはありえないことだろう。
「もう一人の兵士の方に良くしていただいたので――」
「そうか……しかし、それだけではない、立場を利用し君を試すような事をした。その詫びをしたい」
試すような事?
いや、そんな事された覚えはない……王に出会ったのは今日が初めてだ。
待てよ……もしかして、昨日の一件は――
「しかし、見事であったキューラよ、王相手に奇跡を使わぬと言った事は」
「い、いえ……」
奇跡? 確かに俺ははっきりとは口にしていないが、そういうつもりで言った。
だが、そう口にすると言う事はこの王様は……って……
「何で俺の名を?」
俺は名前を名乗ってはいない、クリエに関しては勇者であるから知っている必要があるだろうが……
「何、昔の教え子に手紙をもらってな……」
彼は顔に皺を寄せ笑みを浮かべるとその手紙とやらを俺に見せて来る。
そこに書かれていた筆跡には見覚えがあり、まさかという気持ちで俺は送り主の名を見ると――
「な……なんでシェート先生の名前が!?」
そこに書かれていたのは俺が所属していた古代魔法科の教諭の名前だった。