457 不安
「……は?」
「最後の家系が隠れた理由は神の子に武器を与えるためじゃない……いずれ生まれてくるだろう、大馬鹿者に力を与えるためだ」
ちょっと待て、その言い方だと俺が大馬鹿者だと聞こえるんだが……。
間違ってはない、間違ってはないが……なんか腑に落ちないな。
「まさか、こんな形で出会うとは思わなかったけどね、本当に素材を持って来るとはね」
ニヤリと笑みを浮かべていることから恐らく俺の事を言っているのだろう。
「……それじゃ、貴方が神大陸に居なかった理由って」
「勿論、バレてもこっちなら実力さえあれば何にも言われないからだね」
なるほど、王制であるあちらであれば、彼女も満足に動くことはできない。
俺達だって追い出されるようにここに来たんだ。
「…………」
だが、一つ疑問はある。
「なんでイールはあっちに?」
「弱いからね」
あっさりと答えた彼女はそれ以上は何も言わなかった。
だが、彼女の言葉が本当であれば……。
それもイールを守るためだったのだろう。
「……この武器はありがたく貰っていくよ」
俺はそう言うと金を取り出し彼女へと手渡そうとした。
しかし、彼女はその布袋をじっと見つめ――。
「いや、いらない」
「は?」
なにを言っているんだ?
そう思って彼女の方へと目を向けると――。
「いらないなら渡す必要はないね」
しめしめと言った感じで手を伸ばしてくるトゥスさん。
「ダメに決まってるでしょ!」
そんな彼女の手を払うのはチェルだった。
まぁ、このパーティーの財布の紐だ。
彼女がいてくれるお陰でこの数日困ったことにはならなかった。
今はクリードの支援も貰えないしな。
「あの、料金を支払わなくていいというのは少し……」
クリエも思う所があるのだろう。
そう口にするが――。
「何を言ってるんだい? 目的は一緒さ……なに、それの料金ぐらい他の奴からぼったくればいい……例えば神大陸の貴族とかからね」
ニヤリと笑みを浮かべた彼女はどうやら本気のようだ。
「それよりも、倒すんだろう? 魔王を……」
「ああ……倒して、クリエを救う」
そう口にしたものの、不安はあった。
魔王に勝てるかどうかじゃない……。
本当にそれで終わりなのかどうかだ。
「キューラちゃん?」
俺の雰囲気を読み取ったのか不安そうな声を上げるのはチェルだった。
彼女は俺の顔を覗き込むようにし――。
「な、何でもない」
俺は慌ててそう言うと顔を反らす。
引っかかる理由……。
それが分からないわけではない。
その理由は神の存在だ。
クリエ達勇者を地上へと生まれさせた神。
彼らは人に見切りをつけようとしている。
魔王を倒して本当にそれだけで終わりなのか? と思ったのはそれだ。
「……どうしたんだい? 何でもないって顔じゃないじゃないかい」
トゥスさんも流石に気になったのだろう。
そう言われ――。
俺は首を横に振る。
「いや、ちょっと考えすぎただけだよ」
それだけを伝えると顔を上げ――。
「魔王は倒す。ただそれだけだ」
そう伝える。
今は考えても仕方のない事だ。
現状彼女を救う方法はそれしかないんだ。
「それが聞けて安心したよ」
にっこりと笑みを浮かべるファルさんは――。
「そして、ゆくゆくは神をも倒してほしい物だね」
「…………」
彼女の言葉に俺は息をのんだ。
いや、俺だけじゃないクリエもだ。
「また冗談を……」
それに対し呆れたようにため息をつくのはチェルだ。
しかし――。
「キューラお姉ちゃん?」
ファリスは俺の服を掴み――。
「変、だよ?」
と尋ねてくるのだった。




