456 新たな時代の……
拳を再生しながら魔拳を使える。
その可能性を伝えられ、俺はごくりと喉を鳴らす。
それもそうだろう。
魔拳は諸刃の剣だ。
いくらアウクに認められ、力を手にいれたからと言ってそれは変わらないだろう。
俺はゆっくりと呼吸をし、手甲を身に着ける。
「……温かい?」
冷たいはずの金属は妙な温かさを感じた。
だが、不快感はなく寧ろ包まれるような感じだ。
「あんたを主と認めてるんだよ」
そう言うファルさんの言葉はいまいち理解が出来なかった。
だが……。
馴染むという事は分かった。
心臓が高鳴り、焦る気持ちを感じた俺はそれを抑えつつゆっくりと詠唱を唱える。
そして――。
魔拳を発動させた。
燃え盛る炎は瞬く間に拳を包み込む。
熱くはない……寧ろ涼しいとさえいえる感覚だ。
「……こんなの見たことないです」
そんな声を上げるのはクリエだ。
いや、声を上げられたのは彼女だけだったといったほうが良いのかもしれない。
俺さえもその変化に言葉を奪われた。
「炎が……青い……」
この状態は確か安定しているんだったか?
そんな事を考えながら俺は拳を持ち上げる。
当然炎も揺れ、それを見ていたクリエは感動したかのような声を漏らした。
「綺麗……」
だが、そうつぶやいたのはチェルだ。
彼女は炎をじっと見つめながら思わずつぶやいてしまったのだろう、どこか恍惚とした表情だ。
「……魔力、凄い」
ファリスはそんな事を言うが……。
魔力がすごいというのはどういう意味だろうか?
とにかくこの武器のお陰だろう。
そう思った俺はファルさんへと目を向ける。
するとそこには険しい顔の彼女がいた。
「前も思ったけど……あんた……その魔法をどこで?」
「え? それって……」
言われても……。
アウクにもらった力だと言ってもいいのだろうか?
「色々考えては見たんだけどね、もしかしてアウクの子孫か?」
「…………なんで、それを」
そう言った俺はハッとしトゥスさんへと目を向ける。
だが、彼女は首を横に振った。
「いや、最後の一人については分からない」
そして、そんな事を口にしたのだ。
一人については分からない……? それも妙な話だとは思うが……。
「最後の一人は確かにドワーフ族だ。だが……」
そう言ったトゥスさんはファルさんへとその目を向けるがどうも疑っているようだ。
彼女はその視線に気がついているのだろう。
「そりゃ知らないだろうね……シュターは影ながら支え、力を与える者……表舞台には立たないと決めたのさ」
そう口にした彼女は嘘を言っているようではない。
だが……。
「へぇ……聞いたことないね……それに最後の家系はラーミスだったはずだよ」
「名前が違う?」
チェルはトゥスさんの言葉を聞き胸の前に手を合わせ不安そうな瞳でファルさんを見る。
しかし、俺には名前の違いなんて些細な事だと思ってしまった。
「表舞台に立たないことを決めて、名前を変えたのか? それじゃ君達にたどり着くなんて……」
「おそらくは無理、だろうね」
そう言った彼女はクリエへと目を向け笑う。
「だが、必要なものは必ずシュターを探す、そうし向けるようにはしていたのさ……まぁあんた達とはたまたま出会っただけだ……だけどいずれあんたはここに来ていた」
そう言って目を向けたのは俺の方だ。
「アウクの子孫、魔拳の継承者……新たな時代の勇者ちゃん?」
その言葉は何処か挑戦的でもあり……。
そして、確かに俺へと向けられたものだった。




