455 新しい武器
あれから数日、簡単な依頼をこなしつつ俺達は過ごしていた。
初日の事件のお陰もあって、俺達が依頼を受けたいというと酒場の店主は喜んで仕事を紹介してくれた。
「お金溜まってきたね」
チェルは重くなった布袋を持ちながらそんな事を呟いた。
実は俺達の財布はチェルとクリエに分担して持ってもらっている。
勿論俺も少し持ってはいるが……。
「ならあたしにも少しぐらい分けてくれたっていいんじゃないかい?」
問題はトゥスさんだ。
彼女はこの大陸の酒が飲みたいと騒いでいるのだ。
勿論酒だけなら問題はない。
彼女は酒好きではある。
しかし、べろんべろんに酔ってはいないのだ。
だからこそ、そこは気にしないのだが……。
「ダメです!!」
チェルに指を突きつけられトゥスさんはたじろぐ。
なぜか?
それは簡単な理由だ。
彼女が好きな者酒、タバコ……そして賭け。
どう考えてもエルフとはかけ離れている言葉ではあるが、彼女はその三つが好きなのだ。
そして――。
「ギャンブルはだめだぞ……」
俺は改めて忠告をする。
何故なら彼女はお遊びでやったトランプでさえあっさり負けたのだ。
まぁ、彼女がギャンブルに弱いっていうのは昔聞いた覚えがあるが……。
「この大陸でギャンブルに弱い事が露見したらカモられて終わりだぞ」
俺ががっくりとしながらそう言うと彼女はふんっと鼻を鳴らし。
「勝てばいいんだろう?」
「いや、だから勝てないんですよね?」
クリエも珍しく辛辣だ。
そして、ファリスは諦めた様子で俺の服の裾を引っ張り始め。
「武器、そろそろできてる、とおもう」
そう教えてくれた。
確かにそろそろできているころか……。
「そうだな、店の方に様子を見に行こう」
「はい! どんな武器になってるんでしょうね?」
クリエはどうやら楽しみらしく、わくわくとしている様子だ。
その姿は無邪気で可愛らしい。
チェルも賛成してくれるらしく、うんうんと頷いてくれた。
「ったく、仕方ないね」
トゥスさんも戦力強化というのは大事だと考えているのだろう。
特に文句を言うそぶりもなく、出かける準備をし始める。
「それじゃ、いくか……」
俺は仲間たちと一緒に武器を取りにシュター武具店へと向かう事にしたのだった。
シュター武具店の扉をくぐると店主はいない。
「ファルさん?」
妙だ……静かすぎる。
「なんか……変」
チェルも不安になったのだろう辺りをきょろきょろしており、クリエは腰にある剣へと手をかけて警戒していた。
珍しく、カッコいい勇者らしいクリエだな。
そう思いつつ俺も警戒をし拳をしっかりと握る。
静かな店に違和感を感じつつ俺達は奥へと入っていく。
すると――。
「勝手に入り込むなんて、失礼だと思うけどね」
そう言って顔を見せたのは店主ファルだ。
思わずびっくりとしてしまったが、すぐに俺は頭を下げ……。
「わ、悪かった……やけに静かだったから心配になって」
「いや、それはすまないね。だけどね、これを見てごらんよ」
そう言って俺達は机に置いてあるそれへと目を向けた。
本当に金属でできているのだろうか・
真っ白な手甲だ。
「……なんだ、これ?」
俺が持ってきた金属と全く色が違う。
そう思っていると――。
「稀にあるんだよ、私達の種族にね……作っている途中に魔力を秘めた道具に変わるのさ、条件は分からないけど噂では元となった鉱石を取った人間に左右されるって言われてるよ」
そう言った彼女はコンコンと手甲を叩く。
つまりマジックアイテムになったという事か?
だけど――。
「つまり、なにかの効果があるってことだな? 一体……」
「それがさっぱりなんだ……元々、その予定ではあったんだけど……本人は神聖魔法を籠められるって言ってはいるんだけどね」
本人が言ってる? 言ってるとは誰が言ってるんだ?
「ドワーフは自分の作った道具の声、聞こえる……噂だけど」
俺の疑問に気がついたのかファリスがそう口にする。
そんなバカな……とは思ったのだが……。
「噂じゃないよ、一部のドワーフ、それも本当に稀な事さ……初めてだよ武器が語り掛けてきたのは」
彼女は驚いているし、嘘ではないのだろう。
「でも、神聖魔法を籠められるって……キューラちゃんは魔族ですよ……」
「ねぇ……もしかして」
俺が困惑しているとクリエが困ったような声を出し、それに続けてチェルは手甲から目を離さずにそれへと近づく。
「もしかして……だけど」
彼女はそう言うと手を手甲にかざしゆっくりと息を吸う。
「我らへとその尊き愛を注ぐ神々よ……我が願いを告げる、汝が仇敵と戦い、傷つきし戦士に今一度汝の偉大なる加護を与えたまえ……」
「へぇ……驚いたね」
その詠唱は何度か聞いたことがあるものだ。
リザレクションとつぶやくチェルの手からは温かい光が灯り、手甲に吸い込まれていく。
高位の回復魔法。
それが手甲の中に入ったのか? だけど……。
「殴ったら敵が回復するんじゃ意味がないだろ?」
「……そうだったら、別の魔法を考えるしかないけど、もしかしたらキューラちゃんがとってきた鉱石だから」
俺がとってきた鉱石……。
いや、だけど俺は魔拳を制御できるようになった。
だが、燃えないとは限らない。
つまり……拳を、腕を再生しながら戦えるって事か?




