454 思い
酒場へと戻ると店主は笑みを浮かべていた。
俺達が戻らないなんてことは考えてなかったようだ。
「おう! 戻ったか!」
彼は笑みを浮かべたままドンっとカウンターの上に布袋を置く。
俺達はまだ入り口だ。
そんな所に置いたら盗む奴もいるかもしれない。
俺はそんな事を思い浮かべたが……。
実力主義のこの魔大陸では俺達へ羨望の眼差しを向ける者はいてもその手を布袋に向ける者はいなかった。
「どうだった?」
「問題はなかったよ」
試しにそれだけを伝えると頷いた店主はどんっと音を立てテーブルの上に食事を用意してくれる。
いったいどういう事だろうか?
首を傾げると――。
「さっきこいつがついてな?」
そう言うと抱き上げたのは一匹の猫だ。
まるで骨なんか無いように伸びている姿はスライムっぽくも見えるが……猫だ。
「婆さん喜んでてな……そして、お前さんの事もかかれていたよ」
「……俺の事?」
喜んでたと言うのはまぁ分かる。
だが、俺の事を書いていたとは……どういう事だろうか?
「お前さん、魔王を倒すんだって?」
「……ああ、その予定だ」
俺はつもりとは言わなかった。
ここでその言葉を使えば揺らいでしそうな気がしたからだ。
「キューラちゃん……」
クリエは悲しそうな顔をしていた。
優しいからな……お婆さんの孫を倒すことを良しとはしてないのだろう。
だが、倒しても殺さなければ良い。
殺すことが倒すことではない……それなら問題は何もないんだ。
「大丈夫だ、俺を信じてくれ」
クリエへと目を向けた俺は笑って見せる。
俺はもう折れない。
弱い自分もいる……ダメな時もある。
だけど、クリエを絶対に助けたい……全部ひっくるめて俺なんだ。
「そこに居るのは勇者だろ? だが、お前さんの眼は自分でやろうっていう眼だ」
「……勿論だ。奇跡なんてくだらない物に頼る必要はない」
魔王は人だ。
あの婆さんの話からそれは確認できた。
だから――。
「俺が魔王を倒す……そして、この大陸の実力主義ってのを変えてやる」
「神大陸と一緒にするってか? それに何が得がある」
それは……違う。
「いや、神大陸の王制は確かにこっちの大陸とは違う……だけどそんなの一部の人間が得するだけだ」
「分かってるじゃねぇか!!」
酒場の誰かからそんな声が聞こえた。
だが……そんなことはどうでもいい……。
「だからって皆が皆幸せになるかって言われると無理だ……そんなのは分かってる」
正直、俺に政治は向いていないと思う。
だが……。
それでも、俺は――。
「王制ではなく、別のものを考えないとな……」
俺はクリエと仲間を守って……なによりクリエが安心して笑える国を作りたい……そのついでに嫌な思いをする奴が減ればいい。
それだけで良いんだ。
俺の目的はあくまでクリエを守る事。
そして、その為には仲間が必要で……その仲間ももう失いたくはないんだからな。
「今はまだ分からない。先の事なんてどうでもいい」
今が大切なんだ……。
全ては魔王を倒してからの事なんだ。
「そうか、面白いじゃねぇか! ほら飯が冷める前に食ってくれ!」
店主は大笑いをするとそんな事を言い、食事を勧めてきた。
少し悪い気もしたが、ここはありがたく食事をとらせてもらおう。




