453 依頼報告
その日は何とかミィちゃんの世話を終えた俺達はお婆さんの元へと向かう。
「戻ってきたかい」
「ああ、ちゃんとご飯とかを食べさせてきたぞ」
そう言うと彼女は笑い。
「だろうね」
「……なんでわかるんだ?」
尋ねると、なにをいっているのか? と言った風な表情を作っていた。
「あの子の元から戻ってきたんだからね」
なるほど……。
確かにそうだ。
あの魔物が本当に恐ろしいのであれば、戻ってくる前に喰われていてもおかしくはない。
だが……改めて考えると本当に恐ろしい魔物の所に連れていかれたわけだ。
「……それで世話ってのは今日だけだろ?」
トゥスさんが半ばうんざりしたような表情で尋ねるとお婆さんは睨みつつうなづく。
まだ餌発言を根に持っているようだが……これは仕方がない。
大切に扱っている家族がそんな風に呼ばれたら誰だっていやだろう。
「ああ、今日だけだよ……お嬢ちゃんにはもう少しやってほしかったけどね」
「……そうか、でもいいのか? ご飯とか上げれなかったら……」
そう言うとお婆さんは大きな声で笑い始め……。
「元々世話ぐらいできてたさ、ただ一日ゆっくり休みたかっただけさね」
なるほど、そりゃそうか……。
今まで依頼がなかったんだ……。
ならだれが今まで世話をしていたか? の問題になってしまう。
あの子が元気だった以上、誰かが世話をしていたという事なんだからな……。
当然お婆さんがやっていたって事か……。
まぁ、それならいいんだが……。
「でもお婆さん気を付けてくれよ?」
いくら魔王の祖母だからと言ってもこの人に罪はない。
だからこそそう言ったのだが……。
「全く人が良いにもほどがあるね……」
トゥスさんは呆れているみたいだが、それでも俺は――。
「罪は無いからな……」
しっかりと口に出して言うと、トゥスさんは大げさな動作でやれやれとしてきた。
だが、それ以上は何も言わないみたいだ。
その事にほっとしつつ、俺はお婆さんの方へと目を向ける。
「それじゃ、俺達はこれで……」
「待ちな……」
お婆さんに呼び止められ、振り返ると……。
「これを持って行きな」
手渡してきたのは布袋だ。
ずっしりとしたそれには恐らく……。
「お金だよ」
ですよね……。
「いや、報酬は酒場だろ?」
俺がそう言うとお婆さんは頷く……。
直接貰えることもあるとは言っても、今回は失礼もあったしお婆さんも怒っていた。
だというのに……。
「お嬢ちゃんはよくやってくれたんだ、色を付けておくよ」
そう言ってお婆さんは立ち上がると俺の手に布袋を押し付けてきた。
ありがたい、正直ありがたいが……。
とはいえ、ここまでされて返すのもなぁ……。
「わかった、ありがとう!」
悪いとは思いつつ、俺はお婆さんから受け取った布袋を懐へとしまう。
それを見ていたお婆さんは嬉しそうに目を細める。
うん、そう笑ってもらえるならいいか……。
俺はそう思いつつ仲間達へと目を向け――。
「行こう!」
扉の所で振り返るとお婆さんに別れを告げ、家を去るのだった。
キューラたちが去った後、一人老婆はニヤリと笑う。
面白い少女に出会ったからだ。
あのミィちゃんの元から戻ってきた。
ただの魔物ではない、元々魔王であった自分の護衛だったあのミィちゃんに認められたのだ。
そんな者はこの世でたったの二人しかいない。
一人は孫娘で今の魔王……そして今日出会ったばかりの少女だ。
二人の戦いはどんなふうになるのだろうか?
彼女はそう思いつつ笑い始めるのだった。




