451 ミィちゃん
「……どう、したの?」
俺ががっくりと項垂れるが、まさか……。
まさかファリスまで百合属性だったとは……。
俺はてっきり、元が男だっていうのを知っていたからだと思っていたが……それでも妹が出来たみたいで嬉しかったんだが……。
「と、とにかく今はネコの世話だ」
たしかリエールチとか言う魔物だったよな?
その魔物は何処にいるんだか……。
「おや、依頼は受けてくれるのかい?」
彼女の言葉に俺は頷く。
元々そのつもりで来たのだから……そうなるよな。
「甘いね……」
「さっきも言ったけどこの人が魔王って訳じゃない」
それにさっき話から察するに魔王を倒してもこの人は敵対しないだろう。
それが分かっただけでも十分だ。
「じゃぁ早速ミィちゃんの世話をしてもらおうかね」
ミィちゃん……名前は可愛いな。
そんな事を思いつつも、魔物であることを考えるとこの人はどれだけ強いのだろうと考えてしまった。
「それで、その子は何処に?」
チェルはお婆さんに尋ねるとようやく――。
「外に大きな小屋があってね、そこに居るよ」
大きな小屋?
そんなものあったっけ?
目立って大きな家はなかったはずだが……。
見落とすことはないと思うんだが……。
「そんな小屋ありませんでしたよ?」
クリエが正直に伝えるとお婆さんは笑い始めた。
嘘をつかれたというのだろうか?
「そりゃ見えないよ、あんた達は町から来たんだろ? この裏にあるからねぇ」
ああ、なるほど……家で隠れてただけか。
それなら納得だ。
しかし……大きな小屋……なんだか言ってて違和感があるが、そんな所に居るミィちゃんという魔物はどれだけ大きいのだろう?
「それで、具体的に何をすればいいんだ? ご飯と……」
「餌だろ?」
俺がわざわざご飯と気を使って言ったのにトゥスさんは餌という。
するとお婆さんの表情が変わり。
「ご飯だよ」
声が明らかに低くなった。
餌という言葉が気に入らなかったのだろう。
「へぇ……」
興味なさげだが……トゥスさん……動物を飼う人は餌という言葉を嫌う人が一定数居るんだぞ?
まぁ、トゥスさんの性格からして、餌は餌だろ? ぐらいにしか考えてないだろうが……。
「と、とにかく、そのミィちゃんのご飯は何処に?」
「おお、小屋にあるよ……」
小屋にある……か……。
どっちにしてもその小屋に向かわないとだめって事だな。
「それと、他にどんなお世話をすればいいんですか?」
「簡単さ、後はお風呂に入れて、風邪をひかないようしっかりと拭いてあげてくれるかい?」
クリエへの言葉にもどこか優しさを感じるが……トゥスさんへと目を向けると明らかに嫌そうな顔をしている。
うん、この人にとって餌という言葉は禁句だったようだ。
と、とにかく……ミィちゃんの世話をちゃんとすれば――。
「風呂? たかだか獣なら水かけておけば済むだろうに……」
「あんたは本当にエルフなのかい?」
「ごめんなさい、疑問はもっともですが、この人はエルフらしいです」
見事なまでの突っ込みに俺は頭を下げ謝罪する。
すると――。
「ちょっと失礼じゃないかい? エルフが動物嫌いで何が悪い、獣なんて臭くって知能が低い、まぁ……狩りでとれるのは食えるだけましだけどね」
ああ、うん……。
「トゥスさん、ちょっと言葉を控えてくれないか?」
このままだと依頼人がブチギレかねない。
そう思った俺は彼女に言葉を慎むように言うのだが、当然彼女は不満げだった。




