450 魔王……
たどり着いたのは大きな家だ。
そこの扉をたたくと――。
「こっちだよ!」
声が聞こえてきた。
どうやら窓からだ……。
「あの、依頼できたのですが!」
クリエがそう言うと――暫く声は聞こえなかったが……。
「本当かい!?」
という嬉しそうな声が聞こえてきた。
誰も来ない事から不安だったのだろう。
「入ってこの部屋まで来てくれるかい!」
彼女の声に俺達は返事をし、扉を開ける。
すると出迎えてくれたのは小さな猫だ。
猫は俺達を見るなり、興味がないとばかりにどこかに行ってしまったが……。
「あれ、だったらいいんだが……」
「違う」
わずかな希望はあっさりと砕かれてしまった。
それもファリスによって……。
「と、とにかくお婆さんの所に行こう?」
「そうだな」
部屋へと向かうとそこには老人がベッドへと腰かけ待ち構えていた。
そして、俺達を見るなり……。
「ほう、これはまた若いのが来たね」
「…………疑わないのか?」
嬉しそうな声に思わず俺がそう尋ねる。
何せこの魔大陸は実力主義だからだ。
「あ? ああ……酒場の奴は仕事がしっかりしてるからね」
なるほど……そういう事か……。
「いや、そうじゃなくてもあんたの目と髪……」
「ん?」
お婆さんはよろよろと立ち上がると俺の肩へと手をかけじっと見つめる。
そして、にっこりと微笑むと……。
「うんうん……孫そっくりだね」
「…………そ、そうか」
「ああ、そっくりだ……あの子はね魔法の天才と言われていてね。魔王の再来と言われているんだ」
魔王の再来?
いや、でも……。
「魔王は……」
いまこの魔大陸をどこかで納めている。
その筈じゃ……?
「ああ、そういや魔王になるとか言って出て行ってからね、帰ってこなくなったねぇ……先代を殺したんじゃないかね」
「…………」
つまり、この婆さんは俺達の敵の祖母って事か……?
なんか、やりにくい気がするな。
そんな事を考えているとガチャリという音が聞こえ、俺は反射的にそっちを見る。
そこには銃を構えているトゥスさんがおり……。
「トゥスさん!!」
「止めるな、魔王の親族は生かしておけない……」
「待て! 早まるな!! ファリス、魔王の名前だ! 名前が違えば――!」
婆さんにとってはショックな出来事かもしれない。
だが……それだとしてもここで無駄な血を流させるわけには――。
「魔王……ディア」
「おおそう、その名前だ……ディアは本当に素晴らしい孫娘でね」
笑みを浮かべている老婆に銃を突き付けているトゥスさんの指が動き、俺はとっさにその腕を抑える。
「キューラ!?」
チェルが叫ぶと同時に銃声が鳴り響き、ベッドの下を撃ち抜いた。
「何するんだい!」
「それはお前だ! 魔王が家族でもこの人には関係がない!!」
俺はそう叫び……婆さんを見る。
すると彼女は――。
「あの子を殺すつもりかい?」
嘘はつけない。
どうせ分かってしまう事だ……。
「ああ……」
「そうかい、頑張りなよ……あの子は強い」
「……何を言って……」
るんだ? だって今はっきりと――。
「何を呆けているんだい? あの子が死んだらあの子があんた達よりも足りなかっただけだ……悲しいけどね、実力主義なんだよ、この大陸は……知っててなお神大陸から来たんだろう?」
「……それは、分かってた。だけど家族だぞ!?」
俺の言葉に老婆は笑う。
「あの子はね、自分の強さを示すために両親を殺してる……それだって私は許したんだ。実力がすべて」
「……古い人の考え、頑固だからやっかい」
ファリスはそう言うと――。
老婆に近づきカマを取り出す仕草をする。
だが、仕草をするだけだ。
「ここで殺されても、自分が悪いって言うだけ……復讐なんて考えない、強ければそればすべて……魔大陸は狂ってるから」
自身の出身をそう言い切ったファリスは……。
「私は……ここが嫌い」
「そうかい? 私はだいすきだがね……」
にやりと笑う老婆。
だが、俺達は何も言えなかった……。
「ただ、覚悟しておいて……キューラお姉ちゃんは魔王なんかより強いから……」
「そうは思わないよ、甘すぎる……私の孫娘の方がずっと利口で残虐で強いからね」
…………彼女の自信はよっぽどの物だろう。
そう言って笑っていた。
って……まて……。
「孫娘?」
「そうだよ」
いや、まて……確かファリスと最初に出会った時……彼女はこう言っていたはずだ。
結婚してくれると約束してくれたと……。
「ファリス? どういう事、なんだ?」
なんか嫌な予感がし、俺は彼女に尋ねると彼女は頬を染め……。
「大丈夫、今はキューラお姉ちゃんしか、興味ない、から」
もじもじとしている彼女を見て確信した……この子もなのか……。




