449 家へと向かおう
「助かったぜ!」
彼はそう言うと笑みを浮かべていた。
そして、私に手渡してきたのは報酬だ。
「こいつは前払いの500ケートだ」
前払いは安いな……。
そう思ったが、特に文句を言う必要はない。
「それで、どこに行けばいいんだ?」
俺が訪ねると彼は地図を取り出した。
どうやら街の地図みたいだ。
「ここが大通り、こっちの小道を進んでだな……ここだ」
えらく外れた場所だが……。
まぁ凶暴な魔物を会っているなら仕方がないよな。
「分かった早速向かってみるよ」
仲間へと目を向けると先ほどまでの表情ではなく真面目な顔になっている。
仕事として受けたからにはしっかりとしてくれるのはありがたいが……。
「近づくのは俺かファリスだけだ」
そう口にし――続けてファリスにも忠告をしておく。
「ファリスは絶対に俺から離れるな、頼むぞ?」
「うん!」
俺の言葉に驚いて声を失ったのはクリエとチェルだ。
二人の訴えるような視線は痛いが……ちゃんとした理由だってある。
「クリエは何かあった時のために控えてくれ……、チェルはそもそも攻撃には向かないだろ?」
本音を言うとクリエは大事を取って後ろに下がってほしいんだが、それを言えばきっと怒るに違いない。
自分でもずるい言い回しだとは思うが、二人は渋々納得してくれたみたいだ。
「自分の得意分野ぐらい把握したほうが良いね、それじゃ行くとするかね……」
我関せずとトゥスさんは歩き始めて行ってしまった。
俺達は彼女の後を追いかけることになったのだが……。
「キューラちゃん……」
「チェル、悪いけど押さえてくれ……」
やっぱりチェルはトゥスさんの事が嫌いみたいだ。
まぁ、分からないでもない。
だが、彼女は必要だ。
とはいえ、この状況は良くない。
いずれチェルの方のストレスが溜まりきってしまうだろう。
それだけは避けたい。
「トゥスさん」
俺は駆け足で彼女の近くに行くと声をかける。
っすると彼女は――。
「分かってるよ、嫌われてるって言うんだろう?」
それ分かってて今の態度なのか……。
俺は呆れてしまったが……。
「それで良いんだ」
彼女は遠い目をしながらそんな事を言っている。
なんでそんな顔を……。
「良いわけないだろ?」
そう言うと彼女は首を横に振る。
「アタシは暗殺者だ……何人も殺してる。魔王を殺した後、あんた達はその人殺しを仲間だって胸をはって言えるのかい?」
彼女は真面目な顔だ。
だが、俺はあっけにとられてしまった。
彼女としては大事な事なのだろう。
いくら勇者を救う仲間であっても、彼女は一銭を超えていると言っているのだろう。
だが……。
「そんなことか?」
「なんだって?」
静かに怒る彼女へ俺はため息をつく。
まったく、なにを今更……。
「俺だって殺してる、人殺しだって言うなら同じだ……」
「あんたは――」
「クリエを守るためだ、だけどな……そんなのあくまで自分を納得させるための理由でしかない、彼女にとっても迷惑になってる可能性だって……いや、事実を知ったらそう思うはずだ」
優しいクリエのはずだ。
自分のために人が死ぬのは耐えられないだろう。
だが、それでもそれを知っても俺はクリエのために戦う。
必要なら命さえ奪う。
俺は自分のエゴのために戦う人殺しだ。
そんなことはもうとっくに納得済みなんだ。
「……俺は後悔しない、最初に自分の意思で命を奪ったんだ……彼女を守るという言い訳を盾に……だから、俺は……それを貫かなきゃいけない」
「そうだね、だからあんたは――」
「だけど人殺しだ。正義だの悪だのなんて結局は立場が変われば逆転する。今の俺達は悪だ……魔王を倒したら正義? だから人殺しは連れていけないなんて言うんなら、そんなの仲間なんて言う資格がないだろ」
そうだ。
俺はそんな事でここまで一緒に来てくれたトゥスさんと別れるなんてごめんだ。
「…………自分で何を言ってるのか分かってるのかい?」
「分かってるさ、俺もトゥスさんも根っこはクリエを助けるためにやってるんだ……それで仲間を見捨てるつもりはないって言ってるんだ」
恐らく俺達の話はチェルには聞こえていたのだろう。
複雑な表情を浮かべていた。
クリエにも聞こえただろうか? 不安に思いつつ彼女を見るとどうやらファリスが気を使ってくれて聞いてなかったみたいだ。
その事にほっとしつつ、俺は前へと目を向けるのだった。




