44 翌朝
目を覚ましたクリエにキューラは新たな従者の候補の話をする。
しかし、クリエはこれに反対。
その理由も正当なもので、キューラは反論の余地が無く一旦チェルの力を諦める事とした。
一旦、従者の話を置いておくことにしたキューラは翌日、クリエの体調次第で王との謁見に向かう事を提案したのだった。
翌日――
「クリエ、大丈夫そうか?」
食事の途中、俺はクリエへと尋ねる。
チェルの魔法のお蔭か、顔色は悪くないみたいだ。
しかし、昨日あんなことがあったばっかりだからな、疲れてないとは限らない。
そう思ったのだが――
「はい! すっかり元通りですよ」
笑顔でそう言ってるが、本当に大丈夫だろうか?
「無理してないか?」
参ったな、俺はこんなに心配性だったのか? そう思いつつも聞いて見ると――クリエは変わらない笑顔で頷いた。
「そうか……」
心配ではある、だが彼女が意見を変えない以上、従った方が良いだろう。
俺は従者……従う者だ。目的はちゃんとあるが、表面上はそれで良い。
その理由は恐らくこの世界の貴族、王族ってのは勇者の命を尊いとは考えてない。
もし、俺の考えがばれた時――その時、俺はクリエと離れ離れにされてしまうかもしれないんだ。
そうなったら、現状では助ける手が無い。
奥の手となったあの魔法だって両腕を犠牲にする……チェルが居れば何とかなるかもしれないが――それでも長時間使う事は無理だな……腕が炭になる……
「キューラちゃん?」
「いや、なんでもないよ。なら今日は王城へ向かおう――」
俺は不安そうに俺の顔を覗き込むクリエにそう言うと再び食事へと手を付けた。
あの謎の魔族にも言われた事だが、誓った以上は守ってみせる。
「そ、そのキューラちゃん?」
「なんだ?」
遠慮がちに名前を呼ばれ、俺は首を傾げつつクリエの方へと向く――
すると彼女はもじもじとしており、何処か艶っぽい表情だ。
思わずどころじゃなく俺の心臓は正直になり始めると――
「ふ、服を――」
「欲しいのか?」
そう思って訊ねた所、彼女は首を振り――
「す、好きな服を着てくれるって言いましたよね?」
「あ……ああ……」
そう尋ねてくる彼女の顔、というか勇者の証である黄金の瞳は怪しく光り、女性らしからぬ荒い息と表情を浮かべていた……すっかり、忘れてたよ……
そう思いつつ、俺は瞳をライムの方へと向け――
「オウジョウニムカウマエニ、リンゴカッテヤルカラナ」
言いようのない恐怖にぎこちない話方になりつつも、必死にライムの方へと視線を縫い付けた。
「どんな服を着てもらいましょうか、うへへへ……」
こ、こいつ……すっかり元通りだ。
「そ、そうでした。後もう一つ」
「なんだよ……」
変な事を言ったら速攻で断ろうと思いながら再びクリエの方へと向くと彼女は先程までの情けない顔ではなく、真面目な顔で――
「チェルちゃんが私を治してくれたんですよね? お礼を言いたいのですが……」
「そういえば、昨日出て行って、後でカイン二人で部屋に来てくれることになってたんだけどな」
チェルが来ないって事はカインも戻ってないのか? あの二人どうしたんだ?
来ると言った以上、チェルが理由も無しに約束を違えるなんてことしないだろう、とすると……
「昨日は病人や怪我人が多かったみたいだし、疲れて寝てるのかもな」
何せ彼女はクリエだけではなく俺やトゥスさんまで治しているんだ。
疲れていてもおかしくはないし、魔力痛になっているのかもしれない。
「謁見の後に様子を見に行こう」
「そうですね、私もちゃんと本人伝えたいので」
彼女は恩人だ、例え従者に出来なくともお礼を言うのが筋だろう。
できれば、勇者を救った偉大な治癒魔法使いなんて肩書も与えられるのならそうした方が良い。
その方が彼女達の旅にも役に立つだろう、まぁ、そんな肩書が無くともチェルの治癒魔法は上級、蘇生並みの魔法なんだけどな。
「じゃぁ、食べ終わったら早速向かいましょう」
「ああ!」
俺達は食事を済ませると旅館を後にした。
目指すは王城……今度こそ本当に王様との謁見だ。
しかし、あの門兵の様子から見て王様はどっちだ? やはりクリエを物扱いするのだろうか?
もし、もしもそうだとしたら、俺は怒りを表情に出してしまうだろう……
そうじゃない事を祈るしかないか……
そう思いつつ、俺はクリエの横に並び大通りを歩く――ライムはと言うと俺の肩の上で先程買った林檎と格闘中だ。
やっぱり、可愛いなこいつ……安全だと分かっていると言うのもあるが、必死に林檎を丸呑みしているのはどことなく愛嬌がある。
そんなライムから目を離し辺りを見回してみる。
すると目に入ってきたのはあのしつこいナンパ男だ。
彼は俺を見つけるとすぐに笑顔を浮かべたのだが、横に居るクリエを見て焦ったように去って行った。
「ん? どうしたんでしょうか? キューラちゃんを見てたようでしたけど……」
「き、気にするな、な?」
もしかして、勇者だと気が付いて……その連れに手を出した事に怯えたのか?
なんにせよ、この様子だとクリエが横に居てくれれば、ああいった連中は追っ払えるのかもしれない。
なんか、複雑だが……はは、ははは……
俺は乾いた笑いと共に視線を動かす。
「ん?」
すると別の者と人が目に入り、俺は其処へと注視した。
「あれ? あそこって確か誰も居ませんでしたよね?」
そう、そこには誰かが居たのだが、クリエと共に来た時には居なかった。
だったのだが、今は人が居る。
彼は商品には目もくれず何かを忙しそうにしていたのだが――
「そっか、良かった」
「良かった? どうかしたんですか?」
「……多分今日中にはできてるだろう、その時に話すよ」
そこに居たのはあの焼き鳥屋の店主。
彼が取り付けていたのは恐らくは精霊石だ。
本当に良かった……看板もそのままだし、どうやら焼き鳥を諦めた訳じゃないみたいだ。
帰りには食べごろになっている事を祈りつつ、俺はクリエと共に王城へと一歩一歩近づいて行くのだった。




